170.セルフ縛りプレイ
究極幻想譚にログインしました。
さて今日の目標は傲慢になっていた自分を戒めることだ。
その為に今日一日は祝福に頼らずに活動しようと思う。
ただそれだけだと効果が薄いかもしれないので、更に目隠しもする。
今いる街とその周囲は昨日までで大体見て回ったから新しい景色はほぼ無いはず。
まぁ『ほぼ』なので配信しながら記録して後で見返せるようにしよう。
「皆さんこんにちは。ラキアです。
今日もいつも通り普段の活動風景を流していきます。
ただ、今回はちょっと事情があって目隠し状態でプレイしていきますので、コメントとかは一切見れなくなります」
配信機能を立ち上げて挨拶をする。
事前連絡とかせずに突発的に始めてるのに、すぐにポツポツと視聴者数が増えていくのが相変わらず凄い。
そしてそういう人は大体いつも観てくれている常連さんだ。
『配信乙です』
『事情については聞いても良い奴?』
『目隠しプレイとはまたマニアックな(笑)』
いや別に趣味ではないから。
そういう性癖でもないです。
でもそっか。やっぱりある程度は説明しないとだよね。
「いつも観て頂きありがとうございます。
事情は、えっとそうですね。
先日自分の祝福を確認したところ、期待してたのとは違う方向に成長していて落胆していたんですけど、両親に相談したところ、それは自分なら期待通りにさせられるはずだと傲慢になった結果だと教えて貰いました。
そこで反省の意味も込めて今日一日、祝福や視力そのものを封印して、それらの恩恵を再確認しようって感じです」
『祝福が思ったのと違うっていうのは時々聞く話』
『ただだからって使わないって選択をする人は居ない。
ある方が便利なのは確かだから』
『音楽性の違いで解散するバンドとは違うw』
「はい。僕も別に今後一切使わないようにするってことは考えてないです」
あくまで今日だけの話だ。
というかやっぱり僕以外にも居たんだな。祝福が思った通りになってない人。
その人達はどうしてるのか気になる所だけど、まぁまた今度調べておくかな。
さて、じゃあ説明も済んだので早速目隠しをしてしまおう。
アイテムボックスからターバンを取り出して頭ではなく目を隠すように装着する。
「よし、これで全然視えなくなりました」
コメントも読めないのでこの配信を観てる人達がどんな反応をしてるのかは分からない。
後日見返した時に確認しておこう。
宿から外に出た僕は1つ大きく息を吸ってから静かに深く吐く。
そしてもう一度息を吸いながら周囲の情報を取り入れる。
匂いや空気の流れ、音。
自分の中身を空っぽにすることで多くの事が鮮明になる。
(というのがリアルな話)
やっぱりこの世界ではそこまでではない。
それでも地面から伝わる振動とかもあって街中を通行人を避けながら歩くくらいは余裕だ。
まずはぐるっと大通りを一巡して、ついでに脇道を通りながら方向感覚に問題が無いことも確認していく。
よしよし、全然問題なしだな。
「そこな少年よ」
「えっと、僕ですか?」
何本目かの通りを抜けた所でお爺さんっぽい人から声を掛けられた。
周囲に僕以外の気配は無いので僕で間違いないだろう。
「うむ。それは何かの修業かのぉ」
それとは僕の目の事かな。
謎の目隠しをしてる少年が居たら気になるのは当然か。
「修業というか、傲慢になっていた自分への戒め、みたいなものです」
「傲慢。傲慢とな。なるほど。
なかなかに面白い事をいう子だ。
一つ尋ねるが傲慢の反対の言葉は何ですかな?」
「謙虚、でしょうか」
「ふむ、つまり目を隠すことで謙虚になれるということかの?」
「そんな感じです」
間違ってないよね?
