AmericanHeroine 第二話。
今にも宙に昇りそうなカラフルな玉ねぎ型の屋根を横目に、赤の広場を巨大な黒いリムジンが走り抜ける。
大統領府の入り口に黒いリムジンが止まり、中からブリオーニの漆黒のスーツを纏った男が現れた。
帝政ロシア時代から続く荘厳な通路を抜け、男が大統領執務室の前に立つ。
男を見つけ、ハァ、ハァと喜び、尻尾を振りながら駆け寄る1匹の秋田犬。
「失せろ!!」
男は秋田犬を見ると、眉間にしわを寄せ、大声で叫んだ。
キューンと鳴き、尻尾を垂らすとトボトボとその場を去る秋田犬。
男が大統領執務室の扉を開ける。
黄金に彩られた双頭の鷲の前、赤褐色の異形の異星人が立っていた。
「解放の為の交渉には苦労したぞ、セルゲイ。」
異星人が肩をすくめ話を続ける。
「しかし、随分とアメリカでは酷い目に合ったみたいだな。」
セルゲイが顔をギューッと引っ張ると赤褐色の異形の姿が露わになった。
「まったくだ、グラノフ。もう少しで《この星》を我らの物に出来たというものを。」
グラノフが手を伸ばし、鼻をほじりながら話す。
「我らのヘモシアニンを含む青き血には、この星のCO2は有害だ。ならばこそのCO2削減計画。」
大統領執務室の椅子に腰掛けると、ドンッ!!とセルゲイは机に右の拳を叩きつけた。
「問題はアメリカだ。アメリカ娘さえいなければ。」
「そんなに怒るなセルゲイ。アメリカ娘には最強の刺客を送ってある。」
グラノフがクッ、クッ、クッと口を歪めるように笑う。
朝日に照らされるワシントンD.C.郊外のハワード邸。
♪♪♪♪♪~。
鼻歌交じりに包丁を握り、アヤの弁当を作るジェイク。
「お父さん、おはよう。」
アヤはうーんと背伸びをすると、ジェイクに声をかけた。
弁当を作り終えたジェイクがアヤと朝食を食べ始める。
テーブルに並べられた皿のウインナーにフォークを刺すと、桜色のリップに彩られた口元へと運ぶアヤ。
「お父さん、このタコさんウインナー美味しいよ!!」
アヤは両手を頬に当て、笑顔でジェイクに話しかけた。
「そうか、なかなか手強かったぞ。どうもマイのようにはいかないな。」
そう言うとジェイクが下を向く――——
——――10年前、曇天の空の下、娘を守るマイに激しい雨が降り注ぐ。
「悪いな仕事だ、娘を渡せ。」
テンガロンハットを被った男が、くぐもった声でマイに静かに言い放った。
小さなアヤを守る為、マイが左手の時計に触れ、白地にピンクのドレスフォームへと変身する。
「娘には手を出させない!!」
キッとした目つきで男を睨むマイ。
男がテンガロンハットに指をかけると鼻で笑った。
「フッ、このモンドー、雨の中ならキャプテンスカイ並の速度だ。」
低く小さな声で呟くと、マイをあざ笑うかのようにアヤの前へと一瞬で移動する。
「そんな、速すぎる……。」
愕然と立ち尽くすマイを尻目にモンドーが小さなアヤの目の前に立つ。
モンドーが上半身を大きく捻り、右の拳を叩き込もうとした時だった。
必死の思いで追いつき、アヤを守ろうとするマイの背中をモンドーの拳が貫く————
モンドーがゆっくり右の拳を引き抜いた。
マイがアヤの目の前で腹を押さえ、膝から崩れ落ちる。
ガクガクと震える小さなアヤに優しく微笑むと、マイが地面へと倒れ込んだ。
「……お母さん。」
その時、モンドーがチィと舌打ちした。
「邪魔が入ったか……。」
慌てて駆けつけたキャプテンスカイがモンドーの後ろに立つ。
激しく降り注いでいた雨が小雨へと変わるとモンドーの姿がスッと消えた。
「待て!!クソ、遅かったか……。」
地面に倒れ込んだマイをキャプテンスカイが抱きかかえる。
瀕死のマイが涙ながらに時計を付けた左手を伸ばし、小さなアヤに話しかけた。
