4-2 なんだよこいつめんどくさすぎる(3/4)
「エド様は……さっき私たちの後をつけてきたということ自体は自白しましたが」
「うん。そうだね。しっかり自白させられたね」
「私たちの会話の内容は聞こえていなかったんですか?」
「そうだね……そこまで近い距離でついて来てたわけじゃないからな……。ハチが出てくる直前、東屋の手前だったから二人とも少し立ち止まってたでしょ。だからそこでちょうど追いつけた感じで」
「なるほど……。もし、ですけど。リーノ様が、私に対して婚約の打診をしているのがわかったら、エド様、話に割って入ってきましたか?」
「……ええ〜? ……う〜ん、それは…………どう、だろうね……。難しいな……。実際俺が今日ここに来た目的は、アリスちゃんに変な男が言い寄って来ようものなら追い払うつもりだったわけだけど……。俺が警戒してたのは、アリスちゃんのことをちゃんと知らないまま身分や肩書……つまり、フィッシャー伯爵の娘だからとかクロード様の妹だからとかの理由だけで寄ってくるようなやつを想定してたからなぁ~」
あとアリスちゃんは見た目もすごく可愛いからそっち目当ての可能性もあるけどね! とか、そんな社交辞令を笑顔で言われてもなあ。
「そういう意味では、リーノ様は変な男ではない、ということですね」
リーノ様は私個人のこともご存知だし、そもそもクロードお兄様ともう親友だしねえ。
「そうだねぇ。変か変じゃないかと言われたら、変な人ではあるけどねぇ」
「……そ、そうですね……」
やめてください、不覚にもちょっと笑っちゃったじゃないですか。言いたいことがわかるだけにさ!
「変というか……しゃべり方とか感情表現とかがちょっと独特ですよね。話してみると、悪い人ではないんですけど」
「そうだねぇ……確かに、癖はかなり強いよねぇ……。でも親密になれば、それも味があるって程度の個性に思えるかなぁ?」
「ああ……確かに。それはそうです」
表情筋がほんとに死んでるのが最初はちょっと怖かったけど、今はなんとなくだけど気分とか機嫌もわかるようになってきた気がする。
ずっと不愛想だけど別にずっと不機嫌なわけでなくてね、普通に冗談とかも言うんだよ。慣れると話すの結構面白いんだよね、淡々と冷静に話してるように見えてたまになんかちょっと天然かな? みたいな面白い返ししてきたりもするしね。
「研究員技官としての職務も特別優秀につとめていらっしゃるよね。アリスちゃんのお兄さんと彼が親密ってのも関係あるんだろうけど、彼とアリスちゃん自身も結構打ち解けているみたいだし。その上で二人がお互い納得して婚約するのであれば……俺がどうこう言う立場じゃないもんなぁ~」
「…………そうかぁ、そうですよね……」
あれっ。う~ん……なんとなく、その答えにはもやもやするな……。
んん? 私、もしかして、この人にリーノ様と婚約するなって言ってほしいのか……? それこそこう……少女小説のイケメンが言うみたいにさ、『あいつじゃなくて、俺にしとけよ……』ってやつじゃないけど、さ……。いやぁ……ねぇ……?
そんなわけないと思いたいんだけど、じゃあこのもやもやの正体は一体なんなんだろうね。
「少なくとも俺がどうこうってのはないでしょ? 今の俺って、アリスちゃんにとってはただのよくわからない気持ち悪い男なわけだし」
「いえ、そんなことはないですよ……これまでの接触の機会は確かに少なかったですけど間違いなく同僚ではあるわけですし、ただの気持ち悪い男ではないですよ」
「それでも気持ち悪いことは否定しないんだね」
「あっ、ほんとだそこ否定できてなかった! すいません、ここまで色々話を聞いて今はもうそこまで気持ち悪いとは思ってないです! ほんとです!!」
「ふふ、ごめんごめん。ありがとうね、でもそんなに必死に言ってくれなくてもわかってるから大丈夫だよ!」
エド様は可笑しそうに笑いながら、そのトーンのまま言葉を続けた。
「今日は長い話、聞いてくれてありがとうね、楽しかった。でも、今後はまた接触しないように気をつけるからさあ。なるべく、変な迷惑はかけないようにするつもりだから」
「えっ」
「あ、もちろん挨拶とかは普通にするからね! そうじゃないとさすがに感じ悪すぎるでしょ? そういうの以外はなるべく話しかけないようにするつもりだから、安心して」
「そ、それは……その、そうです、ね……」
ええ……なんかそれは、寂しい、かも。それにさっきから謎のもやもやした気持ちがずっと続いてるんだけど……これ、何?
「ん? なんかはっきりした返事じゃなかったな……でもね、聞いて。ほんと俺なんかと関わっても何もいいことないよ、それは確実だからね」
「…………でも、うう~ん…………」
うーん……だめだ、やっぱり納得できない! エド様が言ってること、理屈はわかるよ。でも感情がね、なんか違うって言ってる。その言葉に素直に『はいそうですね』って頷くことができないよ。
私が黙ってしまったのを見て、私の顔を覗き込んだエド様は苦笑いして……ふと、急に一転サッと真剣な表情になった。
「……あっ、待って。これはまずいな失敗したかもしれない」
「……え?」
失敗? 失敗って何のことだろう。
「あのさ、アリスちゃんてさ、それまで全然知らない人でも身の上話聞いたりしちゃうと最後、情が湧いて好きになっちゃうタイプじゃない……!? 根がほんとに優しくていい子だからなんだと思うんだけど。ほら、ゼノンのエングリーン語の勉強手伝ってたときとかさ、結構そんな感じだったでしょ?」
あぁ、……確かに。これまで自覚なかったけど、言われてみればそれはあるかもしれないなぁ。
「あっあっ、この場合の好きは広い意味での好きね!! 親しみを持つとかそういう感じの!! 好感、好感ね!!」
「ああはい」
大丈夫です、それはわかってますよ。慌てすぎじゃない?
「その……違ったらほんとごめんって感じだしすっごく失礼なこと言うかもなんだけど、もしかして俺のことも……その、既に結構好きじゃない……? だから広い意味で、だけどね!?」
「…………あ〜……」
……うん、それはなんか、そう言われて腑に落ちるとこある。変な人だけど悪い人じゃないんだよこの人……。
従弟や妹にはなんのかの慕われてるみたいだしそういうのを色々知ってしまうとさっき『事情を知った上で改めて気持ち悪がる』とか言ってたのにさぁ、なんかもうそういう感じじゃないんだもんなぁ……。
「その……。アリスちゃん……」
そんなことを考えていたら、すごく深刻な顔でこちらを見て来たエド様と目が合った。
「…………悪い人とかには騙されないよう、ほんとに気を付けてね……?」
…………ねぇ、そこでそういうこと言う〜……?
すごく真剣な顔でまっすぐ見て来るから、俺のこと好きかとかそういう話の続きが来るかと思って構えてたのに……。私のこと心配してるだけなんかい!
やっぱこの人、多分普通にいい人なんだよね!? もーなんなの……。
がくりと肩を落とすと、今度はえっ、えっ? って慌てる。もういっそ、そっちから口説いてくれた方がマシだよ……それなら『バカなこと言わないでください!』って怒れるのにさー心配されてるだけなら怒ることもできないじゃん!
もやもやした気分だけがずっと胸にうずまいてて、ねえ、これ……どう処理したらいいの……?
でもね。少なくとも、この場限りでエド様との縁が切れてしまうなんていうのは……やっぱりなんか嫌なんだよ。




