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辺境生まれのトンデモ聖女は、王都の生活を満喫します  作者: 満原こもじ


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第67話:コトコト煮込んだ美味しいスープ

 ――――――――――文化祭直前。ゲラシウス筆頭枢機卿視点。


「終わったわ。ようやくよ。ようやくなの!」


 娘のサブリナが大きく伸びをしながら喜んでいるである。

 やっと文化祭の準備が終わったということのようであるが?


「刺繍のノルマが特に大変で」

「選択講義の刺繍であるか? 確か小娘も刺繍を取っていたであろう?」


 小娘は魔物肉、というか狩りに行く日の天気のことばかり気にしていたである。

 刺繍のことは特に何も言っていなかったであるが。

 

「その聖女様のせいで大変なことになったのよ!」

「どういうことであるか?」

「学院の応援旗がボロボロになってしまったから、新しいのを作りましょうということになったの。一年生の刺繍選択者全員で」

「ああ、それはいいことであるな」

「いいことには違いないけど、応援旗って意匠がとても細かいのよ? 学年末まで目一杯時間を使って、それでも完成は難しいだろうって話だったの。最初は」

「つまり文化祭では途中経過のものを展示する予定だったのであるな?」

「そうよ。こんな素敵な応援旗を製作中です、って感じでね」


 話が見えぬである。

 小娘のせいで大変なことになったとはどういうことであろうか?


「ところが聖女様ったら、ほんの一時間くらいでアウトラインを縫ってしまったの。先生が興奮して張り切ってしまって、これなら文化祭に間に合うから皆さん頑張りましょうって」

「ええ?」

「聖女様の刺繍ってどうなってるの? 下絵も描かずただステッチ刺してるだけで、ちゃんと全体がデザイン通りになってるのよ。あんなに大きな旗なのに考えられない」

「おそらくイメージである」

「イメージ?」

「魔法の実践についてであるが、小娘は普段からイメージが大切と言っているのである。それを刺繍に応用しているのであろう」

「……刺繍でも完成のイメージを最初から持っていて、その通りに針を進めているってことなの?」

「ではないかと思う」

「ええ? 聖女様おかしくない?」

「あの小娘のやっていることは常におかしいである」


 これは断言できるである。

 おそらく否定できる者はおらぬである。


「とは言っても聖女様が一人で旗を仕上げて、残り全員で小物を担当すればさほど大変じゃなかったと思うのよ」

「うむ、わかるである。そう何人も同時に旗に取り掛かれないであろうからな」

「聖女様も自分で応援旗の刺繍を完成させるつもりだったみたいだけど、一人でやったんじゃ意味がないからって先生が皆に順番に仕事を割り振って」

「ははあ、地獄絵図が見えるである」

「でしょう? 私はまだいいのよ。関係する出し物は刺繍とダンスだけで、ダンスは気晴らしになるし。クラスの出し物は当日に裏方で手伝えばいいしね。でも講義が刺繍選択でさらに刺繍クラブに入ってる子達は本当に大変で。家に持ち帰って夜なべで縫い続けて。目がしぱしぱするって泣いてたわよ」

「小娘は夜はよく寝ていたであるぞ」

「聖女様の作業は尋常でなく速いもの。下絵描かない刺繍枠も使わないでどうして縫えるのかわからないわ。小物も一人で全体の半分くらい片付けてたと思う。講義の時間だけでよ?」


