3-6 女性騎士様は生真面目すぎる(4/4)
「それにゼノンのことも、やっぱりアリス様に直接お話を聞けてよかった。すごく安心しました」
言って微笑む彼女の笑顔はとても柔らかい。ゼノン様、こんなにも心配してくれる従妹がいるんだねえ、よかったねえ……。こうして二人で話すと、イヴァン様に対して常に≪半ギレ≫の感じとか、クラリス様に対して責任感強そうに立ちまわってる感じとも違う雰囲気だなあと思う。元来の優しい性格がにじみ出てるよね。
別にどっちかが本来のフェリシア様……とかって言いたいわけじゃないよ、人ってそもそも多面性があるから。でも、やっぱり職務中は気を張ってるんだろうなって思う。あとイヴァン様に対しての対抗意識もあるのかな。
イヴァン様もさあ、もうちょっと年相応にさあ、あの大人気ない態度するのやめたらいいのにね……。あの人、身内に対しては特に、なんかガキ大将みたいな振る舞いするところあるからなぁ……。
「そうですか? お力になれたならよかったです」
「安心したのももちろんなんですけど、それだけじゃなくてお話すること自体がとっても楽しくて……。あの、私……これまで、クラリス様を除いたらあまり同年代の女性とは接したことがなくて……その、変じゃないですか?」
「えっ、何がですか?」
「ええと……しゃべり方、とか?」
しゃべり方が変? 全然そんなことないけどなあ。ああでも……確かにちょっと、丁寧すぎるというか堅苦しいというか、そういう感じはあるかもしれないね。
私は普通に、うんうんとっても真面目な人なんだな~って思ってたけど、意地が悪い人だったら慇懃無礼とか難癖付けてくるかも。
「私は、その……かなり若くから無理を言ってシュトルヒ家へ来させていただいています。護衛としての訓練のために王立騎士団の訓練に混ぜてもらったりすることもありますが、そこでも基本的に年が一回り以上上の方々に囲まれていて……。もちろん、シュトルヒも公爵家ですから使用人もたくさんいて若い女性もいますけど、あまり親しい方っていないんです……」
「えっ、そうなんですか?」
意外だね。いや、アインホルン公爵邸を基準にしたらいけないかもしれないな……あの職場はほんとに皆和気あいあいとしてて仲いいから。
シュトルヒ公爵家とか他の邸はどんな雰囲気なのかなあ? 興味はあるけど……きっとアインホルン邸以上にいい職場はないと思うんだよな~。
「どうやら侯爵令嬢っていうことで父親の身分がそれなりに高いこととか……あと私、見た目が怖いじゃないですか」
「怖い? え、えっ? そうですか?」
「なんというか、目つきとかがこう、キツい印象らしいので……」
ああ、そういうこと。まあ確かにね……対イヴァン様とか、対クラリス様の緊張感ある感じをずっと見てるとそう見えるかもしれないよねえ。でも私とこうして話すときは普通に柔らかい感じだけどなあ。
「キツいというか……目元がキリっとなさっててすごく美人ですよね。背もすらっと高くて素敵です、羨ましいです!」
「ええ? 私は、アリス様のようなお可愛らしい方が羨ましいですが……? 小柄で愛嬌があって……」
「ふふふ……そこはお互い、ないものねだりということですかね?」
「ああ、隣の芝は青い、というやつでしょうか」
ゆっくりと頷きながら微笑んで肯定してくださる。
本当、フェリシア様にはフェリシア様の可愛さがあるのにな~? 彼女のことをキツいとか怖いって言う人、見る目なさすぎだよ。
「……ああ、こんなことならもっと早くから、たくさんアリス様とお話させていただいておけばよかったです。アリス様たちがここを引き上げることが決まった今になってそう思うなんて、間が悪いというか……遅いですよね……」
ああ……確かに。私たちって今たまたま一緒に仕事をしているけれど、本来は職場も違うんだものね。
フェリシア様はもしかしたらクラリス様に伴われてイヴァン様を訪ねてアインホルン邸にいらっしゃるかもしれないし、その時に私がいればお姿は見られるかもしれないけど。ただ、そのタイミングって彼女はクラリス様の護衛という職務中なわけだし。こういうお互い自由な時間にゆっくり話すなんていう機会は、今後あんまりないかも。
……いや、待てよ? 機会がないなら、別に作ればいいんじゃない?
