4-3 お義姉様の審判は遠慮がなさすぎる(3/3)
「アリスちゃんとしては、そういう……過去に女性遍歴がある男は生理的に受け付けないなぁ、とか。そういうのあるの?」
「えっ!? いや……それって私がエド様とどうこう、っていう話……?」
「あーいや例えばの話。それがエドゥアルト様だとは言ってない私は。ね?」
いやどう考えてもこの話の流れはエド様の話じゃん!! って睨んでもどこ吹く風なんだよなあ、お義姉様はそういう人だよ……知ってたわ……。
「で、どうなの?」
「いやまあ、う~ん……。そりゃ、もちろん気にならないわけじゃないけど……。でもなぁ、過去のことをわざわざ掘り返して色々言っても仕方ないかなっていう気もするし……」
別に、過去に女の人と付き合ったことの絶対ない人、そういう清い人としか結婚したくない! みたいな理想はないよ。自分はそんな潔癖ではない……と、思う。
例えばエド様が過去の恋人の話を持ち出してきたり褒めたりしたらって想像したら……う~ん……それはちょっと、な~んか腹立つな? ってくらいかな?
「ふむ。じゃあ今現在ちゃんとアリスちゃんだけ見てくれているならそれでよし、って感じかな? 確かに過去より未来だよね~。……ま、若い頃浮ついてた男が結婚して奥さん一筋になった……みたいな話が世間とか社交界の印象としては逆にプラスに働いたり、なんてこともあるしねぇ。≪不良が捨て猫を拾う現象≫だよね」
どういう意味? って顔をしていたら教えてくれた。普段評判の悪い人が急に優しいところや真面目なところを見せると、ギャップもあって株が急上昇する……みたいな話の例えらしい。
「……それに世間知らずで潔癖の高位貴族に見初められて変な執着されたりするくらいなら、ある程度世間や女を知ってる年上に任せるっていうのは確かに逆に全然アリの選択肢だね。女に妙な幻想抱いてる輩におかしな理想とか押し付けられたりしてみな? それはそれでまたすっごい面倒だよ~?」
いや、私もたまに『歯に衣着せぬ言い方するよね』って言われるけど、ティナお義姉様もまあほんと大概だと思う。
というか多分ね、そもそもが私のこの性格、ティナお義姉様の影響がかなり大きいと思うんだけど。
しかし『世間知らずで潔癖の高位貴族』なぁ……誰のこと言ってるのかなぁ……。世間知らずかどうかはおいておいて、潔癖っていう言葉で若様兄弟の二人を思い浮かべてしまうけどね……ゼノン様はまあ割とそのまんまそんな感じだし、イヴァン様も女性の好み的な意味では……。ほら、理想があのクラリス様な人でしょ? ……まあ、ねえ。…………うん……。
ただね……世間知らずの方に関して言えば、ティナお義姉様から言わせればこの世界のほとんどの人が世間知らずだと思うよ。
「アリスちゃんってホラ、基本的にヘタレっていうか……ダメ男好きじゃん?」
「……今度は何の話? また突然、藪から棒に……」
ほんと、お義姉様は会話の話題がポンポン飛ぶんだよなあ。彼女の頭の回転の速さに私がついていけないだけなんだけどね。彼女の頭の中では論理は繋がってるんだよ、それが飛び飛びに出てくるだけ。
私は慣れてる……というか、お義姉様が私に慣れてるからそれでも大丈夫だろうって素で話してくれてるからでもあると思う。他の人相手だともう少し気を遣ってもっとわかりやすく話すみたいなんだけどね。
それが困るような、嬉しいような……。複雑な気持ちだよ。
「いやいや、現実の話じゃなくて創作の話だけど。アリスちゃん、これまでハマってた小説の歴代推しのこと思い出してみなよ。基本ヒロインとくっつくイケメンヒーローじゃなくてさ、そのイケメンに競り負けるとかサブキャラの女の子とくっつくとかのちょっと情けないダメ男が好きじゃん。ヒロインに尽くしてたけど結局想いを遂げない従者とかね」
「あ、ああ〜……、うん、そうだね…………」
うーん否定できない。というか、自分のことをこれだけ知られてる相手にそう言われるともう何も言えない。
「それがそのまま現実の恋愛に結びつくかと言われるとまあ必ずしもそうではないだろうけど、傾向がある可能性はある。でもって、アリスちゃんは根っからの善人で世話好きでしょ? 下手なダメ男に頼られてすがられると、多分見捨てられなくて尽くしちゃうだろうなって」
「ああ……ええ、うん……。……そう……?」
……うん……なんかねえ、ちょっとだけ思い当たるところがあるのが、ほんと嫌なんだよなぁ……。
「まあ、つまり私はアリスちゃんが一方的に≪ケア要員≫にされて搾取されるような、そんな相手に捕まるのは我慢できないって話なの。もしそんなことになるくらいなら、その時は私があなたを攫っていくから覚悟しておいてね」
「攫っていく……って、どこに?」
「うーん……まあ、同性婚の許される国まで駆け落ちするかなぁ〜ただそうなるとクロード君は置いていくことになるよね~?」
「いやいや、だめでしょ! お兄様はあれだけお義姉様大好きなんだよ!? 見捨てていくとかさすがに可哀想すぎるよ!!」
というか多分、なんかあの人はお義姉様のこととなれば地の果てまででも追いかけて来そうな気がするしな~……。すっごい笑顔でね。
