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4-2 なんだよこいつめんどくさすぎる(2/4)

 なんとなく沈黙の時間が訪れる。

 夜会はもう進行してるんだろうなぁ、ダンスの時間は終わったかな? どんなお料理が出てるだろ……。

 ほんと、こんなに外に長くいることになるんだったら、何か飲み物とかおやつとかちょっと持ってくればよかった。今日は結局まだ乾杯で一杯飲んだくらいだよ……。こういうこと口に出しちゃうから、さっきみたいに色気より食い気だの、食い意地張ってるだの言われるんだよね~わかってはいるんだけどさぁ……。デザートもどんなものが出るんだろね……。食べられるかなぁ……。

 

 そんなことを考えながら顔を上げると、エド様と目が合う。

 蝋燭の灯りが当たると少し茶色に見える黒髪はブラックコーヒーみたいだし、ころんと丸くて大きい栗色の瞳はキャラメルかミルクチョコレートみたいだね。……そう考えるとなんか美味しそうなカラーリングだなぁこの人。

 

 私の視線を受けてそれが話の催促とでも思ったのか、エド様はもうひとつため息をついてから口を開いた。まさか美味しそうとか思われてるとは考えもしてないだろうねえ。

 

「とはいってもなぁ、う~ん……どこから話したらいいのかなぁ~……」


 エド様は、迷うように視線を彷徨わせる。

 

「……そうだなぁ。まあ、ゼノンもイヴァンもそれぞれいいところに収まったし、もうそろそろ俺もこの役目から解放される頃合いなのかな〜……」


 役目? 突然出てきた単語に、私は目を瞬かせる。

 

「俺ね、昔からあの二人狙いの女性たちに相談持ちかけられることがやたら多くてさ〜……。まあ、ほぼゼノンね。そうだねえ、比率的には……五人いたらそのうちゼノンが四人、イヴァンが一人……ってくらいかなぁ……」


 女性……? な〜んか不穏な流れになってきたぞ。これは……なんだか嫌な予感がし始めたね?

 

「ご存知の通り、ゼノンもイヴァンも婚約関係に問題を抱えてたでしょ。マトモな婚約者を据えたいなぁっていう意味で、カロリーナ叔母様たちがナタリアちゃんやアリスちゃんにそういう話を持ち掛けてたわけだけど……そういう、マトモな女性はこっちから願ってもなかなか来てくれないのに、逆に問題のある女性は向こうからわんさかと来るんだよ……」

「まあ……公爵家のご子息ですからねぇ……気持ちはわかります。一攫千金玉の輿ですよね」

「ああうん、そうそう。特に婚約が決まってないような若い令嬢だと、そういう子も多いよね~親とかに狙って来いみたいに言われてるだけの子。あとね、ゼノンの方はねえ、顔がね……。……そっちの方が正直面倒」


 ああ。顔がいいからねえあの人。令嬢本人が本気で熱をあげちゃってるパターンってことか。

 

「まずはあの兄弟を俺から紹介するとかそういうのは無理なんだっていうのを言葉を尽くして納得してもらって、その流れでまあ……、他にも何か困ってる? とか、親身になってあげるわけ。それで大人しく去っていく子ももちろんいるよ。ただ、なんか……イヴァンとかゼノンよりも、その……俺のことを好きになったとか言い出す子も結構いて」

「あ、ああ~……はい……」


 なるほどね……。≪どした? 話聞こか?≫ってやつだね。

 

「俺、この容姿でしょ。童顔だし体格も小柄だし、初対面であんまり警戒されないんだよね。で、気安く話してるとさ、いつの間にかこう……お慕いしていますエドゥアルト様……みたいな感じになるのホント毎回、なんでだと思う!? 俺にその気全然ないのにさぁ……」


 は~、ふ~ん……。すぐに気を許されちゃうわけか。でもまあ……もし誰にでもこれだけ馴れ馴れしいなら、そりゃ令嬢の側も距離感が≪バグる≫かもしれないね。

 エド様にそのままそう指摘していいかわかんないから言わないけど、ちょっと気持ちはわかるよ。

 

「相手によっては、なんかもうその前段階の辺りくらいの時点で俺と既に恋仲のつもりだったりする! 怖い!! それで俺にその気がないとわかったら今度は裏切られただの騙されただの、最終的に刃傷沙汰になったこととかもあってね」

「……それがリーノ様の仰ってた『大層おモテになる』っていう」

「そうだねぇ!!」


 やけくそかな。

 

「あ、言っておくけど……俺から起こすアクションとしては、本当に! 純粋に! 相談に乗ってあげてただけだからね! 俺自身がモテたいとかいう動機ではやってないから……こっちからは絶対に手を出さないようにしてたし……罠張られてたときもあったけど未遂でなんとか逃げたし……」


 未遂て。罠って。怖いよ。絶対詳しく聴きたくないやつ。

 

「未婚の令嬢に手を出したらアウトだからさぁ……?」


 うん。それはそう。

 

「……かといって未亡人ならいいってわけでもないんだけど……ハァ~……」


 …………未亡人? なにそれ、こわ……。

 

「ただ、ご存知のとおりゼノンはエングリーンへ行ってしまったわけだし。あっちでそういうなんか惚れた腫れたのごたごたはあるかもしれないけどそれはもう……本人にがんばってもらうしかないよね」


 一応ゼノン様がエングリーンの劇団へ行くに際して、これまで彼がそういった婚約や女性に関するトラブルに巻き込まれがちだったことについては団長さんに説明してあるらしい。その上で、ある程度の配慮をしてもらえるということになったはずだ。確かイヴァン様がそんなことを言っていた気がする。

