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第67話 平原のダンジョン

「ヒロ!」


「あぁ!」


 僕らは何匹目かわからない、魔物を狩り終えた。

 このダンジョンの中は、まるで外の世界と見紛うように美しい、平原が広がっている。

 ここに出現する魔物は動物系が多く、今現在狩りをしている第1層では、ウサギなどの比較的温厚な種類が、穏やかに生息していた。


「はぁ、疲れた……。ちょっと休憩しようぜ。

 しかし、その杖ホント便利だな。任意の場所に壁を展開できる効果って、自分を守るにも魔物を追い込むのにも使えるんだから、チート級アイテムだろ。」


 そう、僕が今回どうやって戦闘に参加しているかと言えば、杖の効果で魔力の壁(バリア)を作り、そこにヒロが獲物を追い詰めるという形をとっているのだ。

 そうすれば、僕は直接ダメージを与えなくてもミストを吸収できるし、ヒロもすばしっこい魔物を追いかけまわさずに済む。

 温厚で逃げていく魔物が多いこの階層だからできることではあるが、互いに最も楽な戦法なのだ。

 中には見えない壁に激突した衝撃で伸びてしまい、ヒロはトドメを刺すだけなんてケースもある。


「うーん、実はそうでもないよ。強度はそんなに高くないし、思い切り魔力を込めればそれなりの強度になるけど、そうすると消耗が激しいからね。」


 僕は師匠のもとに師事するようになってから、あまり短剣を使わなくなった。アセナに師事していた時同様、兄さんの真似をしての攻撃を禁止されたからだ。

 そんな折に、師匠から貰った武器が、この杖なのだ。

 アゼスさんが持っていた物より、やや杖らしく削られたそれは、僕の身長ほどの長さにもなる。

 デザインはシンプルながらも、その機能は優秀。意思を込めて振るとガラスのような、透明の壁を設置できる。

 武器の中には固有スキルや特殊な機能を備えたものがある、ということを師匠に教えてもらった時の驚きと言ったら。


黒死蛇(ブラックパイソン)の牙なんて、ゴリッゴリのスキル武器使っといて……。なんで知らないんだ、このドアホが!』


 なんて、怒鳴られたのはいい思い出である。嘘だ。かなり嫌な思い出だった。


 そんな僕は、師匠に黒死蛇の牙を没収されてしまった。代わりに渡されたのがこの杖と、なんの付加効果もないただの短剣。

 今ではこの2本の武器が、ともに死線をかいくぐった相棒である。

 まって、なんで補助系ジョブの特訓で死線をかいくぐらなきゃいけなかったの?今更疑問に思ってしまったことは、師匠には内緒にしておこう。


「でもたしかに、このくらい弱い相手だったら、十分強い武器ではあるかな。」


 ちなみに、ヒロは盾と片手剣を持ち、ゴーシュさんとリュウさんを足して半分に割った様な戦い方だ。

 タンクと言うほど頑丈なわけでもなく、剣士と言うほど攻撃力は高くない。けれども今までソロでダンジョンに潜っていたことを考えれば、最適なバランスだといえる。


「俺もなんかしら、スキルが使える武器が欲しいぜ。」


 そう言って彼が撫でるのは彼の愛剣だ。かなり使い古されて何度か修繕した跡がみられるが、それでも彼はその剣をずっと使っているらしい。


「でもヒロは、その剣を気に入ってるんじゃないの?」


「まぁな。けど、こればっか使ってるわけにもいかないだろ。今後はもっと強い魔物と戦うかもだし、それに、コイツももうガタが来てっからな。

 鍛冶屋のおっちゃんに言われちまったよ。『次は治してやれるかわからん。いつ折れるかもわからん剣だ。早めに休ませてやることをお勧めする。』ってな。

 早いとこ、次の相棒を見つけねぇと。」


 自身の愛剣を見つめるヒロは、寂しそうにしている。その表情だけで、どれだけその剣を大切にしてきたかがわかる。

 けれど、武器なんていつかは買い替えなければならない物。ヒロもそのことをよくわかっていたから、新しい武器はよりよい性能のものを求めているのだろう。

 ずっとヒロを守ってきた剣に代わる物なのだから、中途半端なものでは今の相棒に申し訳が立たないから。


「さ、せっかく休憩してるんだし、買ってきたパンでも食おうぜ。」


「うん!」


 実を言うと、だいぶ前から腹ペコだった。気分を切り替えようとしたヒロの提案に、乗らない理由はない。

 初めて食べる"ハニーバターパン"は、バターの塩気がいい具合に甘さを引き立てていて、蜂蜜だけを塗ったパンよりも甘く、また食べやすい。

 またその甘みが、一緒に購入したミルクによく合う。


「ん!!おいひぃね!ヒロは美味しい物沢山知ってて、すごいなぁ。」


「まぁな!今日も帰ったら、フリュネーがきっと美味いもん用意してくれてるぜ。食い終わったら、もう一踏ん張りだな。」


「そうだね。頑張ろう!」


 それから追加で何匹か狩り、ヒロが持っていたリュックにも入りきらないほどの素材を持って、ダンジョンを後にした。

 それらを売却し、フリュネーさんの家へ戻ると、確かに美味しい食事を用意して待っていてくれたのだった。


「あ、ヒロさん。そういえば、ガブさんとお話できました。ありがとうございます。」


「お、そっか!よかった。で、どうすることになったんだ?」


「はい、ガブさんのお店の売り上げが減ってしまわないよう、私のお店ではガブさんから仕入れたものを、店内食限定で提供する方向で話がまとまりました。」


 ガブさんとは、今朝ハニーバターパンを購入した露天の主で、本名をガボドドッカというらしい。

 本人はそのどこか硬い印象を受ける名前が苦手で、みんなに「ガブと呼んでくれよ!」と言って回っているのだとか。


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