141.ダンジョン謎解き走破中
王の間に足を踏み入れた途端、突き刺すような多数の視線が僕を襲う。
しかしそれに反して部屋の中は無人だ。
視線の主は左右の壁に刻まれた壁画で、そこには貴族や騎士などの人物が描かれており、物言わぬそれらの視線だけがはっきりと僕に向けられている。
『なんだ貴様は』
『王の御前であるぞこの無礼者め』
そう問い詰められている気がした。
部屋の中には他に椅子が1つあるだけ。
主不在の玉座が部屋の正面奥にこちら向きで置かれている。
この状況で玉座の前で膝を突く以外の選択肢があるのかな?
分からない。
けど失敗しても部屋の外に出されるだけならリスクもほぼ無い。
(ならいっそ開き直ってみるか)
僕が更に1歩前に出ると視線はさらに強くなった気がする。
でも相手は絵だ。手が出てくることは無いだろう。
むしろ出せるものなら出してみろと胸を張って歩き続けた結果。
(あれ?玉座の前まで来ちゃった)
ハルトさんの話では部屋の真ん中くらいで追い返されるはず。
今はそれを通り越して玉座に触れられるところまで来ている。
ということは、何が良かったのかは分からないけど正解だったっぽい?
いやでも壁画の視線はまだ僕に向けられたままだから終わってはいない気がする。
えっと、あと出来ることは。
(空いてるなら座っちゃうか)
流石に不敬が過ぎるかなと思ったけど、他に出来ることも無かったので玉座に座ってみた。
その瞬間。
さっきまでの痛いほどの視線が消えた。
壁画を見ればいつの間にか全員がこちらに頭を下げた姿に変わっている。
それはまるで臣下の礼だ。
え、つまり僕が王だと認識された?
じゃあもしかしてあのメモの意味はこうか。
『ここは王の間である。お前がこの部屋に相応しい者、つまり王なら王らしく堂々と振るまえ』
みたいな。
そしてまだ王様ロールプレイは続いてるのだとしたら、だ。
ハルトさん達もこれに巻き込めれば突破出来るんじゃないだろうか。
「冒険者たちよ。こちらへ来るがよい」
偉そうな口調で扉の外のハルトさん達に呼びかければ、僕の意図を汲んでくれたらしく静かに入室し、部屋の真ん中を過ぎた所で膝を突いた。
部屋の外に返されないってことはセーフだな。
「面を上げよ」
「はっ」
えっと、この後はどうするんだっけ。
「此度は大儀であった。奥の部屋に宴の準備をしてある。
そちらでゆっくり骨を休めよ」
「ははっ、ありがとうございます」
あ、後ろの人が笑いそうになってる。
何か言葉を間違えたかな。
ともかくハルトさん達は入ってきた扉とは違う別にもう1つあった扉から出て行った。
それを見送った後、僕ももういいだろうと立ち上がり、その扉から部屋の外に出た。
無事に抜けれたという事は、一応正解だったっぽい。
王の間を抜けた僕達の前に広がるのは変わらず何の変哲もない石造りの通路。
先に行ったハルトさん達は僕が来るのを待っていてくれた。
「ラキア君のお陰で先に進むことが出来たよ。ありがとう」
「いえ。僕もたまたま上手くいっただけですから」
いや本当偶然としか言いようがない。
「ここからはまたモンスター討伐しながら迷路踏破みたいですね」
「だろうな。そこで提案なんだがこの先も僕らと一緒に行かないか?」
「あ、はい。よろしくお願いします」
奥に行けばモンスターも強くなって行くだろうからその申し出はむしろ助かる。
そうして僕はハルトさん達のパーティーに参加させてもらう事になったのだけど。
(平和だ)
元々【電光石火】で斥候を担当していた人が引き続きパーティーの前を歩いて罠を見つけたりモンスターの接近を報せてくれるし、モンスターとの戦闘もハルトさん達だけで十分勝てるところに僕のボウガンによる援護射撃が加わった形なので更に余裕だ。
後方の警戒を頼まれたけど当然そんなに後ろからモンスターが来ることもないし。っと。
「後ろからオーガ3体来ます」
「すまない、足止め頼めるか?」
「分かりました」
ハルトさん達が前でゴブリン集団を対応してる間に僕はオーガの対処だ。
オーガは身長180センチのパワーファイター。
言い換えるとスピードはそこまで脅威じゃない。
『ガアッ』
「すいっと」
その振り下ろしを受け止めるのは厳しくても避けるのは僕でも余裕だ。
脇に抜けてトトさんの短剣を一振り。
ザクっと肉を切り裂く手ごたえを感じつつ、更に逆手で背骨にブスっと1体目。
2体目は武器を振り上げる動作に合わせて距離を詰めてひじの内側を切り上げつつ心臓を一突き。
3体目は距離があったのでボウガンに持ち替えて膝を撃ち抜く。
うずくまって頭が下がったので延髄を切り落とした。
人型に近いモンスターは急所が分かり易くて助かる。
「こっち対応終わりま……どうしたんですか?」
振り向くとハルトさん達が何故か呆然とこっちを見ていた。
何か問題があったかな?
