序章:予言
「ある日、貴女は極めて唐突な形で、運命の人と出会うことになるわ」
「その男は貴女のすべてを粗暴に奪い去る。けれど、誇り高い貴女は最終的に許しを選ぶでしょう。……すべては欺瞞と裏切りの中で進んでいく」
「首に枷を嵌められた貴女は、飼い主の子を産むことになる。その少女は誕生した瞬間から、罪に満ちているわ」
「彼女は聖なる白い鱗を持ち、世界の寵児となる。新生と死の象徴であり、世界の行く末を変える存在よ」
雑然とした薄汚い路地裏に、簡素な紫色のテントが張られていた。
私――王国の王女は、その占い師の前に座り、彼女の狂言に耳を貸していた。
女は漆黒のローブに全身を包み、その素顔を窺い知ることはできない。ただ、耳元から垂れる二筋の金髪だけが、妙に鮮やかで目を引いた。
彼女は私の瞳に宿る不屑を読み取ったのか、次の瞬間、抗う術もないほどの力で私をテントの外へと突き出した。
私は警備の兵を呼び、この街頭の詐欺師を牢獄に放り込んでやろうと考えた。
だが、振り返った瞬間――路地裏には、すでに何も残されていなかった。
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**タタッ、ドサリ!**
女は無様に地面へと転倒した。頬と膝から、焼けるような痛みが走る。
彼女は傷口に触れることも、自分を躓かせた煉瓦をどけることもしなかった。
ただ顔を上げ、前方の出口を見つめる。そこには潔白な月光が降り注いでいた。
その少し先には、闇に染まった翠緑の森がある。
あそこまで逃げ込めば、自由になれる。助けも呼べるはずだ。
「……ゴホッ、ゲホッ……」
煙を吸い込みすぎたせいか、女は激しく咳き込み始めた。次第に幻覚までもが視界をよぎる。
親族の葬儀、破綻した人間関係、そして何一つ成し遂げられなかった無能な自分。
そして、今この瞬間だ。
これから自分に待ち受けているであろう末路を思い、女の目尻から重苦しい一滴の涙がこぼれ落ちた。
背後から、幾重にも重なる足音が迫ってくる。
「あそこにいたぞ!」
男が叫ぶ。その声には、隠しきれない強欲が満ち溢れていた。
女の心臓が跳ね上がる。脳内の妄想も、肉体の苦痛も、すべてを思考の外へ追いやった。
彼女は無理やり体を支え、奥歯を噛み締めて出口へと駆け出した。
だが、女の足が柔らかな芝生を捉えた、その瞬間――。
**シュッ!**
鋭利な短剣が彼女のふくらはぎを貫いた。女は再び、地面へと叩きつけられる。
背後の足音が次第に大きく、確かなものになるにつれ、女の心はついに崩壊した。目尻から溢れ出す涙と同じように。
黒甲の兵士が女の背後に立ち、荒い息を吐きながら腰の長剣を抜いた。そして、容赦なく振り下ろす。
(……すべて、終わったわ)
女はそう悟り、静かに瞳を閉じた。
刃が女の首筋に触れようとした、その刹那。
一筋の蒼穹い光が疾風のごとく飛来し、黒甲の兵士を一刀両断にした。
女は驚愕し、遠ざかっていく「その背中」を呆然と見つめた。去り行く者の横顔を、心の奥底に焼き付ける。
彼女の意識は、あの紫色のテントへと引き戻されていた。耳元で、あの占い師の言葉がリフレインする。
『貴女は……運命の人に出会う……彼の子を……産むことになる!』
この瞬間、運命の歯車が、静かに、そして確実に回り始めた。




