第89話:留学生二人
――――――――――学院高等部教室にて。マイク視点。
「はい、では従者の皆さんは御退出ください」
アルジャーノン先生が入室してきた。
どうやら最優秀クラスはアルジャーノン先生が受け持つことになるらしい。
してみると去年クインシー殿下や聖女パルフェが一組だったのは、学校側の配慮なんだろうな。
注目すべきはアルジャーノン先生が二人の生徒を連れてきたことだ。
おそらくガルガン宮廷魔道士長の話していた留学生だろう。
「諸君に二つ連絡があります」
留学生その一とその二についてかな?
「一つは今年の魔法実技の講義についてです」
違った、魔法実技についてか。
確か去年の説明では、何でもいいから魔法を一つ習得すれば単位を認めるという今までのコースの他に、より実用的な魔法の習得を目指すコースを新設するという話だった。
魅力的な提案だったけど?
「該当する二年生全てが実用的な魔法の習得を目指すコースを選択したため、今までのコースは設置しません。今年度の二年生は全員実用的な魔法の習得を目標とします」
ざわつく教室。
皆の話を聞いていて実用魔法コースを選択する者が多いなとは感じていたが、全員だったのか。
聖女パルフェと同学年でなければ体験できないラッキーだものな。
でも成績はどうやってつけるんだろう?
習得できなかったら落第では厳し過ぎるしな?
不安がってる生徒がいるのはその辺りが原因かも。
「今年度の魔法実技の講義は、全クラス合同で行います」
これは予想通り。
聖女パルフェ主導で魔法を教えていくならそれしかない。
「各人の持ち魔法属性に関わりなく、まずは回復魔法ヒールの習得が必須となります。自分の魔力の把握と魔法の発動の感覚を覚えてもらうためです。そしてヒールの習得がなった時点で、魔法実技の単位は保証します」
これは聖女パルフェの教え方を踏襲するつもりのようだ。
何だ、ヒールを覚えるだけなら大したことない。
単位習得の難易度は、去年までの魔法実技と変わんないじゃないか。
オレだって去年の一学期、片手間の課外活動の時間だけで覚えられたくらいだ。
聖女パルフェも教えるなら、一学期だけで全員習得するんじゃないかな。
「そして既にヒールを使える者は、助手として教える側に回って下さい」
「えっ?」
思わず声が出てしまった。
オレももちろんヒールを使えるから、皆に教えろってこと?
高位貴族の子弟に教えるなんて恐れ多い!
せめて相手は平民にして!
「今年初めての試みですので、変更はあるかもしれません。その都度対応していくことになるでしょう。魔法実技の講義についての連絡は以上です」
一気に不安になった。
オレが教えるなんて大丈夫かなあ?
「二つ目の連絡です。このクラスに二人の留学生が入ります」
教室が驚きと歓迎の気持ちに包まれる。
やはり留学生が来ることは知られてなかったみたい。
「一人目はミナスガイエス帝国から。ラインハルト・ローゼンクランツ君だ」
「友なる犬のように親しく、ラインハルトと呼んでくれ」
拍手。
長身のハンサム、特有の言い回しが帝国人って感じでキザな印象を受ける。
堂々としていて、どう見ても高位貴族だなあ。
聖女パルフェが『ふーん、奇麗な共通語だ』とボソッと口にしていた。
「二人目がカメハメハ王国から。モアナ・カハナモク君だ」
「よ、よろしくお願いしますにゃ」
「メッチャ可愛いな」
あっ、聖女パルフェが食いついた。
モアナ嬢も小柄だから親近感があるのかも。
いや、以前カメハメハの留学生には興味があるって言ってたな。
ん? 聖女パルフェがモアナ嬢に話しかけてる。
カメハメハ語かな?
モアナ嬢が泣き出した?