「その、ですね。もしフェリシア様がよければ、なんですけど……。王都へ帰った後にも、こうして個人的にお話をしたりしませんか?」
「え?」
フェリシア様は、あまりにも意外だという表情で目をぱちぱちと瞬かせている。
「フェリシア様はさきほど、私と話したことが楽しかったと言ってくださいましたよね? 私、それがとても嬉しくて。それに、私だってとっても楽しかったです! ……ああそうだ……! いっそのこと、私とお友達になってくださいませんか!?」
「お、おともだち……?」
私の言葉を繰り返して軽くフリーズした後、彼女は手で口を覆ってしまう。
「……あっ! フェリシア様は侯爵令嬢なのに、私とは身分が違いますよね!? 伯爵令嬢の私が失礼なこと言っちゃいましたか?」
「ち、ちがいます……!! そうじゃなくて……!! そうじゃないんです……!!」
力いっぱい首を横にぶんぶんと振る姿が、なんだか必死に見える。
「みっ、身分が違うだとか失礼だとか、そんなことは全く全然思ってません!! あのっ、でもっ、本当にいいんですか……!? 私なんかが、アリス様の……?」
耳まで赤くなりながら忙しなく視線を彷徨わせてから、彼女は一度大きく息を吐いてから吸い込んだ。
「でも……! その、もしアリス様がお友達になってくださるなら、それはすごく……すごく嬉しいです……!! 私、恥ずかしながらこれまで友人と呼べるような相手が本当に少なかったんです!」
あー。侯爵家の令嬢でしかも騎士団長の娘でしょ、身分的にあんまり対等で釣り合う相手がいなかったのかもしれないねえ。私も彼女よりは格下だから釣り合ってるとは言えないけど、それでも上位の彼女がいいと言うのなら許されるのかな?
……というかね、正直身分が釣り合うとか釣り合わないとか許されるかとか、そういうの関係ないって思っちゃう! だってフェリシア様個人がとっても素敵で可愛い方で、是非これからもお付き合いしていきたいって……私は心からそう思うから。
「だからその、もしかしたらその……普通の令嬢のお友達同士みたいにできなくて、変なことしたり言ったりして迷惑とかかけてしまうかもしれませんけど……それでも、……それでもいいですか……!?」
「そんなの全然大丈夫ですよ、迷惑だなんて思いません! そもそも私も普通の令嬢とは言い難い、だいぶ変わってるよねってよく言われますから!」
そこは胸を張るところじゃないって? それはそう!
でもフェリシア様が安心してこうして笑ってくださるならいいんだよ!
「よし、それじゃあ決まりですね! 今日から私たちは、お友達です!!」
「……ええ、ええ!」
「よろしくお願いします、フェリシア様」
「こちらこそ……アリス様! 本当に嬉しいです……!」
その後私たちは、王都に帰ったらどこかに出かけようか、なんて話で盛り上がった。フェリシア様はお茶に凝っていらっしゃるらしくて、王都の下町に行ってみたい喫茶店があるみたい。私は甘い物が楽しみだけどね。
そこでまた色々、おしゃべりとかしたいなあ。うふふ、楽しみ。絶対行きましょうね、って約束をした時のフェリシア様の笑顔もすごく可愛かった。
そんなこんなで気づいた時には太陽の位置がかなり低くなっていた。
窓の外に見える湖畔は鮮やかなオレンジ色の夕陽を反射して、宝石のようにきらきらときらめいていた。




