187.ワンルームマンション計画
VRものはリアルの時間経過を表現するのが難しい。
急に日にちが進んだ訳ではなく、並行してリアルではこんなことがあったんです、くらいに見てください。
3月に入り無事に卒業式も終わった。
僕は部活にも入ってないし先輩方と面識もないので思う所は特に何もない。
聞いたところによると卒業風景も昔とは大きく変わったらしい。
昔は式の後で卒業生どうし、または在校生が卒業生との別れを惜しんでドラマが展開されていたらしいけど、今時代は連絡を取ろうと思えば幾らでも取れるし、SNSもあるのでお互いの近況も大体把握出来るのだ。
なので教え子の巣立ちを見送る教師以外に涙ぐむ人はほとんど居なかった。
再来年の僕らもきっと同じ感じになるのだろう。
まぁその時になったらまた考えよう。
昼前に帰宅した僕は軽くご飯を食べたら早速VR装置に乗り込み究極幻想譚を起動した。
(気が付けばどっぷりゲームに嵌ってしまったなぁ)
多分このゲームのサービスが終了するってなった方が卒業式よりよほど来るものがあるだろう。
こういうゲームって基本ラスボスに相当する敵は存在しない(多分女神はラスボスではない)から、サービス終了の際には『異界の門が閉まるので追い出された』とか言われるのかな。
まさか『隕石が降って来て世界が崩壊して滅亡』は無いと信じたい。もしそうなったら運営に100万回クレームを入れよう。
それはともかく。
フォニーからメールの返信が届いていた。
そこには個室を作ってみてはどうかと書かれていた。
『災害時の避難所などでも仕切りがあるだけで大分快適になるそうですよ。
隣室の音が気になるなら防音(吸音)材を使うのも効果的です』
一瞬、プールが狭くて困ってるのに更に個室?って思ったけど、想像してみたら納得だった。
広い空間があっても四六時中他人の目があっては落ち着けないだろう。
でも逆に三畳一間でも誰にも見られない自分だけの空間があれば、こっそりちょっとお高いプリンを心行くまで堪能できる。
これは人以外でも当てはまる話だ。
分かりやすい所で言うとタコ壺とか。
アコヤンも貝だというのなら貝殻の代わりに身を隠す場所を求める可能性は高い。
よし、これは養殖場に行ったらシャコさんに提案してみよう。
続いて学者先生なる人物について冒険者ギルドで確認してみた所、そんな人物は居ないと言われてしまった。
「養殖業というのは漁師の秘伝に近いもので、その手法は一般には公開されていません。
なので同業のベテランだというならともかく、学問として研究されている筈がありません」
だそうだ。これはますます怪しくなってきたな。
ただ本名も分からないのでは特定のしようもないそうだ。
やっぱり直接会って話をしてみるしかないな。
そしてもう1つ。
複数見つけたトンネルについて、街の事業としてそんな話は聞いたことが無いという。
「そういった肉体労働を伴うものはほぼ例外なく冒険者に声が掛かります。
特に危険の少ない街中であれば低ランクの冒険者が喜んで引き受けますから」
「じゃあ誰かが個人的に穴を掘ってるって事ですか?」
「個人宅の庭に穴を掘るくらいなら問題ありませんが、人が通れるほどのトンネルを誰の敷地とも分からない場所に掘るのは領主様の許可が必要です。
許可を得たのであればその情報はギルドにも回ってきそうなものですが」
それも無いという事は無許可でやってるってことか。
リアルでも土地開発を違法に行って環境破壊が進行しているって問題が起きてるけど、こちらでもかなり大問題であることがギルド職員の顔色から窺える。
「このことは急ぎ領主様に報告しますが、先だってラキア様にも調査を依頼させて頂いても宜しいでしょうか」
「分かりました」
前回はちらっと外から覗いただけだったけど、依頼なのであればがっつり潜入捜査しても良いだろう。
幸い人に視られずに行動するのは得意だ。
養殖場の手伝いとトンネルの調査の2つを同時に受けた形になるので作業の順番も考えていく必要がありそうだ。
トンネルの方はまだ何か不明だし、まずは養殖場の方かな。
フォニーの案を伝えるだけ伝えておこう。
「アコヤン達に個部屋を作るだって!?」
早速養殖場の事務所で僕の話を聞いたシャコさんは驚きの声を上げた。
でもプールが狭いって言った時と違って何か心当たりがあるのか考え込んでいた。
「う~ん、いや、そうか。確かにそれは効果があるかもしれない。
だけどなぁ」
「何か問題があるんですか?」
「金がない」
ぼそっと恥じ入るように視線を逸らしながら呟かれた。
いやまぁ既に借金してるのは聞いてたけど。
でも何もせず今のままだったら状況は改善しなさそうだし、これは必要経費で。
って、そういう謳い文句でこれまでも借金させられてたのかも。
せめて格安で出来る方法を提案しないと。
「お金が掛かるのは材料費ですか?」
「そうだね。あと個部屋用のプールも増設するなら土地も拡張しないといけないし」
「プールは今あるものを使えば良いんじゃないですか?」
「いやでも狭くなるでしょ。今でも狭くて問題だって言ってたのに更に狭くなったら駄目じゃないか」
「個室で休憩する分、泳ぎ回る個体数は減るから大丈夫じゃないですか?」
「そういう見方もあるか」
例えば半分の個体が部屋で休んでいたらプールの人口密度も半分になる。
プールの広さは幅と奥行きが10m、深さ5mあるので壁1面に1m四方の部屋を作ってもそこまで狭くはならないだろう。
後は材料費だけど、これは自分達で調達すれば良い気がする。
「部屋の壁に使えそうな素材に心当たりはありませんか?
僕は冒険者なので採集してきますよ」
「それは助かるけど、相応の依頼料は発生するだろう?」
「そこは成果報酬ということで。
部屋を作った事でアコヤン達が元気になったら、もっと言うと収益が上がったらそれに見合った報酬を出してもらうってことでどうでしょう」
「……良いのかい?
上手くいっても多分何か月か先になると思うけど」
「幸い僕はお金に困ってないので」
僕の場合、お金を使うって言ったら大体食費だ。
人によっては常に装備を最強の物に新調したり、『武器投げ』という祝福を授かった人はアイテムボックスの中に武器を数十本ストックしつつ使い捨てにしているらしい。
それならいっそ『銭投げ』にした方が安く済んだんじゃないだろうか。
まぁそこはその人なりの拘りか。
ともかく、僕が食費で破産する未来はまず来ないだろう。
シャコさんは頻りに申し訳なさそうにしてたけど、そんな気にしなくても良いのに。
ただ、提示された素材は海岸で採れるものと海中で採れるものの2つだった。
海中の素材はどうしようかな。




