4-2 なんだよこいつめんどくさすぎる(1/4)
「それでは、僕はちょっと失礼させていただきますね。……ハチの巣のことについて騎士団へ連絡がてら相談してきたいので」
「あ、そうか。ハチがいるかもしれないから、その対応が終わるまではあんまり庭園に出ない方がいいかも、って参加者に知らせておいた方がいいよね」
「ええ。他の参加者が刺されでもしたら大変ですから対処は早めがいいと思いますし、可能ならば撤去や移設は薬学研究院に任せてほしいんです。……その辺りの事情も、できれば具体的に僕の口から伝えたいので」
「それだったら、隊長に話がしたいって会場警備の騎士の誰かにいえば対応してくれるはず。さっき会場で見たけど、今日の隊長はホルストさんだったし。あの人ねえ俺の騎士団時代の先輩なんだけどほんとすごく話がわかる人で、よっぽど無下にはされないと思うよ。なんなら俺の名前出してくれてもいいからね」
「わかりました。エド様、恩に着ます。……アリスさん、エスコートをお任せいただいたというのに途中で失礼することになり本当に申し訳ないです……。でも、今の状態のアリスさんを僕の個人的な仕事の話に付き合わせるために無理をさせるのも申し訳ないですし…………」
「いえ、私のことはどうかお気になさらず」
「ありがとうございます……本当に申し訳ないです」
笑って応えた私に、リーノ様は軽く頭を下げた。
というのも、さっき立ち上がったら足首に激痛が走ってあわてて確認したら赤くなって腫れててさ。どうもすっ転んだ時に足首を捻ってしまったみたい。とりあえずフェリシア様に応急手当をしてもらって、しばらくしたら貼り薬が効いて痛みがマシになるはずらしいからそれまで様子見かな。貼り薬をお持ちだったのはリーノ様だけど手当してくれたのはフェリシア様ね。
だから今すぐ会場に戻れないんだよね……。
リーノ様は別れ際、改めて私に確認をとってくださった。
リーノ様と私が婚約する話については、焦らずゆっくりと考えてみてほしいこと。私にもっといい条件の人がいれば気にせずこの話はなかったことにしてくれて構わないこと。加えてリーノ様ご自身も他にも候補を探すことになるので、もし別の相手と話がまとまった場合は了承してほしい、なんならいい相手がいたら紹介してほしいとも言われた。
それはもちろんと快諾したよ。私だけリーノ様をキープさせてもらうとかそんな立場じゃないからねえ。対等でかつ公平で、すごく妥当な話だと思う。
「……あ! まずい、フェリシア、リーノ様を追いかけて!!」
「え? ああ、そうね! 彼をお一人で行動させたら大変なことになるわね……わかった、博士については私に任せて」
フェリシア様は真剣な表情でうなずいて、慌ててリーノ様を追いかけて行った。
大変なこと? ってなんだろ……。
「あー……その、ね。リーノ様も注目を集めてたって言ったでしょ? 彼が一人で行動なんてしてたら、多分令嬢たちに囲まれて一歩も動けなくなるんじゃないかな……。フェリシアが横にいればまあ牽制にはなるでしょ、俺たち一応これでも父親が侯爵だから。普段は家の爵位高いとめんどくさいことの方が多いんだから、こういう時くらいは自分たちに便利に身分を使わせてもらうよ」
なるほどね……。で、フェリシア様が行ってしまわれた結果、今、私はエド様と二人この東屋に取り残されたんですけどね……?
