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第1話:タノシ回想編 - 碧き星の大冒険(上)

この世界に来てから、数えてみればもう三ヶ月以上が過ぎた。最初は少しばかり動揺もしたわ。「もし帰れなかったらどうしよう?」とか。

 「現地の神々に包囲されたらどうすればいいの?」なんて心配もしたけれど。

 でも、今日に至るまでには、もうすっかり慣れてしまったわ。

 結局のところ、完全に私の取り越し苦労だったということも証明されたしね。

 何しろ、この大地から生み出される魔力なんて、哀れなほどに微々たるもの。目に映るあらゆる生物も、死ぬほど弱っちいものばかり。

 私を脅かせる存在なんてどこにもいないし、地元の神様とやらは一人も見かけないじゃない。


「それにしても、妙なところね……」


 道中の観察によれば、環境も生物も、果ては人間の歴史や技術、建築に至るまで、高次生命体が干渉した痕跡がこれでもかと残っている。

 理論上、この星にはかなりの数の神々がいてもおかしくないはずなのに。

 どうして私は、神の一柱にすら出会わないのかしら?

 もっと奇妙なのは、空に竜は飛ばず、深海にはクラーケンもリヴァイアサンもおらず、地上にはスライム一匹見当たらないことよ。

 その代わりに、空には奇妙な鉄の鳥が大量に飛び交い、至る所に細かな粒子を撒き散らしながら悪臭を放つ、おぞましい物体が溢れている。


「本当に、気味の悪い星だわ……」


 目に映る光景のすべてに、私は言いようのない不可解さを感じていた。

 あるべき場所に、あるべきものがいない。

 代わりに、別の何かがそこに居座っている。

 まるでリンゴの木の幹に、リンゴは一つも実らず、代わりにスイカが山ほどぶら下がっているような……。

 奇妙で、矛盾している。

 どうしてこれほどまでに「継ぎ接ぎ感」の激しい場所が存在し得るのかしら?


 それだけじゃないわ……。

 何より驚き、そして失笑してしまったのは、世界を統治しているのが「人間」という下等生物だということ。

 冗談でしょう!

 あんなの、ゴブリンよりほんの少しマシな程度の低級種族じゃない。

 現地の神々は揃いも揃って白痴なのかしら?

 家畜に主人の土地を占領させ、あろうことか主人の家まで管理させているなんて。

 一生のうちで見た中で、断トツで一番愚かな決定だわ!

 同じ神霊として、こちらが恥ずかしくなってくるわね。


 まあ!

 文句は言ったけれど、考えようによっては私にとって大層都合がいいわ。

 さっきもいくつかの神の領地を通ったけれど、追い払われるどころか、結界も禁制も何一つ遭遇しなかったもの。

 まるで見張りのいない農場に来たみたい。中の鶏もアヒルも牛も羊も捕り放題、財宝も使い放題。

 何の代償も払わずに、相手が長年積み上げてきた成果を楽々と手に入れられる。この感覚、たまらないわね。

 これがいわゆる「共同富裕」ってやつかしら?

 「お前のものは私のもの、私のものは私のもの」……ふふ、あはは!


 そんな日々が数ヶ月続いた。

 一度もお目にかかったことのない現地の神々に「温もり」を届けるべく、私の「地方貧困救済」の旅が始まった。

 え?

 救済どころか、他人の財物を強奪してるだけじゃないかって?

 心外ね!

 このわたくしが、魔力の波動すら感じられないようなド田舎までわざわざ足を運んであげているのよ。

 多少の路銀をいただくくらい、当然でしょう?

 冷えた赤ワインの一杯を所望することの、どこが横暴だというの?

 それに!

 遠方からはるばるやってきた客人を歓迎するために、ちょっとした贈り物を用意する。これは教養ある人、あるいは神として備えておくべき基本常識じゃないかしら?

 はぁ……。

 だから田舎という遅れた場所は嫌いなのよ。民度が低くて無知な連中ばかりで……。


 おっと、少し話が逸れたわね。

 本題に戻りましょう。

 あの氷雪の大陸を起点に、私は海流に乗ってあちこちを漂い、ついに別の教領の海岸へと辿り着いた。

 上陸して遊んでいこうかしらと思ったけれど、触手を海面に伸ばした途端、空気のムワッとした熱気が全身を襲ったわ。


「うぅ……気持ち悪い。起きたくないわ……もう少し寝かせて……」


 私は即座に上陸の意志を捨て、触手を冷たい海の中へと引っ込めた。


「あぁ〜、やっぱりここが一番落ち着くわね〜」


 どうせ私は下賤な人間みたいに仕事へ行く必要もないし、このまま心地よく朝寝坊を決め込んで、海流に身を任せて世界一周でもすればいいわ。

 ええ!「自然に目が覚めるまで寝る」こそ正義よ!


