時空の三連星 第1章 第6話
《時空の三連星》
第六話
「……宿命の断片、あるいは一枚の写真」
深夜の静寂の中、御子柴駿は引き出しの奥から
色褪せた一枚の写真を引っ張り出していた。
それは、今から十四年前――彼がまだ十六歳の少年だった頃の記録だ。
当時から突出した身体能力と明晰な頭脳を持っていた駿は
突如街を襲った凄惨な大災害の現場にいた。
周囲がパニックに陥る中、崩落しかけた家屋の瓦礫の隙間から伸びる
小さな小さな手を捉えた。
炎が迫る中、駿は己の肉体の限界を超えて瓦礫を退け
からくもその幼い少女を奇跡的に抱き起こした。
写真に写っているのは、救急搬送された先の仮設病棟の片隅。
煤だらけの顔で、しかしどこか誇らしげに佇む若き日の駿と、彼のシャツの裾をちぎれんばかりに握りしめた、当時六歳ほどの幼い少女の姿だった。
少女の名は、シズ。
駿は写真の中の、幼いシズの「瞳」を、手元にあるルーペでじっと凝視した。
心臓が、不穏な音を立てて脈打ち始める。
彼の恐ろしいほどの洞察力が、ある一つの戦慄すべき事実に到達しようとしていた。
「この眼だ……」
祭りの夜に出会った、あの二十代の白いワンピースの女性。
仕事帰りの夕暮れ、橋の上ですれ違った三編みの女子中学生。
そして、朝日の坂道を上気した顔で駆け抜けていったポニーテールの高校生。
服装も、年齢も、出会ったシチュエーションも全く異なる三人。
しかし、彼女たちが駿に向けた、あの狂気にも似た「切望」と「確信」に満ちた瞳の光。
それは、十四年前のあの日、炎と瓦礫の底から救い出された直後の、この幼いシズが自分に向けていた瞳と、完全に同一の「魂の熱量」を放っていた。
「あの時の少女が、私を追っているのか……?」
駿は机の上にペンを走らせ、素早く計算を組み立てる。
もしあの時の少女が、現世で二十代の女性として大人の自分に
出会ったのだとしたら、時間軸の計算はピタリと合う。
だが、それでは中学生のハルや、高校生のアオイの存在が説明できない。
彼女たちはなぜ、シズよりも「若い姿」で
この三十歳の駿の前に現れることができたのか。
駿の深い知識が、量子力学や時空の歪みの仮説を脳内に描き出す。
これは単なる偶然の再会ではない。
彼女――シズの
「駿に追いつきたい、隣に並び立ちたい」
というあまりにも強烈な執念が、彼女自身の成長のプロセスそのものを、異なる時間軸へ
『具現体(思念の分身)』
として投影させたのではないか。
駿と出会うことで、中学生のハルも、高校生のアオイも覚醒し
自らを限界まで磨き上げる道へと進んだ。
つまり、彼女たちは過去から来たのではない。
あらゆる時空の狭間をくぐり抜け、三十歳の駿という「終着点」に向かって
それぞれの年齢の姿で、一斉に魂の全速力で走ってきているのだ。
「誰にも理解されない、偏屈な妄想だと笑われるだろうな」
駿は自嘲気味に呟きながらも、写真の中の少女を見つめる目を逸らさなかった。
胸の奥で、長い間凍りついていた心が、ヤバイほどの熱を持って融け始めていく。
世界にただ一人、自分という存在をこれほどの執念で求め
自らを高めようとしている女性がいる。
謎の全貌は見えた。
あとは、彼女たちの想いが現世のシズへと統合され
時空の狭間が完全に交わる「その時」を待つだけだ。
駿の鋭い双眸に
彼女を迎えるための静かな覚醒の光が灯った。




