169.それを忘れていることを傲慢と呼ぶ
翌日。僕は学校から帰った後、ゲームにログインせずに居間でぼぉっとしていた。
そんな僕を見つけた母さんが2人分のコーヒーを持ってやってきた。
「何か悩み事?」
「うんちょっと」
僕の前に置かれたカップを手に取り、一口飲んで喉を潤す。
ちなみに僕のコーヒーは砂糖1杯とミルクも入った飲みやすい味だ。
ブラックも飲めなくはないけど、好んで飲みたいとは思わない。
で、僕の今の悩み事は祝福の件だ。
母さんは向かい側の席に座って僕が話すのを待ってくれているので有難く相談させてもらう事にした。
「今VRマシンでやってるゲームに『祝福』って呼ばれる能力があって、これを如何に成長させるかが攻略の鍵になってくるんだけど、いつの間にか成長の方向性が期待してたのと違ってたみたいなんだ」
「ふむふむ」
「一度成長したのは変えられないし、僕はこれからどうすれば良いんだろう」
「……?」
簡潔に話過ぎたかな。
母さんは僕の話を聞いて「ん~」と小さく唸っていた。
これは『今ちょっと考えてるから待って』の合図。
なので僕はじっと待つことにした。
と言っても10秒くらいで僕の言葉を咀嚼出来たらしい。
「そういうことか。晃も男の子だものね」
「え、これって女の子なら悩むような問題じゃないの?」
「そうとは言い切れないけど、どちらかというと男性の方が抱えがちね。
少なくとも私はもうずっと前に乗り越えた問題よ」
「乗り越えた……その時はどうやって乗り越えたの?」
「ふふ、あるがままに、よ」
えっと、どういうこと?
でも母さんはにこにこと笑うだけで具体的な方針は教えてくれないらしい。
自分で考えろってことだろうな。
「今日はお父さんが早く帰ってくるそうだから、あの人にも聞いてみると良いわ」
ふむ。男子と女子で受け止め方が違うというなら父さんに相談してみると違う答えを貰えるかもしれない。
「ただその前に1つだけ教えて」
「なんだろう」
「晃はその『祝福』?が期待通りじゃなかったから捨てて1から育て直そうとか考えてるのかしら」
「ううん。流石にそこまでは考えてないよ。
これからどうにかすれば軌道修正出来るかもしれないし」
「ふふ、なるほどねぇ。
あの人ならなんて言うかしら」
僕の答えを聞いて母さんはどこか含みのある笑みを浮かべている、気がする。
一体何を隠してるんだろう。
そして夜。
夕食の席で父さんにも同じ相談をしてみた。
父さんは「ほうほう」と頷いた後。
「最初に1つ聞いておくが、晃はその祝福が思い通りにならなかったらどうするんだ。捨てるのか?」
「ううん、そんなことはしないよ」
「そうか。なら良い」
父さんは母さんと同じ質問を僕にして、僕の言葉に満足そうに頷いた。
そのうえで「そうだなぁ」と考え込み。
「俺なりの答えを伝えるのは簡単だ。
だけど同じような問題は今後も起きるだろう。
だから今のうちにしっかりと考えて自分なりの答えを出しておくべきだ」
どうやら父さんも答えを教えてはくれないらしい。
ただ考えるにしても何か糸口、ヒントのようなものは欲しいなぁ。
そうじゃないと相談した意味がない。
「ふむ。あまり納得していない顔だね」
「納得と言うか、どうしたものかと悩んでる感じ」
「じゃあ1つアドバイスだ。
父さんは自慢だが人生で一度も後悔したことが無いんだぞ」
「失敗したことが無いって事?」
「違う違う。失敗は山ほどしてきた。
だけどそれは自分なりに最善を考え全力を尽くした結果だ。
『過去に戻ってやり直せるなら戻りたいですか』って聞かれても答えはノーだ。
どうせ同じ選択をするしこれ以上の結果は得られないって胸を張って言える。
だから後悔することはない。
晃はどうだ?
そのゲームを最初からやり直したら今とは違う選択をしたと思うか?」
「あ~」
父さんの言葉を聞いて僕はこれまでの行動を振り返った。
ゲームを開始してガンマさんにどういう祝福にするか聞かれた時になんて答えるか。
最初の街に降り立ってどこに向かうか、誰と話すか、何をするのか。
フォニーやコロンと「初めまして」からやり直したら今と関係は変わるか。
そしてそれらを変えたいかどうか。
「多分変わらないと思う」
「ならそう言う事だ」
「うん」
「後はそうだな。
悩んだら『自分の求めているゴールを思い出してそこに全力で向かっているか』を考えて、『傲慢になっていないか』と省みることだ。
それで大体は解決する」
「……僕、傲慢になってた?」
「その『祝福』っていうのが自分の思い通りになってない事に悩んでる時点でそうだと思うぞ」
そうなのかな?
僕ならどうにかすれば思い通りに出来るって考えてた事が間違い?
いや、『僕なら』って考えてる時点でそうなのか。
どれだけ自分は優秀なんだって話だよね。
多分思い通りの成長をさせられてる人なんて全プレイヤーの中でも一握りの人だけ。
自分がその中に入ってるのが当然だと考えてたとしたら、確かに傲慢としか言いようがない。
「ありがとう父さん。
少し分かった気がするよ」
「よしよし。これで全部分かった気でいたら怒鳴りつけていた所だ」
冗談めかして頷く父さんに頷き返しながらこれからどうするかを考える。
まず父さんが言ってくれたゴールについては明確だ。
目が視えるようになったあの世界で色々な物や景色を見て回ること。これは変わらない。
そのうえでフォニー達と冒険して色んなヒト達と交流していく。
祝福については、まぁ上手く成長させられたら良いな、くらいの軽い気持ちで良いだろう。
今でも別に役に立っているのは確かなんだし。
ただし今回のを教訓に祝福に依存しない立ち回りも考えてみよう。
僕はもう持ってないけど女神の祝福は奪われる可能性もあるって話だし、今の祝福だっていつ無くなるか分かったものじゃない。
まずは謙虚に今の自分に出来る最大限を意識して活動して行こう。
(って、あれ? なにか忘れてるような……)
まぁいっか。
ひとまず明日から試してみたい事も考えてあるし、1つ1つチャレンジして行こう。
前話を問題定義で区切ると、そこからのルート分岐が10通りくらい出来てしまって悩みますね。
今回のちょっとしたヒントだけを貰うルートの他、明確な回答とお説教を貰うルートなど
答えについても数パターンあってどれを主軸にすると皆がどう成長していくのかと妄想が捗ってしまいました。