 というわけで、私は寝ながら受動的に海流に運ばれていった。

 お腹が空けば、上を通りかかる船をいくつか捕まえて腹を満たす。

 未知の神威を感じれば、その日の気分次第で上陸するかどうかを決める。


 ついでに言うと、海上を旅している間、何度か不可解な襲撃を受けたわ。相手は三隻の奇妙な鉄甲船。

 外見はかなり独特で、棘のない巨大なナマコみたい。表面は真っ黒な金属の殻に覆われていて、クジラみたいに潜水と浮上を繰り返すの。

 でも、困ったことに……。

 あいつら、なぜかストーカーみたいに海底で私を追いかけ回してくるのよ。

 話しかけてくるわけでもなく、かといって去るわけでもない。常にイライラさせるような距離を保って。

 遠くから……。

 音もなく……。

 ずっと……。

 私を……見つめてる……。


「あなたたち、何なの? 独身女性をつけ回すのが犯罪だって知らないのかしら?」


 力を溜めて一気に突進すると、私の体は砲弾のように水面を飛び出し、水平線の彼方へと着地した。影すら見えないほど引き離してやったわ。


「ふん、これでよし、と」


 あの変態どもを撒いたことを確認して、私は再びぶらぶらと漂い始めた。

 けれど、しばらくすると、またあの不快な視線が戻ってきたの……。

 振り返れば、案の定、またあの三隻。


「へぇ……どうやら今日、神の威光を思い知らせてあげないと、私のことを『はぐれた可愛い小イカちゃん』だとでも勘違いし続けるみたいね!」


 いざ仕留めてやろうとしたその時、三匹の鉄甲魚が突然、数十本の金属の矢を放ってきた。

 その矢が私の体に触れた瞬間、大爆発が起きた……なんてね!

 矢が私の肌に触れる前に、それはすでに邪神の力に満ちた大量の海水に浸食されている。

 私が一念じるだけで、矢の制御権はすぐさま私の手に渡った。


「返してあげるわ、お礼はいらないわよ〜」


 触手を軽く一振りして、すべてを来た道へと送り返してあげた。


 ドォォォォン!

 ドカカカッ!!!


 絶え間なく続く爆発、黒煙を上げて沈みゆく残骸、そして天を衝く巨大な水柱。

 目の前の光景は、なんだか妙に懐かしい感じがしたわ……。


「そういえば……あの氷雪の大陸を離れた時も、同じようなことがあったかしら?」


 あの日、私は予期せずこの世界へとやってきた。

 ふと我に返ると、そこは見渡す限りの氷原の上。

 少し離れた場所には、雪に半分埋もれた巨大な飛空船まであったわ。

 船からいくつかの戦利品をくすねた後、私は海岸沿いの切り立った絶壁へと向かった。

 何も考えずにそこから飛び降りたのだけれど……。

 不運にも、一隻の灰色をした小さな舟をひっくり返してしまったの。

 その舟もどうやら金属製のようで、星が散りばめられた旗が掲げられていたわ。薄暗い灰色の甲板には、三十六羽の小さな鉄の鳥が羽を休めていた。

 そのうちの五羽が、転覆する前に空へと舞い上がり、例の鉄甲魚と同じようなものを私に向かって放ってきたわ。

 当然、そんな玩具が私に通用するはずもないけれど!

 鉄の鳥たちを一つずつ「巣」へとお帰り願ったら、あの時の爆発もなかなかに壮観だったわね……。

 目の前で揺らめく眩い火柱と、赤く染まっていく海水を見つめながら、私はふと思った。


 グゥゥゥゥ〜……。


「!」


 お腹が……。

 少し、空いてしまったみたい……。


「向こうから食事を運んできてくれたというのに……これを見過ごすなんて、淑女としてあるまじき振る舞いだわ!」


 父神様もおっしゃっていたわ。「食べ物を粗末にするのはいけないことだ」と。

 それに、「食べられることこそが幸福」なのだとも!


「父神様は今頃どうされているかしら……。まだ他の同族に仕留められていなければいいけれど」


 脳裏に一瞬、荘厳で巨大な後ろ姿がよぎり、空虚な寂しさが芽生えかける。

 けれどすぐに、それを上回る強烈な空腹感が寂しさを塗りつぶした。


「いいわ! 考えても仕方のないことね。まずはこのお腹を満たしてからよ!」


 まずは、神術を使ってバラバラになった肉片と血水をかき集める。

 それらを繋ぎ合わせ、中の不純物を濾過していく。特にあの吐き気のするような微細な粒子は、徹底的に排除しなくては!