「すまない。足止めを頼んだつもりだったんだが」
「俺らがゴブリン倒す間に終わらせるってどんだけだよ」
「え、というかラキア君ってめっちゃ強い?」
いやいや、普通だと思うんだけど。
先日の武闘大会でもミッチャーさんに手も足も出なかった訳だし。
「ちなみに俺達に合流する前ってモンスターとの戦闘はあったの?」
「普通にありましたけど」
「6本腕の奴も?」
「はい。横に回るように立ち回ると楽ですよね」
「「えぇ~」」
僕の返事を聞いて作戦会議が始まってしまった。
(6本腕って中ボス級の強さだったよな。ソロだと厳しいと思ったんだけど)
(トップアタッカーのミッチャーが居ないって言っても俺達だって攻略トップ勢なんだが)
(戦闘を避けながら突破してきたんだと思ったけど違ったんだな)
「あ、お代わり来ましたよ~」
(いや彼でも敵の数が増えたら手に負えなくなるだろう)
(ってちょっと待て)
「ラキア君!?」
「はい?」
追加でやってきたゴブリン集団の相手をしてたら後ろから声を掛けられた。
振り返ってみたら作戦会議は終わったっぽい。
「って後ろ後ろ!」
「あ、はい」
振り返る前に来るのは視えていたから問題ない。
タックルを仕掛けてきたゴブリンを横に一歩ズレて避けて、がら空きの背中に短剣を振り下ろした。
ここのモンスターは急所にクリーンヒットしたら簡単に倒せるから助かる。
ゴブリンは残り4体。
「すみません、もうちょっと待ってもらっていいですか?」
一言断ってからぱぱっと残りを片付ける。
それから改めてハルトさん達の所に戻ったんだけど、なぜかすんごい微妙な顔で迎えられた。
「……どうしました?」
「いや、何でも」
なんだったんだろう。
ともかく前進を再開した僕達は2つ目の扉を見つけた。
それと同時にメモも。
『大臣の間。調停者の力を示せ』
今度の部屋の中にはテーブルが1つあるだけ。
そのテーブルの上にあるのは白と黒のチェスの駒。
盤面は結構後半っぽくて何となく黒有利っぽい?
ただ僕はチェスのルールを知らない。
なのでハルトさん達にお任せすることにした。
「どれどれ。えーあれ。なんだこれ。
もうあと1手でチェックメイトじゃないか」
「そうなんですか?」
「ああほら。ここをこうして」
と言って黒のナイトを動かした瞬間。僕らは部屋の入口に戻されていた。
どうやら失敗だったらしい。
もう一度部屋の中に入ると盤面はさっきの駒を動かす前に戻っていた。
「メモに書いてあった『調停者の力を示せ』って言うのがヒントなんですよね」
「調停者ってことは引き分けにしろってことなのかも」
「あっ、そうかステイルメイトか。なら白のこの駒をこっちに動かして」
コトッ
白の駒を動かしたら勝手に黒の駒が1回動いた。
「よし、入口に戻されなかったな。
じゃあ後はここをこうすれば、ステイルメイトの完成だ」
カチャッ
おぉ。最後までよく分からなかったけど、奥の扉の鍵が開いた音がした。
どうやらこれで良かったらしい。




