第2話:タノシ回想編 - 碧き星の大冒険(下)
これら数々の宝物を手に入れた後、私はさっそく調査を開始したわ。中でも最大の収穫だったのは、あの「遺骸」と「丸い珠」ね。
まずは、雪のように白いあの珠。そこには言葉では言い表せないほどの神力が宿っていた。
無理やり体内に取り込むと、境界突破を前に焦燥しきっていた私の心は、たちまち凪のように静まり返ったわ。
……信じられない!
それを飲み込んだ瞬間、脳裏に一つの幻影さえ浮かんだ。
一本の奇妙な大樹が、目の前でゆっくりと成長していく光景。
私の時間は凍結されたかのように、その場所から離れることも、未来へ跳ぶことも許されない。
……十年……。
いいえ、三十年は過ぎたかしら……。
樹の幹は次第に太くなり、枝葉は青々と茂っていく。
幻影はそこで終わるのだと思っていたけれど、最初の一粒の果実が地に落ちたその瞬間……。
突如として、さらなる変転が始まったわ!
樹皮は見る間に剥がれ落ち、枝は一本、また一本と折れていく。
葉はいつの間にか赤く染まり、梢からひらひらと舞い落ちて……。
最後にはすべてが大地の一部となり、枯れて荒れ果てた主幹だけが残された。
すると、そこから再び新しい芽が吹き出し、すべてが繰り返される。
そこで、幻影は幕を閉じた。
意識が現実に戻ると、私の脳内には未知の知識が溢れていたわ。
――「輪廻」、「禅」、「空」。
これらはこの世界独自の修練法なのかしら?
肉体を鍛えるのではなく、心を養うことで凡人の限界を超え、神へと至るだなんて。
「世界は本当に広いのね……」
世界の広大さに感嘆しつつ、私はこの悟りを深く胸に刻み込んだ。
もっとも、この神秘的なエネルギーと私の神力は、本質的に相反し、反発し合う存在。
完全に自分の神力として変換して貯蔵することはできなかったわ。
それに、出家だの禁欲だのといったことには更々興味がないもの。
だから、一番の対処法は「放置」に決定。
攻撃性があるわけでもないし、放っておいても実害はないでしょう。
けれど……予感があるの。
それが吉か凶かは分からないけれど、この珠はとても重要なものだって。
いつか、この不思議な力が役に立つ日が来るかもしれないわね。
一方で、遺骸の方は少し残念な状態だったわ。
四肢も胴体もバラバラで、宿っていた神力はほぼゼロに等しい。
それを見た時は、正直がっかりしたわね。
強者を喰らって進化するという、これまでの定石が全く通用しないんですもの。
でも、ただ捨てるのも勿体ない。
「タダなら食べておきましょう」という軽い気持ちで、私はその死体を丸ごと飲み込んだわ。
けれど、母神様は見捨てていなかった!
なんと、その死体の脳の部分には、記憶の断片が六十パーセントほど保存されていたのよ。しかも、驚くほど鮮明に。
この思わぬ幸運に、私は歓喜したわ!
すぐさま記憶をすべて吸収した結果、大量の機械設計図や、神器と魔法の理論モデルを手に入れることができた。
そして、この遺骸の真の正体も判明したわ。
――知恵の神、メフィスト……。
遥か彼方の異星からやってきた、神霊の一柱……。
どうやら戦争のために、この星を訪れたらしいけれど。
……でも、どうして死んでしまったの?
それに、どうして「タイヤの中」なんかに詰め込まれていたのかしら?
あちらの風習? 神が死んだらああやって埋葬されるの?
……全く理解できないわ!
この星の神々といい、この異星の神といい、思考回路が謎すぎる。
まあ!
収穫はあったけれど、今の私にはあまり使い道がないわね。
私はパワー体系の道を進んでいるもの。こんな難解で退屈な理論は、むしろ苦痛でしかないわ……。
あ、でも!
