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時空の三連星 第1章 第5話

              《時空の三連星(トリロジー)


第五話 


「魂の渇望、それぞれの修練」



あの不可解な接触を経て、彼女たちの内なる時間は、猛烈な勢いで加速し始めていた。

中学生のハルは、駿とすれ違ったあの夕暮れの橋以降、完全に「覚醒」していた。

耳元で聞こえていた不思議な囁きは消えた。

しかしそれは、シズの思念がハルの精神と完全に同化したことを意味していた。

駿の持つ、すべてを見透かすようなあの圧倒的な洞察力。

あれに対抗し、いつか隣に並び立つためには、生半可な知識では足りない。

学校の図書室だけでは飽き足らず、ハルは休日のたびに

大学の図書館や専門古書店へ足を運ぶようになった。

心理学、脳科学、精神医学、果ては行動分析学まで。

大人が読むような難解な専門書を、ハルは貪るように脳内へ吸収していく。


「ハル、最近なんだか凄みが増したよね……」


親友のミサキが遠巻きに呟くほど、彼女の纏う空気は鋭敏になっていった。

しかしハルは、ただ静かに微笑むだけだった。

彼女の視線の先には、常にあの夕陽に照らされた駿の背中があった。


時を同じくして、異なる時空を生きる高校生のアオイもまた

狂気にも似た情熱で自らを追い込んでいた。

朝日の坂道で駿と交わした、愚直なまでの挨拶。

あの時、駿の身体から放たれていた強靭な肉体の説得力、生物としての圧倒的な強さ。

それがアオイの闘争心と切望に火をつけたのだ。


「こんなんじゃ、あの人に子供扱いされて終わっちゃう……」


陸上部での過酷な十種競技のトレーニングに加え

アオイは夜、古流武術の道場にも通い詰めた。

大柄で屈強な大人の男たちを相手に

居合、空手、合気、バレエ、新体操の柔軟性を融合させた

独自の体術で、次々と畳に沈めていく。

薄っすらと汗を光らせ、限界まで筋肉を軋ませるたびに

アオイの心には奇妙な愉悦が湧き上がって行く。


(もっと強く、もっと速く、もっと美しく、もっと気高く)


駿に「強い女性」として認められ、愛されるためなら

どんな肉体的苦痛も彼女にとっては至上の喜びにすぎなかった。


そして、二十代のシズは、自らの身体と精神に起きている

「奇妙な変転」をはっきりと自覚していた。

祭りの夜に駿を見失ってから、彼女は何もしていないはずだった。

しかし、頭を悩ませていた就職活動の適性検査や面接において、相手の心理や意図が

まるで手に取るように「視える」ようになっていた。

それだけではない。歩く姿勢、身のこなしの鋭さ

危険を察知する野生的な勘までもが、日を追うごとに跳ね上がっていく。


「これは……ハルとアオイの経験値が、私の中に流れ込んでいるの?」


異なる時間軸、異なる空間で、自分自身の思念が必死に牙を研いでいる。

その「知」と「武」の果実が、いま、現世のシズという器に刻一刻と統合されつつあった。

すべては、あの幼い日の炎の中、自分を瓦礫の底から救い出してくれた

御子柴駿という一人のヒーローに追いつくため。

しかし、シズは蘇った記憶の重みに、そっと胸を圧えつけて身悶えする。


「まだ、駄目。今の私じゃ、まだ彼に追いつけない。

何より……彼に真実を伝えてはいけない。

完全に並び立つまでは、愛してはいけないの」


時空の法則を捻じ曲げるほどの強い執念。

それは彼女自身の精神と肉体を、人間を超越した領域へと押し上げようとしていた。

彼女たちが紡ぎ出す「知・武・心」の結晶がひとつに結ばれるその時まで

魂の過酷な鍛錬は続いていく。



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