「大丈夫だ、通じる」
「パルフェ君、どういうことだい?」
「モアナちゃん、共通語があやふやなんだって。心細かったって」
「うむ、そうなんだ。モアナ君の侍女は共通語が完璧なのだが」
「じゃ、講義中とかはあたしがモアナちゃん見てるね」
「任せよう」
「モアナちゃん、こっちおいで」
モアナ嬢が跳ねるような足取りでこっちへ来た。
あっ、聖女パルフェとぎゅーしてる。
カメハメハ人はスキンシップが濃厚なのかな?
「ラインハルト君はそちら、クインシー君の隣に着席してくれ」
――――――――――同刻、ローゼンクランツ公爵家令息ラインハルト視点。
一昨年、ウートレイド王国にカエルの卵よりは小さくない変化があった。
新しい聖女が一四年ぶりに現れたことと、正妃であるスカーレット王妃殿下唯一の男児クインシー殿下の目の病気が治癒し、ナンバーワン王太子候補と目されたことだ。
一時期新聖女が追放されるという事件が起き、新聖女は信頼されていないのかという憶測が流れた。
しかしその後の調査で、新聖女が庶民に絶大な人気を誇ることは判明している。
状況に不明なところがあるのだ。
俺が留学生としてウートレイドに送られた理由の一つである。
もう一つの理由は小鳥のさえずりを待つまでもなく、クインシー殿下の人となりを探ることだ。
こちらは軽視していいんじゃないかとは個人的に思っている。
何故なら殿下は何年も目が見えていなかったんだろう?
教育も人格形成も遅れてるに決まってるじゃないか。
アルジャーノンという教師に導かれて教室に向かう。
彼は魔道に関してが専門らしい。
ふむ、感知魔法を使用しているな?
気配をほとんど感じない。
さすがの練度だ。
対するにもう一人の留学生だというこの女は何なのだ。
カメハメハの王女だというが、小鹿のようにオドオドしっぱなしではないか。
王族としての誇りが薄紙ほども感じられん。
所詮南の小国だな。
まあいい、この女については任務にないしな。
教室内部へ。
我が身に女生徒の関心が集まっているのがわかる。
この豪奢な金髪に見惚れるがいい。
さて、クインシー殿下と聖女パルフェはどいつだ?
教師アルジャーノンによると、俺達の学年全員にかなり実用的な魔法を教えるカリキュラムが組まれるらしい。
我が帝国で魔法の教育を受けるのは、高位の貴族かそれなりの魔力量を持つ者、あるいは一部の軍人くらいだ。
平民を含めた生徒全員に魔法を教えるというスタイルは面白い。
が、持ち魔法属性を無視して聖属性魔法であるヒールを覚えろだと?
効率が悪いだろう、非常識に過ぎる。
いや、どうもウートレイドでも実験的な手法のようだな。
様々な手段を試すことは、硬直した古いやり方を延々と続けることよりも好感が持てるか。
「よ、よろしくお願いしますにゃ」
何なのだこいつは。
共通語すらお粗末じゃないか。
一人の女生徒がモアナ嬢に話しかけている。
ほう、学生レベルでそれほど付き合いもないだろう南の小国の言葉を流暢に話せるのか。
あっ、黒目黒髪の彼女が聖女パルフェ?
なるほど、雰囲気があるじゃないか。
教師アルジャーノンの信頼にしても周りの生徒の反応を見ても、明らかにクラスの中心人物だ。
さて、もう一人のターゲットであるクインシー殿下はどこだろう?
「ラインハルト君はそちら、クインシー君の隣に着席してくれ」
ツイている。
図らずもクインシー殿下を早期に把握することができた。
「第一王子殿下でいらっしゃいますよね? どうぞよろしくお願いいたします」
「いえ、遠いところからようこそ」
物腰が柔らかい。
平凡で柔弱な印象さえ受ける。
次期国王に擬せられている者としてはどうなのだろう?
結論を出すのは早いが、少なくとも聖女パルフェほど強い印象は受けない。
まあいい。
まずは学院に溶け込み、王都コロナリアでの生活を楽しもうじゃないか。




