140.手がかり求めてダンジョンへ
教会を出て冒険者ギルドに来た僕は早速ニットさんに『導きの勇者』について問い合わせてみた。
「『導きの勇者』に関連するダンジョンですか。
それでしたら少し遠いですが、南西の『終わりなき迷宮』を探索してみるのが良いでしょう」
やっぱり名前を出せば教えてくれるらしい。
地図で場所を教えて貰ったけど、馬で移動すればそこまで大変じゃないかな。
「終わりなきってことは相当広いんですか?」
「それもありますが、中は複雑な迷路になっています。
魔物やトラップも多く存在しますので、それらに対処している間に現在位置を見失い迷子になるそうです。
景色も変わり映えしないので延々と同じ場所を彷徨っていると感じ、人によっては前に進む気力を失ってしまうそうです。
ただ幸い攻略を諦めると外に放り出される魔法が掛けられていますので生還率は高いダンジョンとなっています」
なるほど、確かに厄介そうで、それこそ『導きの勇者』じゃないと攻略出来ないんじゃないかって感じだ。
僕の祝福では普通の人が視えないモノが視えたりするけど、正解の道が分かったりはしない。
このままノーヒントで行けば苦戦するのは間違いない。
「過去にそのダンジョンを攻略した人は居るんですか?
何か攻略のヒントがあると嬉しいんですが」
「そうですねぇ。
ダンジョンには様々なギミックがあり、各所にヒントとなる先人のメモが刻まれているそうです。
ただそのメモの内容は理解するのが困難だとも聞きます」
「まぁ意味が分からなくても、メモがある=何かあるって分かるだけで大分助かりますね」
よし、なら後は実際に行ってみて、そのメモを参考にしながら進んでみよう。
そうと決まれば早速出発だ。
王都を出た先の街道は雪かきがされていたので馬でも走りやすい。
また道中、何組かのプレイヤーが周囲の雪を集めて雪山を作っている姿があった。
あれは恐らく雪像作りの準備かな。
大きい所だと高さ5メートルを超えてなお積み上げようとしてたんだけど、どんだけ大きい像を作るつもりなのか。
サイズが評価に影響するのかな? 分からないけど。
そうしてひたすら走り続け、後半は街道から外れたので大変だったけど、何とか目的のダンジョンに到着した。
「これが入口っぽいけど。立派な石造りの小屋?」
サイズはこの世界の一般的な民家よりも小さい。
しかし入口の扉はかなり大きい。ほぼ壁1面を使ってる。
ということは。
ぎぃ……
「やっぱり」
扉を開ければ地下へと続く階段を発見。
ダンジョンの本体は地下のようだ。
それと早速扉にメモが書いてある。
『正しい行動が必ずしも正しい結果を生むとは限らない。逆もまた真なり』
う~ん、なるほど。全然何が問題でどうすれば良いのか分からない。
階段を降りちゃいけない? いやでも他にどうしようもないしなぁ。
ひとまずメモの内容を記憶しつつ階段を降りることにした。
ダンジョンの中は明るく、壁も床も綺麗に切り出された石材で出来ていた。
明らかに人工の建物なんだけど、一体誰が何のためにこんなダンジョンを造ったのか。
まぁゲームだからで済ませるべきかな。
ともかく綺麗に真っすぐな道を進めば早速T字路にぶつかった。
「どっちが正解かな」
床を見ても壁を見ても特に気になる何かは無い。
ならまずは右へ。
その次の分岐も右へ右へと進んでいく。
これでいつかはゴールに着けるはず。
こういうのを右手の法則って言うんだっけ。
今のところ道中で幾つか罠を見つけたけど引っかかったりはしない。
僕の『視力』ならくっきりと罠のスイッチが視えるので避けて通るだけだ。
出てくるモンスターも武装した小鬼と鬼とその進化系っぽい6本腕の大鬼だけ。
どうやらここは鬼系のモンスターで統一されているらしい。
お陰で戦闘も楽だ。
体形が同じなら基本的な動きは似てるし、パワーとスピードが上がっても対応できない程じゃない。
これがもし腰が360度回転しますとか、手足がゴムのように伸びますっていうなら苦戦したかもだけど。
そして歩くこと15分。
道を塞ぐ扉と、その手前で休憩する見覚えのある人達を見つけた。
「えっと、ハルトさん?」
「おや、ラキア君。こんなところで会うなんて奇遇だな」
さわやか笑顔を向けてくれる【電光石火】チームのリーダー、ハルトさん。
一緒に居るのは同じチームのメンバーだけどミッチャーさんの姿はない。
「今日はミッチャーさんは一緒じゃないんですか?」
「あぁ。俺達はいま勇者の情報を探す班と雪像を建設する班の2手に分かれていてね。
彼女には雪像の方の指揮をお願いしているんだ。
そういうラキア君はひとりなのかい?」
「はい。うちは基本自由行動なので」
僕らのチーム【十六夜】は常に一緒に行動する訳じゃなく、手が足りなかったら応援を呼ぶというスタンスだ。
あ、別に特別用事が無くても「暇だから話し相手になって」みたいな理由で呼ぶのもありだし、逆に「今日はひとりで居たい気分だから」という理由で誘いを断っても良い。
一応リーダーは僕って事になってるけど、他の皆より偉い訳でも何かが優れている訳でもないから命令する気なんて起きない。
ただ僕の返事を聞いたハルトさんが首を傾げてたのが気になる。
まぁチームによって決まり事とか大事にしてることは違うか。
「ところで皆さんはどうしてここで休憩してるんですか?」
「ああ、これさ」
くいっと指で示したのは壁に埋め込まれたプレートに刻まれたメモ。
『ここは王の間である』
たったそれだけ。
それだけで一体何を理解しろと言うのか。
「これの所為で立ち往生してるんだ」
「確かに意味が分からないですね」
「ああいや。実はこの言葉は別のゲームで見たことがある。
『ここは王の間である』この言葉の後に『ゆえに中に入る者は頭を下げよ』って続くんだ。
だからしゃがんだ状態や伏せた状態なら通れると考えたんだが駄目だった。
部屋の中ほどまで進んだ所で強制的にここに飛ばされてしまう」
「ふむ」
聞いた感じ合ってそうな気もするけど。
でも追い返されたって事は違ったのか。
「一度僕も挑戦してみて良いですか?」
「ああ。むしろ頼む」
道を譲られて扉の前に立った僕はふと考えた。
この扉は押し戸か引き戸か。
イチゴ狩りの時は盛大に逆だったし。
ここはさっき通った実績のあるハルトさんに頼むべきか。
「すみませんハルトさん。扉を開けて貰っても良いですか?」
「ん?あぁ良いとも。
中にモンスターは居ないからそこまで警戒しなくても大丈夫だが用心深いのは良いことだ」
若干誤解しつつも僕のお願いを聞いてハルトさんが取っ手に手を掛けて引っ張った。
重厚な造りの扉が静かに開いていく。
(引き戸だったか)
内心、押さなくて良かったと思いつつ僕は部屋の中に1歩踏み入れた。