お爺さんは僕に問いかけるだけで特に合ってるとも間違ってるとも言ってはくれない。
その代わりじっと僕の心の裡を見つめている気がする。
「ではその謙虚さで街の外のモンスターを10体ほど倒してきてはくれんか」
「あ、はい。わかりました」
なるほどそういうクエストか。
目隠ししてたから発生したのかな。
近隣のモンスターはもう何度も倒してるしこの状態でも10体くらい余裕だろう。
「肩の上の子は主が死なない程度に助けてやるがよいぞ」
(くすくす)
フランも神妙に頷いてるけど、多分そんな心配は不要だ。
僕はお爺さんに手を振ってその場を後にし、街の外へとやってきた。
さて、モンスターは……ひとまず近くには居ないかな。
砂漠には植物が殆ど無いから耳を澄ましても木の葉のざわめきなどは無く、サラサラと風に流される砂の音だけが聞こえてくる。
これならモンスターが近づいてきたらすぐに気付けるだろう。
…………ガブッ
「え? ぐっ」
突然左足に衝撃を受けた僕は慌ててその場を飛びのきつつ短剣を抜いて僕に噛みついてきたそれに突き立てた。
って外した!
僕の足に噛みついてきたそれ(恐らくヘビ型のモンスター)は僕の反撃を見越して口を放していた。
その際に『かさっ』と小さな着地音がしたので念のため短剣を振り下ろしてみたけど案の定空振り。
「そっか、ヘビが足音立てる訳無いよね」
(くすくす)
そんな当たり前の呟きにフランがため息を漏らす。
砂の上を流れるように移動するヘビ型のモンスターは見た目も砂と同化するようになってたけど、移動時に音は立てないし、鳴きもしない。
もっと言うと体温だって変温動物なら周囲とほぼ同じだろう。
つまり生粋の暗殺者。
目隠しをした状態の僕が勝つ方法はないかもしれない。
これが範囲攻撃出来る魔法使いとかだったら適当に周囲一帯を焼け野原にすることが出来たかもだけど僕には無理。
じゃあどうするって言ったら、逃げるしかない。
幸い街の入口はすぐそこだ。
そこまで走れば何とかなる。
(ついさっき余裕とか思ってた自分に説教したい気分だ)
街に向かって走りながら自分に悪態をつく。
幸いヘビはそこまで足が速くないので回り込まれる心配はなさそう。
ただこれ一歩間違えれば死んでたよな。
これが慢心して傲慢になっていた証拠かな。
毒の状態異常にもなってるぽいのでアイテムボックスから解毒薬を、ってリストが確認出来ないじゃん。
ふらつきながらも何とか門の近くまで来れた。
「お~い、大丈夫か!」
街門の衛兵さんが心配そうに声を掛けてくれた。
「すみません、ヘビ型モンスターに噛まれてしまいました。
もしかしたら今もまだ僕を狙って追って来てるかもです」
「マジか。あ、確かに2体後を追って来てるぞ。
済まないが冒険者はモンスターに追われた状態では街には入れられないんだ。
何とか自力で撃退するか撒いてきてくれ」
言いながら衛兵の人達が槍を構える気配がした。
無常に感じるかもしれないけど、彼らの使命は街をモンスターから守る事。
だから街にモンスターを呼び込むような行為を容認することは出来ない。
当然だ。
あ、でも。
幸い彼らの槍の矛先は僕には向けられていない。
「すみません、そのまま槍でモンスターを狙い続けて貰えますか?」
「構わないが手は出さないぞ」
「はい、それで十分です!」
短剣を抜きながらモンスターが来るであろう方向に向き直る。
相変わらず移動音も気配も何もないな。
だけど衛兵さんの放つ殺気がモンスターの位置を教えてくれる。
「そこ!」
ざくっ
『シッ』
仲間がやられたことで慌てたもう1体が飛び掛かって来たけど、それだけ気配を出してくれたなら大丈夫だ。
無事に2体目も倒せて一安心。
と思ったところで僕は足が動かなくなりその場に倒れ込んだ。
そうだ、ヘビの毒。
「おい大丈夫か!?」
モンスターが倒されたことで衛兵さんが慌てて駆け寄って来て、慣れた手つきで解毒薬を飲ませてくれた。
僕はお礼を言って、あ、はい薬代はちゃんと払わせてもらいます。
店売りの5割増しの額を請求されたけど助けて貰ったんだから文句はない。