 それから、海水の中で二、三度振り回して温度を下げ、ついでに程よい潮風の風味を馴染ませる。

 肉の温度が、指で触れても火傷しない程度まで下がれば、特製「異世界風・炙りステーキ(インド洋風味)」の完成よ。


「さて、お味は……」


 こんがり焼けた皮をそっと引き裂くと、中から優雅なローズ色をしたジューシーな身が顔を出す。

 それを鼻先に近づけ、思い切り吸い込んだ。


「ん〜、なんて芳しい香りかしら!」


 黄金色の表面に、キャラメル色の不規則な焼き目。なんて目に麗しいのかしら。

 肉を蒸し焼きにした独特の香りに、周囲に充満する絶望の感情が混ざり合い、私の食欲をこれでもかと刺激する。


「……何か物足りないわね。そうね、調味料を足しましょう!」


 私は触手を伸ばし、結界に阻まれて昇天できずにいた魂たちを、一掴みに捕らえた。

 海水を隔てていても、彼らから溢れ出す恐怖と怨念がひしひしと伝わってくるわ。


「ふふ、なんて歪んだ色彩かしら。素晴らしいわ」


 私は両手を使い、触手で締め上げた魂たちを、少しずつ、丁寧に引き裂いていく……。


「美しく邪悪な女神が〜、優しく料理に魂を注ぐ〜。彼女は女子力満点のパーフェクトな淑女〜、ラララ……♪」


 神の威圧プレッシャーに押さえつけられ、凪いでいた海面に、無数の小さな波紋が広がり始めた……。

 たくさん……。

 絶え間なく……。

 次から次へと……。


 五分後、満足げな邪神はようやくその手を止めた。

 海面もそれに応じるように、ゆっくりと静寂を取り戻していく。


「よし! これで仕上げよ!」


「えいっ!」


 神術の制御の下、絶望を象徴する緑の光粉と、業火のように躍動する深紅の怨念が、余熱の残る肉塊へと均一に舞い落ちた。

 ああ、私ってば天才だわ!

 この料理、死神が見ても感嘆の声を漏らすに違いないわね。


「いただこうかしら……」


 サクッ、ジュワッ……。

 モグモグ……。


「んん〜っ! これが噂に聞く異世界の珍味というものかしら? まさに人間界の絶品だわ!」


 ほんのりと焦げたような味がするし、肉の中に魔力はほとんど含まれていないけれど、なぜか食感が驚くほど素晴らしいわ!

 一口、また一口と、手が止まらなくなる。

 どうしてこんなに美味しいのかしら? 魔力もないというのに。


「……まあいいわ、考えても分からないし! 美味しければそれで正義よ!」


 大自然の恵みを堪能した私は、颯爽とその場を後にした。

 何しろ、私の肩には「貧富の差を是正する」という重要な使命があるのだから!


 果たして、私の「巡回査察」の結果、思いもよらない宝物がいくつか見つかったわ。

 神霊の遺骸に……。

 高価そうな三つの黒い大きな箱……。

 雪のように真っ白な丸い珠……。

 それから、一冊の奇妙な魔導書。

 いいえ、この世界では「道法陣書」とか「仙術宝典」とか呼ぶのかしら?

 まあ、そんな些細なことはどうでもいいわ!

 唯一文句を言いたいのは、これらのお宝がなぜか揃いも揃って妙な場所に隠されていることよ。

 どうして巨大な飛空船のタイヤの中や、隠し引き出しの中に隠してあるの?

 どうして朽ち果てた寺院の神像の眉間なんかに隠すの?


 そして一番許せないのは……!

 どこのどいつだか知らないけれど、あの一冊の魔導書を無数の小さな法陣に分解して、山全体にバラ撒き、自然環境と同化させた馬鹿者がいるわ。

 その魔導書を手に入れたければ、山頂にある一番大きな巨石の上で、整整九百九十六年も座禅を組まなければならないんですって。


 ふ! ざ! け! る! な!


 誰が九百九十六年も山頂でじっとしていられるっていうのよ!

 山の麓に置いてあった「仙界公認・国内トップ10優良修行キャンプ―崑崙山支部」とか「修行者向け労働保証契約、健康保証契約など充実の福利厚生完備」なんて書かれた神文の石碑は飾りなわけ?