「寝つきを良くする」のには、最高に役に立ちそうね。
けれど、本当に驚くべきことはその後だった。
ある日、脳内で異星の神の記憶を再生していたら、とんでもない「強くなる方法」を見つけてしまったの。
――「信仰変換方程式」!(赤い線で強調:近道!)
修練も、自己突破も必要ない。神力を増幅させ、楽々と上の位階へと進めるチート的な手法よ。
宗教を創り、神国を築き、人間という知的な……けれど欲望にまみれた種族の特性と、その圧倒的な個体数を利用する。
そうすれば、彼らから絶え間なく「信仰の力」が供給されるというわけ。
神霊はその力を自身の神力へと変換し、肥大化していく。
その過程で、神自身が支払う代償はほとんどない。
たまに奇跡を起こして、人間に祝福を与えてやればいいだけ。たったそれだけなのよ!
「嘘でしょう!? こんな簡単な方法で強くなれるの?」
ベッドで寝っ転がっているだけで、天井から金貨が際限なく降ってくるようなものじゃない。
楽すぎだわ!
この方法を知った時、私は本当に衝撃を受けた。私が子供の頃に教わってきたこととは、あまりにかけ離れていたから。
私が小さかった頃、母神様はいつもこう言っていたわ。
「この世に、拳一発で解決できないことなんてないわ! もしあるなら、二発叩き込めばいいのよ!」
「思い出してごらんなさい。あなたの父神様ったら、昔はツンデレで私を門前払いしたの。絶対に受け入れないって。でも、私が数発お見舞いしてあげたら、素直に家の扉を開けてくれたわよ〜」
「……それは君が扉を三十六枚もぶっ壊したからだろう。海の中で大理石を手に入れるのがどれだけ大変か分かっているのか……石材を積んだ輸送船が毎日うちの上を通るわけじゃないんだ。それに、彫り直すのがどれだけ重労働か……」
父神様がリビングの隅で、ぼそぼそと独り言を漏らしている。
普段は高潔で逞しいその後ろ姿が、橙色の琉璃ランプに照らされて、なぜか異様に暗く沈んで見えるわ。
それでも、彼の手が止まることはない。
コンコンコン!
キンキンキン!
パラパラ……。
リズムの良い打撃音と、削られた石が落ちる微かな音が、リビングを支配している。
よく見れば、父神様は小さなハンマーと彫刻刀を手に、新しくリビングに置かれた「クトゥルフ石像」の造形に勤しんでいた。
彫刻の音に混じって、怨念のこもった愚痴が聞こえてくる。
「あなた、何か言ったかしら?」
母神様が、これ以上ないほど輝かしい笑顔で尋ねた。
太陽よりも眩しい笑顔。
「……いや、君を愛していると言ったんだ!」
「あら! 嬉しいわ! 私も愛してるわよ! じゃあ善は急げね。今すぐ二人で赤ちゃんを作りに行きましょう! タノシちゃんも、弟か妹が欲しいって言ってたものね〜」
「?」
……私、そんなこと言ったかしら?
「ちょ、子供の前で変なことしないで! まずはその手を離して! せめて寝室に行きなさいよ……っ!」
あの時、父神様が母神様に引きずられて寝室へ消えていった無様な後ろ姿を思い出し、幼い私はしみじみと感じたものだわ。「やっぱり母神様が正しいわ。拳の大きさこそが、この世の唯一の心理だもの!」
それ以来、私はずっとその価値観を信奉してきた。
修行だろうと獲物の捕食だろうと、常に難易度が最も高く、自分のポテンシャルを極限まで引き出せる方法を選んできたわ。
その成果は実に素晴らしいもので、わずか千数百年という短期間で、私は中位神霊の境界まで上り詰めたの。
父神様曰く、この修練スピードは前代未聞、空前絶後。
私が彼を超えて歴代最強の「クトゥルフの王」になるのは、もはや時間の問題。
母神様でさえ、たまに陰鬱な眼差しで私を見つめることがあったわ。
あの氷のように冷たく、「芽が出る前に摘み取っておくべきかしら」と迷っているような視線……あれには、たまに本気で肝を冷やしたわね。
まるで私が愛娘ではなく、警戒すべき強盗犯であるかのような……。
おっと!
