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時空の三連星 第1章  第10話

             《時空の三連星(トリロジー)


第十話


「……見えないチェス、観測者の予感」



 すべてを看破した男と、すべてを統合した女。

 二人の天才による、時空を跨いだ「見えないチェス」が静かに幕を開けようとしていた。

 深夜、御子柴駿は自室のパソコンの画面に、街の精密な三次元地図を展開していた。

 画面上には、三つの光点が不気味に明滅している。

 シズと出会った神社、ハルとすれ違った黄昏の橋、アオイと交差した朝日の坂道。

 

 「神社、橋、坂道。高低差、時間帯、そして周囲の磁場……。

  単なる偶然の場所じゃない」

 

 駿の卓越した頭脳と深い知識は、これら三つの特異点がある一定の

 「因果律の周期」に基づいて発生していることを弾き出していた。

 彼女の強烈な思念が世界を歪め、自分を引き寄せたのだとしたら  

 その歪みには必ず一定 の法則――数理的な波形が存在する。

 駿はマウスを握る手に力を込め、冷徹に呟いた。


 「三つの点が打たれた。なら、四つ目の点が交わる『収束点』がどこになるか

 計算できないはずがない」

 

 画面上の三つの点を結ぶように、複雑な数式が幾何学的な軌跡を描いていく。

 駿の鋭い双眸が、弾き出された「次の座標」を捉えた。

 そこは、数日後の夕暮れ、駿の住む高層マンションの屋上スペース。

 彼は静かに席を立つ。

 彼女が命がけで自分に追いつこうとしているのなら、自分もまた

 その圧倒的な洞察力を もって、彼女を迎え撃つのが礼儀だ。

 時を同じくして、夜風に髪を揺らせながら

 シズはベランダから街の灯りを見下ろしていた。

 彼女の脳内には、ハルから引き継いだ「人間精神洞察」の極致が

 冷徹なシミュレーションを展開していた。

 駿という男の性格、その異常なまでの知性と行動パターン。

 彼なら、すでに自分たちの接触の法則性に気づいているはずだ。

 そして、次なる交差点の場所すらも。

 

 「駿なら、きっと私の意図を先読みして、あの場所に現れる」


 シズはふっと、妖艶で、しかしどこか切ない笑みを浮かべた。

 駿が自分を観測しているように、自分もまた、駿の思考を完全に観測している。

 ハルの知性が、駿の行動を百手先まで読み切っていた。

 だが、それでもシズの胸の奥には、アオイの愚直なまでの生真面目さと

 未だ解けない魂の葛藤が激しく渦巻いている。



(私はまだ、彼に追いつけていない。精神も、肉体も、彼と対等になるための

『最後の鍵』が足りない。なのに、彼はもう目の前まで来ている……)


 愛してはいけない、まだ並び立てない。その拒絶の心と、早くあの温かい胸に飛び込みた いという狂おしいほどの渇望が、シズの内で切ないほどに軋みを上げていた。


「それでも、行くしかない。これが、私たちが選んだ運命の道筋だから」


 観測者たる二人の思考が、目に見えない糸で結ばれ、互いを引き寄せ合う。

  時計の針は、四つ目の特異点へと向かって

 容赦なく刻限を刻み始めていた。



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