 しかも、もっとタチが悪いことがあるわ。

 座禅を始めて一時間後(その時はまだ九百九十六年もかかるなんて知らなかったのよ)、私はもう飽きてしまっていた。

 だから、もう止めて帰ろうと思ったの。

 自分専用の神術があるんだから、異世界の功法なんて別に必要ないもの。

 立ち上がって去ろうとしたその時、かすれて、世の荒波を潜り抜けてきたような老人の声が、不意に耳に飛び込んできたの……。


『……諦めてはならぬ……』


 誰?

 誰が喋っているの?


「『若いうちに努力せねば、老いてから悔やむことになるぞ〜』」


 神力で周囲をスキャンしてみたけれど、人っ子一人、神一柱の気配もありゃしない。

 代わりに、この山の法陣がどうやら何らかの起動状態に入ったみたいね。

 少し考えて、すぐにピンときたわ。

 まさか……。

 これはこの魔導書の製作者が残した「録音」なの?


「『若者は苦労を糧とするべきだ。耐え抜いた先にあるものは、すべてお前のものだぞ!』」


 ……そうなの?

 まあ、確かにそうかもしれないわね。

 私はまだ若いし、今はまさに踏ん張り時。年老いてから慌てて修行に励むなんて、格好悪いものね。

 ええ!

 もう少しだけ我慢してみるわ!

 というわけで、私は再び座禅を組み直した。


 三時間後……。

 また飽きてきた。

 二度目の立ち上がり。すると、またあの声が響いてくる……。


「『努力が必ずしも成功に結びつくとは限らん。だが、成功した者は皆努力しておる!』」

「『この程度の苦難も乗り越えられぬようでは、どこへ行っても同じだぞ!』」

「『自分を変えるチャンスを与えよ。お前にはもっと輝かしい未来がふさわしい!』」


 ……考えれば考えるほど、何かがおかしい気がするけれど、反論の余地が見当たらないわ。

 だから、私はまた座り直した。


 長すぎる六時間が経過して……。

 もう、飽き飽きを通り越して限界よ。

 おまけにお腹もぐうぐう鳴り出して、身も心も限界を迎えたわ。


「無理! やめるわ!」


 三度目の正直で立ち上がり、巨石から飛び降りる。私は毅然とした態度で山麓へと歩き出した。

「近くに食べ物くらいたくさんあるはずよ……まずはこの空腹を満たすのが先決だわ!」

 傷ついた心を癒すために、どれだけの美食を喰らってやろうかと考えていたその時――あの枯れた声が、また絶妙なタイミングで耳元に届いたの……。


「『社会から何を得られるかばかり考えるな。まずは自分が社会に何を還元できるかを考えよ!』」


 ……はぁ!?

 こいつ、だんだん言うことがエスカレートしてきてるじゃない!

(怒りゲージ:85%)


「『この不況の時代、お前も私も家族だ。手を取り合って苦境を乗り越えようではないか!』」


 失せろ!!!

 誰が家族よ!

 乗り越えるのはお前の頭だけにしろ!!

(怒りゲージ:99%)


「『社会や環境に不満を漏らすのではない。これは一種の徳を積む修行なのだと思えば……』」


 うるっっっさいわね、このボケ!!!

(私の怒りゲージ:200%)


「『徳だと!? ふざけるのも大概にしろ!!!!!』」


 滴り落ちるほど濃厚な死の気配が、瞬時に私のしなやかな右腕に纏わりつく。


「死ね! クソ野郎!!!」

「深淵邪法――『冥獄終結爪めいごくしゅうけつそう』!!!」


 渾身の一撃を、真っ白な玉の如き巨岩へと叩きつける。

 猛烈極まりない大爆発が、一瞬にして山頂を飲み込んだ。


 ドォォォォン!!!


 底知れぬ致命的な邪気が、ダムの決壊のごとく山頂からなだれ落ち、緑豊かだった青山を根こそぎ侵食していく。

 生命はおろか、雑草一本すら残さない。


「ふぅ……最初からこうしておけばよかったのよ! 何が宝よ! 九九六なんてクソ食らえだわ! フンッ!」


 結局、私は己の圧倒的な実力をもって、法陣を粉々に打ち砕いた。そして、欠片の一つ一つから魔力を残さず吸収してやったわ。

 崑崙山の森がまるごと砂漠に変わってしまったけれど、これは断じて私のせいじゃないわ!

 文句がある環境保護団体の連中は、あの地獄に落ちて然るべきクソ野郎のところへ行きなさい!

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