お兄様……あの人も大概、愛情の方向性とか執着の仕方がちょっと人とずれてるからなぁ……。
「うんうん、じゃあ同性婚も重婚もできる国まで三人で駆け落ちするか! 同性婚か重婚のどっちか可能な国ならそれなりにあてがあるんだけど両方ってのはなかなか少ないんだけどね〜。ま、そこでアリスちゃんもクロード君も二人とも、……まとめて俺の嫁にしてやるよ……!」
……うん、そんな荒唐無稽なことをキメ顔で言われてもな。一人称変わってるじゃん。
冗談とはわかってるけど、それにしても発想が斜め上すぎるんだよ。
「どうだった? 私の渾身の≪テンプレイケメン≫口説き文句! ねえねえドキドキした~?」
「…………二十点」
「うはっ、厳しいなぁ!! まあ、≪俺様系≫はアリスちゃんには刺さらないか~知ってた! ……でもさ~、反応があまりに冷たくない? アリスちゃんこそ私に初めてプロポーズしてくれた本人なのに?」
「ちょ、ねぇ、そのさぁ! お兄様もだけど、そんな小さい頃の話をずっと引っ張るのなんなの、ほんとに恥ずかしいんだけど!?」
「ええ~? だって、すっごく可愛かったんだもん……。『ちなたん、あたちとけっこんちて!』って上目遣いで真剣に言われた時の私の気持ち、わかる? はぁ~法律が私たちに追いついてなかっただけで、そうでなかったら迷わずあの時点でアリスちゃんを私のお嫁さんにしたのに……」
いや……法律的に可能だったら私たち結婚してたの? 子供同士の同性同士で?
法律だけじゃなくて倫理も追いつかないとダメだよ。ダメです。
「ま、おふざけはそれくらいにするとしてもね。多分そのエドゥアルト様とやらも話を聞く限り、これまで≪メンヘラ女≫の≪ケア要因≫させられてたクチだろうねえ〜そういう意味でもアリスちゃんとは気が合うかもしれないよ。少なくとも、一方的にアリスちゃんが世話して尽くして……って感じにはならないと思う」
エド様、世話好きで従弟や妹に慕われてるものねえ。
そんな感じで私もお世話してくれるのかな……? いや、なんかそれは嫌だ。というかこう……お世話するとかされるとかしないとか、そういうんじゃなくて……対等な関係になりたいよね。
なんとなく今浮かんだだけのことで、具体的じゃなくてフワッとした感情だけど……。
「とりあえずそのエドゥアルト様の評判についてはもう一度情報網をあたって洗いなおしてみる。取引先に情報通の貴族も何人かいるから、任せておいて!」
「え。でも……まだ、その。さっきも言ったけど、私……エド様とどうこうっていうつもりではないんだけど……」
「アリスちゃんの方はまだ気持ちとか自覚が追いついてないかもしれないけど、向こうはどうかなあ。確実に気に入られてはいるでしょ。これだけわかりやすくアピールされてるんだからさすがに無下にはできなくない?」
お義姉様は目線で花瓶の方を示す。ピンク色のチューリップ……まあ、私の髪の色だよねえ……それもあれ、今の季節の花じゃないからさ、多分温室とかで育ててるやつだよ。ってことは、わざわざ花屋で買ってきてるやつだよねぇ……少なくともその辺でついでに摘んだとかではない。
まあ、なんでもない相手にそこまでしないよなぁ、というのはさすがに私だってわかるよ? わかるけど。
「逆に、まったくその気がないなら早くそうきっぱりと言ってあげた方がいいと思う。その方が相手も助かるんじゃないかな。実際アリスちゃんは、こういう……お花贈ってくれたりして、気にかけてるよって意思表示してくれてるの、迷惑に感じてる?」
「…………そういうわけでは、ない。多分……」
「うんうん」
「どっちかいうと…………嬉しい…………かな?」
そうなんだよね……夜会の日、私のためにもう私とは接触しないつもり……と言ってくださったのを遮ったのは私だもの。もしあの時私が納得して『今後もうお互い接触なし』ってことで話が進んでいれば、多分こうやってお見舞いに来たりはしなかったはず。
つまり、これってエド様が『もう接触しないっていうのは撤回して、これからも君と関わっていくつもりだよ』って伝えてくださってるってことだよね? そもそもは私がそうお願いしたんだから、それが嬉しくないはずはないんだよ。
「……ふ~ん、なるほどなるほど。現時点ではまだまだだけど、そのエドゥアルト様の今後のがんばりによってはあるいはあり得る、って感じかな~? ま、どっちに転ぶにしたって情報は集めておいて損はないと思うよ」
「でも、そこまでは……。…………う~ん、どうしよう……」
「まあまあ、たまにはお義姉様に頼ってくれてもいいんじゃない?」
「それは……うん。じゃあ、お言葉に甘えてお願いしようかな……」
「よしきた!! 任されたよ~! ちょうど王都にいるわけだし、ご機嫌伺いがてら得意先を色々回ってみるかな~!」
ティナお義姉様は、情報が集まったらまた何らかの方法で伝えるね~と言い残し、イロンデル商会の迎えの馬車へと乗って颯爽と去って行った。
ほんと、昔からそうだけど行動力もあって存在が嵐のような人だよねえ……。そこが彼女の面白いところなんだけど。