「その……なんかごめんね……?」
「……いえ、二人になってしまったのはエド様のせいではないですし……」
「いや……そのことじゃなくて。フェリシアにもちょっと突っ込まれたけどさ。結果的にだけど、俺がアリスちゃんのことずっと避けてたみたいになってたのは事実だからさあ……そのこと」
「…………え? 私のこと避けてたんですか?」
「…………うーん、そうだね、それ否定できないから困ってるんだよなぁ……でもね、一応その……理由というか事情はあってね……」
「……はあ」
「だから今、いきなり一対一で話すことになってすごく緊張してるんだけど……ほんとなんなんだろね、この状況……どういうこと……?」
……あの、それはどっちかいうと私の台詞ですけど。
エド様、顔を両手で覆っているけど、覆えていなくて見える耳がすっごく真っ赤になってる。
「一応ね、君のことは邸に来た当初から……ご領地の事情とか邸に来た経緯も知っててね。すごくがんばってるなー感心だな~って、影ながら見守ってはいたんだよね……」
「ええと……あの。怒らないで聞いてほしいんですけど」
「うん、なに?」
「その……自分が存在をあんまり認識してない人になんか勝手に気を使われたり、なんなら好意……? を、向けられてるとか……それって、ものすごく………………気持ち悪いんですが……」
「…………うん、だよねぇ!? いや、それは、ほんとにそう! 俺がアリスちゃんの立場でもそう言うと思う!!」
わかってもらえたようでなによりですよ。
あとナチュラルになんでちゃん付けで呼ばれてるのかなぁっていうのもすごい気になるんだけどなぁ? 指摘してもいいんだろうか。まあ、話の腰を折りそうだからやめとくかぁ……多分誰にでもこういう人なんだろうね。
さっきナタリア先輩のこともナタリアちゃんって言ってた気がするもん……馴れ馴れしいな、先輩に対して!
「でもね、待ってほんとに待って。事情があるの! だから気持ち悪いと思うのは正直仕方ないことだとは思うんだけど、その、事情を聞いた上で改めて気持ち悪がってほしい!」
「いや私が気持ち悪がること自体は変わらないじゃないですか」
「アリスちゃんの気持ちは変わらなくても俺の気持ちが変わるんだよぉ〜……」
「めんどくさいなこの人」
「いやはっきり言うじゃん」
「あっすいませんつい本音が」
いかんいかん。侯爵家子息にあんまり気安く接し過ぎると怒られるかもしれない……。いや……なんか、この人は、多分……そういうことでは怒りそうにないような気がする……? 根拠はないんだけど、なんとなく。
ほぼ初対面なのにこの話しやすさ、イヴァン様と初めて会った時を思い出す。あの人も雇い主の子息なのにすごく気さくに話しかけてくれて、不思議と話しやすかったんだよねぇ……。
「……まあいいですよ、話したいなら。その事情……? ですか? 聞くくらいなら別にタダですし、……まだ会場には戻れそうにないので時間はたくさんありますし……」
「そうだね。……足首の具合はどう?」
「少し痛みが引いてきたような気もしますけど……う~ん、やっぱりまだ痛いですね……」
「そっか~。無理して歩いて、悪化してもいけないもんねえ……」
「まだあんまりごはん食べてないのにな……食べてから来ればよかった……」
「……え、なに。今日は料理目的で来たの?」
「料理もですけど、デザートもですよ! 王城の料理人の料理なんてそうそう食べられませんからね!?」
「………………なるほどな、色気より食い気か……。まあ、アリスちゃんらしいといえばそう。ちょいちょいイヴァンとか他の使用人とかにも、食べ物で釣られてるでしょ」
え~なんで知ってるの……。別に食いしん坊キャラじゃないんだけどな……。
あと、エド様……『あんなによく食べるのに細いよねとか言ったらセクハラかなぁ……』って独り言言ってるの、聞こえてますからね~? 口に出した時点で既にセクハラだからね? 訴えるよ?
「ともかく、会場に帰ったらちゃんと手当してもらおうね。本当は手当も早い方がいいんだろうけどなぁ……」
「ですよね……ただ、私としてはやっぱり会場に帰るのは少し気が重くて……正直に言うと、帰れなくて助かったかもって気持ちもありますね……」
「そうなの? ああ、もしかして慣れてなくて夜会は緊張する?」
「はい……。面識のない方とどう話したらいいのかわかりませんし、ダンスとかも正直得意ではないですし……」
「え、さっきリーノ様と踊ってたの見てたけど、すごく上手だったよ?」
「うわ、見て……ますか。そう、ですよね、そりゃ……」
……そもそも、今日来た目的自体が私を心配して、って話だもんね。そりゃ見られてるかぁ……。
えぇ……なんかよくわからないけど、すごく恥ずかしい……。
「本当は俺とも踊ってほしかったんだけどな~」
「いや、あの……会場で普通に同僚ですって名乗ってくださって普通に誘ってくださったら、普通に応じましたが?」
「…………あ〜、うん……。そうだよねぇ~? 俺が変にこそこそしてたからだよね……あー悪いのは俺、俺が悪い。ほんと、全面的に」
はぁ……と一つため息をついてから、エド様は頭を抱えた。




