第88話:第二学年始まる
――――――――――学院高等部教室にて。ダドリー視点。
「おい、平民! どういうことだ!」
「二年生になってもダドリー君は相変わらずだね。あんまり怒りっぽいとモテないよ」
「余計なお世話だ!」
二年生になって、私は成績優秀者で構成される一組に配属された。
それ自体は嬉しいが、仲のいいカークやビートとはクラスが離れてしまった。
仕方ない。
彼らのスコアからそうだろうと予想はできていたことだ。
主だったところでは平民聖女はもちろんクインシー殿下とトリスタン、ユージェニー嬢、準聖女として知られるようになったネッサ嬢、それとマイクが同じクラスだ。
本当にマイクのスコアって良くなってるんだな。
マイクごときに負けてはいられない。
私も勉学に励まねば。
「モテないのは元々の資質もあるから仕方ないとして、えらい剣幕でどーしたの?」
「どうもこうもあるか! 課外活動の話だ!」
「課外活動? クラブの話?」
「そうだ! 何故魔法クラブから転部したんだ!」
去年の一年生時に魔法クラブに在籍していたクインシー殿下以下五人が、揃って刺繍クラブに転部したのだ。
殿下やマイクは男なのに。
全く考えられないことだ。
「ごめんねえ」
「おかげで魔法クラブに転部した私がバカみたいじゃないか!」
今年の新入生の魔法クラブ希望者は多かった。
第一王子であるクインシー殿下や話題の聖女と交友できる、という目論見があれば当たり前のことだ。
さすがに二年生になって魔法クラブに移ったのは私だけだったが。
「まーでもダドリー君が魔法クラブに来てくれて嬉しいわ。二年生が誰もいなくなると、二年後の部長どーするとかの問題があるかなと思ってたんだ」
「理由を聞かせろ!」
「転部の? それには聞くも涙語るも涙、お腹がすいてまた涙の悲しい物語があるんだよ」
「腹が減るのは関係ないじゃないか! 御託はいいから!」
どうしてもこのチビ平民のペースになってしまう。
聞き耳を立ててる周りの連中がクスクス笑ってるじゃないか。
「殿下とお近付きになりたい新入生が魔法クラブに入りたがる、ってのは見えてたじゃん?」
「うむ、明らかだったな」
私も同じ動機であるし。
「一方で魔法クラブって、人をたくさん受け入れられるほどキャパシティがないんだよ」
「……」
そういえば先輩方が、何とかこの人数なら全員入部させてあげられそうだと言っていた。
殿下以下五人が残っていたら、誰かが入部を諦めざるを得なかったのか?
「魔法クラブって本来、宮廷魔道士になりたい人が入るクラブみたいで」
「うむ、宮廷魔道士は確か魔法クラブ出身者がほとんどだろう?」
「去年の一年生五人は、積極的に宮廷魔道士になりたい人いなかったんだよ。あたしらが在籍してるがために、宮廷魔道士希望者が入部できなかったなんてことになると悪いじゃん? だから遠慮させてもらったんだ」
「そういう事情だったのか」
「まーでもマイク君は宮廷魔道士になるかもしれん」
「えっ?」
マイクが?
「マイク君ねえ、宮廷魔道士に興味ないかって、ガルガンさんに誘われたんだよ」
「その時聖女様がいたからだよ。たまたまだ」
「マイク君を引っ張り込もうとするなんて、よっぽど今人材がいないんだなと思った」
「ひどい!」
ガルガンって宮廷魔道士長の?
