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第68話 瑠璃ウサギ

 フリュネーさんの作った夕飯はやはり美味しくて、疲れた体によく染み込んだ。

 昨日のヒモみたいな料理はパスタといい、今日のはハンバーガーというらしい。どちらも非常に美味しくて、また食べたいと思わせる魅力があった。

 そしてどちらもヒロの故郷にあった料理を、2人の試行錯誤でなんとか再現したものだとか。


 こんなに美味しい物がまだまだ沢山あったのだと聞いて、ヒロの故郷はとても食が発展した街だったのだろうと思いを()せる。


「けど、もう……。」


 楽しそうに話していたヒロだったが、突然目を伏せて黙りこんでしまった。

 ヒロは突然故郷を離れることになり、行き倒れていたところをフリュネーさんに拾われたのだと話していた。

 魔物に滅ぼされてしまったのか、あるいは他の街との生存競争に敗れたか……。

 街から追放された可能性もあるが、いずれにしてもヒロはきっともう故郷に帰れない理由があるのだろう。

 望郷の念をその眼に宿し、力なく笑ったヒロは「湿っぽい雰囲気にして悪りぃな。先寝とくわ。」と言って自室に篭ってしまった。


 僕とフリュネーさんは、そんなヒロの背中を黙って見ていることしかできなかった。


 翌朝日が登りきるまえに起きた僕は、師匠の言いつけ通り、朝の鍛錬を行っていた。

 そんな僕が視線を感じて振り返ると、そこにはこちらをじっと見つめるヒロの姿があった。


「おはよう、ヒロ!」


「っ、あ、あぁ……。おはよう、ニケ。」


「……?どうしたの?」


「い、いや、なんでも……いや、俺も鍛錬混ぜてもらってもいいか?」


「うん!もちろんだよ!」


 ぼんやりとしたヒロの様子に疑問を抱いたが、思わぬ申し出に僕はつい嬉しくなって答える。

 ずっと1人で鍛錬させられてたから、誰かと一緒になんて、アセナとハティに師事していた時以来だ。


「ニケの日課なのか?でも、昨日はやってなかったような……」


「あーー、昨日はね……。休息日、かな。」


 僕が言葉を濁したことで、ヒロの顔にはわかりやすく疑問符が浮かぶ。


「休息日って名前の()使()()()だよ。広ーーい都を、西の端から東の端へ往復させられてたんだ。

  師匠の()()()()ね!!だから、久々にちゃんと休んだよ……。」


 声色から苦々しい思い出を感じとったのか、ヒロは苦笑いをするだけで、それ以上何も聞いてはこなかった。


「なんというか……、ニケにそこまで言われる師匠ってやつに、会ってみたくなったな……」


「えぇ、やめておいた方がいいと思うなぁ。」


「ははっ、んなこと言ってやるなよ」


 ヒロは今度は嬉しそうに笑った。

 なぜそこで嬉しそうにするのかはわからないけれど、昨日の暗い雰囲気は無くなっていてホッとした僕も、釣られて笑ってしまったのだった。





 今朝は憂鬱な気分で目が覚めた。

 もう吹っ切れたと思っていたけれど、それでもまだ、故郷に戻りたいと思う気持ちは拭えないらしい。


 目元が腫れているのを感じた俺は「フリュネーが心配してしまう前に」とタオルを持って井戸へ向かった。

 水に浸したタオルを目元に添えれば、ヒンヤリと冷たくて心地いい。


  タオルを乗せたまま、ぼんやりと井戸の縁に座り込んでいると、どこからか小さく声が聞こえてきた。


  「……なんだ?」


  声を頼りに建物の裏手に回ると、そこにいたのはニケだった。

  あの細身の体からは信じられないほどの筋力で、トレーニングをしている。

  片手で逆立ちをし、腕立て伏せをしていたニケは、ちょうど200を数えたところで軽く跳ねた。両足で綺麗に着地し、一仕事終えたとでも言うように軽く息を吐く。


 歳もレベルも見た目の筋肉も、全て俺の方が上なのに、俺にはあんな芸当出来そうにない。

 ましてあんな風に、何でもないような顔をしてなんて。


 朝日を汗が反射し、澄んだ空気の中で熱気を(まと)うニケのその様子がどこか神秘的で、俺は思わず息をのむ。


「おはよう、ヒロ!」


 こちらに気が付いたニケと目が合うと、ニケはパッと表情を明るくしてこちらに笑いかける。


「っ、あ、あぁ…。おはよう、ニケ。」


 声をかけられたことでハッとして、やっとのことで挨拶を返した。


 ニケの鍛錬に混ぜてもらったが、その後はずっと素振りをしていた。

 ニケは俺に合わせたのか、そもそもそういったメニューだったのかわからないが、先の様なことをやらされなくてホッとした。


 ニケの鍛錬に混ぜてもらったのは、少し体を動かしたかったことに加えて、補助系ジョブのニケでもできることを、剣士の俺が出来ないでどうすると自嘲気味に思ったからだ。


 けれど、そんなこと忘れるくらいニケとの鍛錬は楽しかった。

 故郷のことも、一時的にではあるが完全に忘れていた。


 久しぶりだった。こんなに満ち足りた気分になったのは。


 これからは俺も日課にしよう。ニケがいるときは、一緒にやらせてもらおう。

 そう思って、今朝の訓練を終えたのだった。

 軽くタオルで汗を拭き屋内に戻ると、フリュネーが温かいスープとパンを用意してくれていた。


 2人で鍛錬をし、フリュネーの作る朝食を食べてダンジョンへ向かう。

 その日以降、これが毎日お決まりのスケジュールとなった。

 そして今日もニケと共に朝食を終え、今日のスケジュールについて確認し、ダンジョンに潜る。

 いつもの草原のダンジョンだ。

 相変わらずニケの使うバリアは優秀で、俺は然程苦労する事もなく次々とウサギ種を狩っていく。


「わ!!!ヒロ、ヒロ!みてみて!」


  何匹目かわからないウサギにトドメを刺していたとき、ニケの興奮気味な声に呼ばれる。

 ニケの差す方へ目をやると、何やら水色の毛玉が、草の間から見えていた。


「ウサギの突然変異種だよ!確か"瑠璃ウサギ"っていう種類に分類されててね。水色の毛皮が特徴的で、綺麗だからよく売れるんだって。」


「へえ……?レア種ってことか?」


「レア種?うん、まぁ、そうかな?珍しいのは違いないね。」


 ぴょこぴょこと、通常のウサギと同じ動作で跳ねているソレは、確かに他のウサギと違って鮮やかな水色の毛皮を纏っている。

 レア種となれば、やることは一つだ。


 ニケを見ると、彼も俺と同じ考えをしていたようで、無言で頷く。


 身をかがめて草原の草に身を隠し、ゆっくりと近づいていく。

 二手に分かれて近づき、あと数歩で瑠璃ウサギに手が届くといった位置までくる。

 ザッと同時に音を立てて立ち上がると、瑠璃ウサギは面白いくらい予想通りの方向に逃げて行った。


 しかしその先にあるのは、広い草原ではなくニケの設置したバリアだ。


「ギュイッ」


 短い悲鳴を上げた瑠璃ウサギは、目を回してその場にしゃがみ込んでいる。

 俺はすかさず、その小さな体に剣を突き立てた。


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