また話が逸れたわね!
とにかく、前回の境界突破からすでに五十年が経過した。
そしてその頃から、私ははっきりと自分の「限界」を感じ始めたの。
越えられない高い壁が、私の前に立ちはだかっている。
自力で再び境界を突破するのは、ほぼ不可能に近いわ!
けれど幸運なことに、今の私は「信仰変換方程式」というショートカットを知っている。さらに珠による精神修練法まで。
これこそが、私を再び進化させる鍵に違いないわ!
父神様や母神様のような「主神」の位階に至るのも、決して夢じゃない!
よし!
決めたわ!
宗教を創設しましょう!
おっ!
ちょうど上の海域を一隻の船が通りかかったわね。彼らを私の最初の信者にしてあげましょう!
船員A:「化け物だ! 逃げろぉぉぉ!」
「#&$#%#@&%」
(翻訳:人間よ、私の話を聞きなさい……)
船員B:「ぎゃあああああああ!」
「&%#$%#%#%$#」
(翻訳:慌てなくていいわ、私は別に……)
船員C:「助けて! 誰か助けてくれ! 母ちゃーん! 母ちゃーーん!!」
「&#%#%#&@@^#^@」
(翻訳:望みを叶えてあげようと言っているのよ、だから……)
船長:「警察を呼べ! 海上保安庁に連絡だ……いや! 航空母艦を派遣させろ!」
船員D:「はぁ? この国のどこに空母なんてあるんですか!?」
船長:「そんなことはどうでもいい! 早く電話だ! 救難信号を送れ! 早く助けに来いと言え!」
「#^#&$#%%%#$」
(翻訳:私の信者になりなさい……)
「死にたくねぇぇぇ!!」
「まだ繋がらないのか!?」
「船長! ダメです、通信機器がすべて故障しています! 外部に助けを呼べません!」
「くそっ! なら船を出して逃げるぞ! 野郎ども、命が惜しければ船倉に隠れろ! 全開でこの忌々しい化け物から逃げ切るんだ!」
「そうだ、逃げろ! 逃げるんだ!」
「船長! エンジンがかかりました!」
「何をぐずぐずしている、最大船速で突っ走れ!」
全船員:「うおおおおお!」
漁船は最大馬力で遠方へと猛進し、瞬く間に怪物から二十メートル引き離した。
彼らが「助かった」と確信したその瞬間……。
「%#$%@$#%#%」
(翻訳:どこへ行くの? 待ちなさい! 前方は……)
ドォォォォン――!
巨大な衝撃音が結界内に響き渡る。船首は激しい衝突によって無残にひしゃげ、漁船は完全に転覆した。
大量の海水が穴から船倉へと流れ込み、船員たちの最後の呼吸を奪っていく。
船がゆっくりと沈んでいく中、タノシは中の生体反応が一つ、また一つと消えていくのを感じていた。
……あいつら、一体何をやってるの?
前に結界があるって分からなかったのかしら?
どうしましょう……。
助けるべき?
でも、あいつらさっき私の話を全く聞いてなかったし……。
待って!
今助けてあげれば、恩を売ることができるじゃない!
あの男の記憶にも強調されていたわ。「相手の危機的状況に応じて、救いの手を差し伸べた時に発生する信仰心はより純粋なものになる」って……。
……やっぱり、助けてあげましょう!
あ。
なんだか……。
間に合わなかったみたい……。
[#.........]
最後の生体パルスが、ついに脈動を止めた。
白く膨れ上がった死体が、大雨の後のキノコのように、次々と海面に浮き上がってくる。
……まあいいわ!