 サブリナがため息を吐いているである。

 娘のこんな表情はあまり見ないであるな。


「いいなあ、聖女様は何でもできて」

「何でもできるというのは語弊があるである。普通の令嬢にできることで、小娘ができないこともあるである」

「それって言葉遣いのこと? でも……」

「それだけではない。例えば小娘は踵の高い靴を履いて歩けぬである」

「ええ? どういうこと?」

「細いヒールに体重を預けることが、転びそうで怖いのであると」

「そうなんだ……あれ? でも入学式の日は礼装必須だったでしょう? 踵の高い靴だったはずだけど」

「インチキをしていたである。飛行魔法か浮遊魔法で身体を浮かせ、足を動かし歩いているように見せかけていたである」

「アクロバチックな解決法ね」


 娘の笑顔が戻ってきたである。

 喜ばしいである。


「これはマイクに聞いたことであるが」

「学院ではいつも聖女様と一緒にいるわね。マイク様は修道士なんでしたっけ?」

「そうである。クラスも一緒なので、吾輩の代わりに聖女番にしているである」


 マイクはよく働いている。

 おかげで学院での聖女パルフェの様子がよくわかるのである。


「あの小娘はしょっちゅう図書室に足を運ぶそうである。知識や技術は努力なしでは得られないからだそうな」

「それは……そうね」

「刺繍だっておそらく努力の賜物である。いや、刺繍というより縫い物が得意と言っていたな。辺境区住みだった際に散々数をこなしたのであろう」

「努力していることを、私達が知らないだけなのね?」

「そういうことである」


 サブリナがやる気になってくれるならば嬉しいが。

 吾輩に似たところのある娘であるから過度な期待はしないである。


「しかし小娘は興味のないことはしないであるぞ」

「そうなの?」

「うむ。行儀作法などシスター・ジョセフィンによく教わればいいものの、逃げ回っているである。姑息にも、何とか赤点を取らない方法ばかり考えているである」

「ああ、レイチェル先生も聖女様について言及していらしたわ」


 レイチェル先生は行儀作法の名物講師である。

 学院長に次ぐ高齢なのではないだろうか?

 非常に厳しく、教え子であった身にはいつまで経ってもレイチェル先生には頭が上がらぬである。


「何と言っていたであるか?」

「行儀作法とは他人に不快感を与えない様式美なのですって」

「もっともなことであるな」

「パルフェさんの態度は様式からは外れているけれども、不快感を覚える一線を踏み越えてこない。全然文化的な交流のない部族とのファーストコンタクトであっても、多分パルフェさんは歓待されるだろう。カーテシーの見事さもあって、不合格点をつけることはできないって」

「あのレイチェル先生にそこまで言わせるのであるか」

「ただもちろんいいスコアにはならない。天性のものであるからマネしようと思ってはいけないとも仰っていましたわ」


 わかるようなわからないような。

 しかし未開の部族の人間と初めて会っても、小娘特有の馴れ馴れしさですぐ仲良くなるだろうというのは想像できるである。


「そのレイチェル先生の発言内容について、小娘は知らないのであろうな?」

「うちのクラスで喋ったことだから知らないと思うわ」

「ふむ、ではそのことを小娘に言ってはならぬ」

「どうして?」

「いい気になるからである」


 先学期末に成績表を持ち帰った時、小娘が一番喜んでいたのは行儀作法で赤点ではなかったことであった。

 レイチェル先生が不合格にしないと知ってしまっては面白くないである。

 今後も引き続き行儀作法で苦労すればいいである。


「今日はもう、聖女様は文化祭の準備も終えてのんびりしていらっしゃるんでしょうね」

「いや、ついさっきまで魔物狩りをしていたであるぞ」

「えっ? あ、そういえば一組は魔物肉料理の店をやるって聞いたわ。本当なのね?」

「材料費がタダだからと言っていたである」

「とてもおいしいものね。評判は目立つ一組にさらわれてしまうのかしら?」

「さて、どうであるかな? 魔物肉と言われてどれほど拒否反応を起こさせないかが勝負であろう」


 文化祭はスコアに関係するとは言っても、所詮遊びのようなものである。

 学生は大いに達成感に浸ればよい。

 今日の我が家の夕食は、小娘のクラスが文化祭で振舞う肉たっぷりスープと同じレシピのものである。

 実に楽しみである。

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にわか冒険者の破天荒な一年間 ~世界の王にあたしはなる!
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