 

「ま、今のところ稽古や語学の勉強で、恋愛に現を抜かす暇なんてないらしいけど」


 そういえばフェリシア様が、『兄がゼノンと度々手紙でやり取りをしていてその内容を自分にも教えてくれる』、って言っていたっけ。その『兄』がこのエド様なんだよね? じゃあ、国を離れたゼノン様にも、王都を離れてたフェリシア様にも、それぞれに結構マメに真面目にお手紙を送ってやりとりしてるのか……。

 さっきはイヴァン様とゼノン様のことを可愛い従弟って言ってたしなぁ、妹や従弟たちを気にかけているし慕われているんだろうねえ。……変な人だけど、いい人ではあるんだろうなぁ。…………変な人だけど……。

 

「イヴァンも、おそらくこっちへ帰ってくるときにクラリス様を伴って帰ってくるでしょ? で、多分、側に置いてべったりでしょ?」

「……っ、あぁ~……。想像できる……」


 絶対ゼロ距離で甘々なんだわ。

 なんかもう、こっちでも頭なでたりとか膝の上に乗せたりとか全然しそうだもんねあの若様なら。

 

「それを見せられたら、今後はもうイヴァンにどうこうって考えるような輩もいなくなると思うんだよね。だから……そうなれば俺もやっと一息つけるかな、って」

「なんというか……その……。お疲れ様、でした……?」

「えっそんなこと言ってくれるの? びっくりしちゃうよ、普通に気持ち悪がられて終わりだと思った!」


 ……この人、従弟二人の力になりたかっただけのおにいちゃんなんだな。根が善人で、世話好きなんだと思う。ただちょっと対女性の人心掌握スキルが高すぎた結果、多分本人も思わぬあらぬ方向に行ってしまっただけで……。

 いや、人心掌握がすごいっていうのはちょっと語弊がある。最初に掴むだけはやたら上手でもその後丁寧に扱ったり管理したり、ってのは多分下手なんだわ。

 なんていうか、こう……気の毒な人だね……。

 

「……それで、アリスちゃんとあまり関わらないようにしていた、っていう話に戻るんだけどさ」

「あっ、そうでした。その話の流れでしたね。すっかり忘れてました」

「……まあ、なんかそんな気もしてたよ……」


 私がすいませんと頭を下げると、エド様は苦笑いして軽くいいよ〜と応えてくださった。

 

「まあ単純な話でね。俺が社交界であまりに評判悪すぎるから……俺とあまり親しくしてるとアリスちゃんにとって悪影響だよね、って話」


 ……そうか。ずっとそういう動きをしていたら、特に女性たちのネットワークでは『リュード侯爵子息に捨てられた、そう思ってたらいつの間にかもう別の女と付き合ってる、かと思えばそっちもすぐに捨ててる、あいつはマジでクズだ』とか、そういう評判になっちゃってるわけか。

 ええ~……やっぱりなんか気の毒なんだけど。

 

「とはいえ、まさか実妹のフェリシアにまでそんな無類の女好きとか言われるくらいそういう認識されてるとは思ってなかったけど……なーんか気づいたら周りに女性が集まってくるんだもん、俺のせいじゃないもん、仕方なくない?」


 ……いや、それは仕方ないのか? そうなの? 全然仕方なくはないんじゃない?

 

「今日だって、そもそもイヴァンが俺に連絡をよこさなかったらさ、『自称元カノ』が何人も出没するような……俺の精神が試されすぎるこんな場所に来てなかったんだよ……ハァ~……」


 ため息が重たいな。……ああ、これまで色々と揉めた相手方が今日参加してるだろうってことね。それも複数人かぁ。

 それはまあ確かに針の筵でしょうよ、精神は相当試されるよなぁ……。

 大変ですね……。完全に他人事だけど。

 

「だってさ? 『アリスを夜会に行かせることになったんだけど、クロードならともかくリーノだとちょっと不安があるんだよなぁ~俺はまだエンテ領にいるから行けないし』ってこれみよがしに連絡してきてさ。いや、様子を見てきてくれ頼む、と言われてはないよ? でもそんなこと言われたら来るしかなくない?」


 ん? それってもしかして、エンテ邸からこちらに帰ってきてるタイミングだったら、若様が私をエスコートしてくださるつもりだったってことかなあ?

 

「リーノ様は俺との婚約を勧めていった辺り、そういう俺の評判とかには頓着なさってなかったみたいだけど……彼もあんまり社交界の、それも女性たちの間での噂には詳しくないだろうからなぁ、普通にただ、知らないんだと思う」

「そうなんですね」


 あ、それはわかる。リーノ様だもんね。そんな感じするね。

 逆に女性たちの噂話とかすごい詳しいリーノ様って想像するとちょっと怖いよね。

 

「まあ、そういうことでね。まだ邸の中でとかならともかく、外とかこういう夜会とかであんまり俺と親しくしてたりするとねえ、変な噂になったりしても困るし……。俺なんかのせいで未来あるアリスちゃんの評判に傷がつこうもんならねぇ〜そんなのあまりに申し訳ないから」

「う~ん…………? でも、エド様の評判が悪くなったのってつまりエド様が若様たちのために立ちまわってた結果なんですよね……?」

「それはまあそうなんだけど。でも俺の場合は自業自得な部分もあるからな〜!」

「え、う~ん……?」


 そうかなぁ……? それはちょっと違わない? 

 なんとなく私の中で腑に落ちないんだけどなぁ。

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