人間なんて他にもたくさんいるし、次を探せばいいだけよ!
五時間後。
「@$#%$@&....」
(翻訳:おかしいわね……)
ゴボゴボ……。
目の前でゆっくりと沈んでいく「十五隻目」の船を見つめながら、タノシは自己嫌悪……ではなく自己懐疑に陥っていた。
私はちゃんと「願いを叶えてあげる」って言ったのに、どうしてみんな無視するの? 返事すらしてくれないじゃない。
人間って、ものすごく強欲な種族なんじゃないの?
常識的に考えれば、這いつくばって私の足元に跪き、必死に祈りを捧げるはずでしょ?
もしかして、あの記憶の内容が間違っていたのかしら?
……いや、そんなはずはないわ。
あいつの星だろうと、私の住んでいた世界だろうと、人間の特性なんて似たり寄ったりよ。
強欲、好戦、好色……。
この星の人間だけが例外なんて、あり得ないわ。
はぁ……。
理解に苦しむわね……。
もう一度記憶をひっくり返して、何か見落としがないか探してみましょう……。
……ん?
これは……?
「『人間は巨大な物や生命に対して崇拝の念を抱くこともあるが、[あまりに巨大]で[圧迫感]のあるものに対しては、逆に恐怖を感じるものである……』」
「『ゆえに人間を勧誘する際は、体格を普通の人間に毛が生えた程度のサイズに留めることを推奨する。また、自身の容貌が相手を恐怖させないよう注意を払うこと……』」
あら!
私のサイズが彼らを怖がらせていたのね!
どおりで私を見るなり逃げ出すわけだわ……。
だったら、体を小さくすればいいだけの話じゃない。
ふふん!
それっ!
「うん! これくらいの大きさなら大丈夫そうね!」
他に気をつけることは……。
「ん? 『個体差による信仰心の純度の高低』?」
難しい言葉ね……。一体どういう意味かしら?
「『……人間自身の資質に加え、神霊との魂の波長の適合度も極めて重要である……』」
「『信者を募る際は、性格が似通っている者、あるいは電波(波長)が一致する者を選ぶことを勧める。そうすれば、その者は高純度の信仰心を捧げ、その神霊に対してより強い好意を抱くようになるだろう』」
「『結局のところ、人間には生まれつき相性の良い相手がいるものであり、同類にしか理解できない事象も存在するのだ……』」
「なるほどね……同類、か」
もしそんな人間がいれば、話は早いのだけれど……。
けれど残念なことに、自分と電波が合う人間どころか、彼女を信仰しようとする生物すら一匹も見当たらない。
「はぁ……」
なんて面倒なの……。
いっそ諦めちゃおうかしら。
どうせこの星には人間が腐るほどいるんだし、この「グルメマップ」を片っ端から攻略していけば、少なくともあと一、二段階はランクアップできるはずだわ。
ええ!
そうしましょう……。
[#####~]
……ん?
この周波数……。
同類かしら?
いいえ!
道中の海域はくまなく探査したけれど、この世界には私のような巨体を収容できる大型の巣なんて存在しないし、私と同じクトゥルフの一族だっていなかったわ。
じゃあ……この電波は誰が発しているの?
まさか……これがいわゆる「電波が一致する」人間ってやつ!?
嘘でしょう!
こんなに都合よく!?
私が必要としているタイミングで、そんな偶然があるかしら?
はははははは!
母神様、見ていてください!
タノシちゃん、大勝利よ!
私はやっぱり、天に愛された子なんだわ!
なんてツイてるのかしら!
あはは!
どこにいるのか見てやりましょう……。
「……っ!」
見つけたわ!
この方位のすぐ先!
この海の向こう側!
あの島の上よ!
「行くわよ!」
私の同胞! 私の第一号下僕!
必ず待っていなさいよ!




