4-3 お義姉様の審判は遠慮がなさすぎる(2/3)
結局私は、リーノ様に婚約を打診された辺りからハチに驚いてすっ転んだこと、それからエド様に助けてもらって、リーノ様はフェリシア様と一緒に会場へ戻ってしまって……更にエド様が色々と話してくれたこれまで私と接触しなかった理由まで……気づいたら全部洗いざらい話していたんだよ。
そこまで話すつもりじゃなかったのにな、おかしい。まあ、ティナお義姉様がいい意味でエド様とかリーノ様とかの辺りの人間関係に絡んでないから、外野の人だから、ね。話すことにそんなに抵抗がなかったからでもあるのかな。
それにもしかしたら私自身が、無意識に誰かに共有したい、話を聞いてもらいたいって思ってたのかも。昨日の夜会、短い時間だったのに本当に次から次に色々と濃いことが起こったからなぁ……。
「は~……。なるほどね~。そんなことに……なるほど、騎士団長リュード侯爵のとこの子息か……。ふ~ん……」
「あの……お話中、失礼いたします」
「あれ、どうしたんですか? 何か急用ですか?」
ドアのノックの音に目線を上げると、うちの家の執事が扉から顔を覗かせていた。
「いえ、それが……先ほどリュード侯爵子息様がいらっしゃってこちらをいただきまして……。お嬢様にお会いになりますかとお尋ねしたんですけれど、来客中なら結構ですと……これだけお渡しくださいと玄関先ですぐお帰りになってしまわれて……」
後ろから来た従僕が、花瓶の花を生け変えている。淡いピンク色のチューリップを主役に、その周りに鮮やかな黄色のミモザが散る可愛いらしいブーケだ。
ちなみに、この家は普段クロードお兄様しか生活してないから侍女を雇ってない。なので私は今自分で着替えのできる寝着みたいな服しか着てないよ、療養中だから家から出ないしね〜この家でお仕着せ着るわけにもいかないし。
あ、お母様が領地からこっちへ来るときは侍女も一緒に移動してくるよ。更にちなみに、公爵邸くらい規模が大きいと女性のお客様もたくさん来たりもするし若様しか住んでなくても侍女を雇ってるみたいだけどね。
「エド様が? そうなんですね……」
「あら、正に噂をすれば……ってやつかな?」
「では、復帰してから職場でお礼を言っておきます」
「お引止めしなくてもよろしかったでしょうか?」
「う~ん、どうでしょうか……? まあ、本人が帰るって言ったのであればあまりしつこくお引止めしても逆に失礼だと思いますから、大丈夫だと思いますよ」
「そうですね……。ああ、お嬢様のお怪我の様子についてお尋ねでしたので、お医者様の見立てでは快方に向かっていておそらく予定通り復帰できるでしょう……とお伝えしておきました。公爵邸の皆さまにもその内容をお伝えくださるとのことです」
「わかりました。対応ご苦労さまです」
「とんでもありません。それでは失礼します」
執事と従僕が部屋を出ていくのを見送って、花瓶を見て……それから、ティナお義姉様の視線に気づく。
「……なるほど~。これはまあ、ただの同僚ではないな……少なくとも向こうはそう思ってなさそうだよねえ」
……すっごいニヤニヤしてるなぁ。もう、目がアーチみたいな形になってんじゃん。
「……そういうのじゃないから」
「ふふ、でも、私が来てなかったら、直接花束を渡しに来たのかな? それはそれでその場面すごく見たかったけど……どんな表情で渡すのかなぁ~? ふふ、なるほどなるほど」
「だ~から、そういう話じゃないんだってば、エド様は多分……何かのついでに寄ってくれただけで……」
「アリスちゃん、気づいてる? 執事さんがリュード侯爵子息様って名前出した瞬間顔がぱっと嬉しそうになって、そこからずっとほっぺたゆるゆるだよ~」
「えっ!? え、嘘!?」
「無自覚かぁ~」
思わず両頬を手で押さえる私を見てお義姉様はまた可笑しそうに笑った。
え~全然そんなの自覚なかったけど、いやでも確かに……嬉しい、は、嬉しい。少なくとも、迷惑じゃない……。
エド様がこの花束を持ってきた姿を想像して、顔を思い返すと……あれ、なんかちょっと顔が熱い気がするな……? え~なんだこれ、どうしよ。どうしたらいい?
「まあまあ、まあまあまあ。いいんじゃない~?」
「な、なにが!?」
「さあ、なんでしょう?」
ケラケラと笑いながらも優雅な所作で、お義姉様は一口紅茶を口に含んだ。
「……ただまあ……リュード侯爵子息……エドゥアルト様、だっけ? 確かに、女性関係での評判はあんまりよくなかったはずなんだよね〜……」
お義姉様は小さな鞄から手帳くらいの本を取り出してぱらぱらとめくり、ちょっと顔をしかめた。
あれは、ユルンベルクの貴族名鑑かな。確か、色々と書き込みがしてあったはず。お義姉様のこの国での社交の虎の巻ってとこかな。
「あぁ、そうなんだ……まあ、本人も自分で言ってはいたけど、そういうことかなぁ」
「本人が……? あ~……公爵家子息兄弟のために動いてたってやつのこと?」
そう、それで色々と女性の対応をしたり気に入られたり言い寄られたりで大変だった、と。それのせいで自分の評判が悪いから、私とあまり接触しないようにしてた、みたいな話だった気がする。
「まあ……アリスちゃんに言ったことのほとんどは事実なんだと思うよ。ただねえ……、まったく手を出してないって言った? 正直そこはちょっと……怪しいかなぁ~」
「え、どういうこと?」
「全く火のないところには煙は立たないもんだよ。……いや、言い寄ってきた全員を節操なく片っ端から入れ食いってことは、まあ……さすがにないだろうけど。それでも、何人かには手を出してると思うしある程度美味しい思いはしてるんじゃないかな~」
「……はぁ~そういうもんなのかなぁ」
「数がいりゃ、その中に何人かは好みの子もいるでしょうよ。その人の好み知らんけど」
ティナお義姉様自身は、別に私よりものすごく年上だとか人生経験が豊富というわけではないのだけど。ただ私よりも国内外に人脈が広くて、色んな立場の色んな人たちと打ち解けて話を広げるのがとてもうまい。いわゆる『コミュニケーション強者』というやつだ。
そこで得たたくさんの人の経験を情報として取り込んで、それを思考の材料に落とし込んでるんだよね。だから自然にそういう発想が出てくるのかも。
本人は、『下衆の勘ぐりと言われたらまあそうなんだけどねえ~』と笑っているけど、こうして私にはない視点で物の見方のヒントをくれること自体、正直実際にかなり助かっている。
「こうやってお花を贈って来る辺り気も利くし、話しやすくて優しくて親の爵位も高くて≪実家が太い≫んでしょ、そりゃまあ話を聞く限りは高身長の超イケメンじゃなくてもそれなりにモテるかもなって印象ね。見た目は?」
「……すごく美形というわけではないかな、背も本人は低いって気にしてるみたいだし。でもこう……目がぱっちりしてて、ちょっと若く……いや、幼く? 見える感じの……」
「ああ、なるほど。それはまた……それはそれで一定の需要があるやつだ……」
「一定の需要。……って、何」
思わず真顔で聞き返しちゃったよ。
「……いや、そのね。なんていうか特に年上にはモテそうだよね……でも本人の好みは、年上じゃあなかった……ってことなのかな~?」
いや、そこで私の顔を見られても何と答えていいのやら困るよ。そりゃ私はエド様より年上じゃないですよ。そういう意味?