直接声をかけてもらえるとは……。
「……羨ましい」
「「えっ?」」
「私もなれるものなら宮廷魔道士になりたい」
「そーだったの?」
「ダドリーは嫡男じゃないか。スピアーズ伯爵家を継ぐんだろう?」
「継ぐのと志望は別の話だ」
「何で宮廷魔道士なん? 領主教育とか人脈広げるとか嫁さん探しとかしてりゃいいんじゃないの?」
そうした考え方が一般的なのはわかってる。
父上も私が立派な領主貴族になることを望んでいるんだろうが。
「……幼い頃から魔道には興味があったんだ。私の実力を認めさせるには宮廷魔道士にならねばならんと思っていた」
「ダドリー君、魔法の才能あるもんな。宮廷魔道士にならなきゃってゆー考え方はよくわからんけど」
「聖女様は便利だから魔法を使うっていう考え方だもんな」
「研究にしても実践にしても、宮廷魔道士が魔道の第一線であることは間違いないわな。そこに痺れる憧れる気持ちはわかる」
「でもダドリーが宮廷魔道士なんて、家族の理解は得られているのか?」
「……得られていない」
魔道クラブへの転部だって、クインシー殿下がいらっしゃるからということで許可を得たんだ。
私の魔道への探究心とは関係がない。
「ふーん。ダドリー君に魔法に対して熱い思いがあるとは知らなかったよ。楽な方に流されていくやつだとばかり思っていた」
「言い方がひどいな」
「そうなんだよ。聖女らしさの欠片もない」
「おいこら、変なところでタッグを組むな。でもマジで宮廷魔道士になりたいならやりようはあるけどな」
「「えっ?」」
「聖女の知恵を聞きたい?」
聞きたい。
一体どうやって?
聖女らしからぬ悪い顔をしてる。
「まずダドリー君は魔法クラブやめる必要はないじゃん? あたしらも魔法クラブと繋がりが切れたわけじゃないから、これからも時々行くもん」
「そうなのか?」
「そーだよ。つまりダドリー君が魔法クラブに在籍していれば、剣術クラブに在籍しているよりは殿下に近いところにいることになる」
「なるほど。そして?」
「魔法クラブで過ごしていれば、宮廷魔道士の採用試験に合格するだけの実力は十分身につくと思う。そうしたら試験を受けるところまでは何とかなりそうじゃん? 実力を試してみたいんですとか採用試験に受かったという実績はムダになりませんとかのへ理屈を捏ねれば、親御さんもそーかな? って気になるんじゃないの?」
「ふむ、もし試験に受かったとしたらどうする?」
「そこまで行ったらこっちのもんだ。クインシー殿下に出張ってもらって、ダドリー君の親御さんに言ってもらえばいいじゃん。優秀な人材を無為に過ごさせるのは国家の損失なのです。数年でいいからダドリーを宮廷魔道士として働かせてもらえませんかって」
すごいこと言い出したぞ?
クインシー殿下に出張ってもらうだと?
ゴリ押し過ぎる。
「ダドリー君の父ちゃんは、殿下に直に頼まれて断れる人かな?」
「い、いや、それは断われないと思うが」
「じゃあ大丈夫じゃん。宮廷魔道士ダドリー君一丁上がりです」
「ええ? そんなことで殿下の手を煩わすなど……」
「わかってないな、ダドリー君は」
「私が何をわかってないというのだ!」
チビ聖女のしたり顔がまことにもって面白くない。
何を知っていると言うのだ。
平民のクセに私に対して無礼過ぎるのではないだろうか?
「重要なのはクインシー殿下の手を煩わすことじゃないんだ。それだけ優秀で価値のある人間にダドリー君がなることだよ」
「……っ!」
「順調にいけば殿下は次期国王だよ。古の賢王が優秀な人材を得るために自ら足を運んだ故事があるでしょ? 価値があるものならば、殿下は古の賢王に倣ってダドリー君家を訪問して直談判することを厭わないだろうさ。それともダドリー君は殿下をそこまで賢くないと侮ってる?」
「い、いや……」
「頑張れ。ダドリー君の出来が良ければ必ず道は通ずる」
正論で頭を殴られたような気分だ。
私の努力次第で道は通ずるのか。
聖女らしい助言を聞いた気がする。
「……感謝する」
「目一杯感謝するといいよ。御利益にも恵まれるんじゃないかな」
こういうことを言わなければいいのに。
何なのだ、この平民聖女は。
しかし心の中でもう一度頭を下げた。