「アヤ、私のかわいい娘。必ず、お父さんのように弱きを守るヒーローになりなさい……。」
「お母さん……。」
マイの左手が、力無く垂れ下がる。
血まみれのマイを目の前に、小さなアヤが立ち尽くす。
——――小さく冷たい雨だけが、ハワード一家を濡らしていた。
朝日がハワード邸に降り注ぐ――——
朝食を食べ終え、JANSPORTのカバンを手にするとアヤは庭へと向かった。
庭に止めてある黄色いカマロに乗り込み、アヤが手を振る。
「お父さん、学校行ってくるね。」
玄関から学校に向かう娘を見送るジェイク。
雨がシトシトと降り始めた。
ジェイクは玄関に忘れられた傘を見つけ、一人肩を落とし呟いた。
「やれやれ、雨か……。」
玄関の傘を手に、青いフォード・F-150に乗り込むとアヤを追うジェイク。
ワシントンD.C.郊外を黄色いカマロが走る。
Cruel Summerが車内のラジオから流れると、鼻歌交じりに頭をリズミカルに揺らすアヤ。
「ふんふんふん~。♪♪♪~。」
ポツポツと降り始めた雨がカマロのフロントガラスを濡らし始める。
「あ~、雨か。傘忘れちゃった。」
てへっと舌を出し、アヤがワイパーのスイッチを入れた時だった。
突如、黄色いカマロの前に現れるテンガロンハットにダスターコートの男。
モンドーだ。
アヤがカマロを急停止させると、モンドーがダークブラウンのテンガロンハットに手を当て、低く小さな声で呟いた。
「久しぶりだな、お嬢さん。覚えてないだろうが仕事だ。」
ラジオからNirvanaのSmells Like Teen Spiritが流れ、雨の勢いが激しくなる。
「ちょ、危な――——」
黄色いカマロから降り、注意をしようとするアヤ。
モンドーが無言で殴りかかる。
モンドーのパンチが決まると、仰け反るように吹き飛ばされるアヤ。
立ち上がろうとするアヤの前に一瞬で移動すると、モンドーが上半身を大きく捻る。
「そんな、速すぎる……。」
アヤの表情が驚き固まる。
モンドーがアヤに右の拳を叩き込もうとした瞬間――——
「どうやら今回は間に合ったようだ。俺の娘に手を出すな!!」
モンドーの後ろに立つキャプテンスカイことジェイク・ハワード。
「お前はキャプ――——」
モンドーが後ろを振り返る間もなく、繰り出されるキャプテンスカイの右ストレート。
キャプテンスカイの右の拳が決まると、口から血を吹き、仰け反るように吹き飛ぶモンドー。
モンドーが薄汚れたダークブラウンのコートの右袖で口元の血を拭う。
「チィ……。だが、雨の中なら俺は最強クラスだ。」
そう低く小さい声で呟くと、モンドーがキャプテンスカイに殴りかかった。
右の拳でモンドーの拳に答えるキャプテンスカイ。
キャプテンスカイの右の拳とモンドーの右の拳が激しく激突する――——
激しく降っていた雨が小雨へ変わると、雲間から明るい日差しが顔を出す。
(……マズい。)
先ほどまで自信に溢れていたモンドーの顔が焦りの色へと変わる。
ジェイクがアヤに声をかけた。
「アヤ、Wildに行くぞ!!」
「オーケー、父さん!!HENSHIN、AmericanHeroine!!」
父に親指を立てると、左手の時計に触れるアヤ。
時計からデジタルサウンドが鳴り響く。
「Change、WildForm!!」
アヤの母から受け継いだ変身ヒーローとしての才能が大きくスピード方向へ変化する。
光の中からヒョウ柄の水着に、白い上品なレースのカバーアップを纏ったアヤが現れた。
白く上品なレースのカバーアップがヒラリと揺れる。
「行くぞ、アヤ!!」
ジェイクが娘のアヤに声をかけると、ドンッとモンドーを右足で蹴り上げた。
仰け反りながら上空へと吹き飛ばされるモンドー。
そこにはすでに飛び上がり、上半身を捻ったアヤが待ち受けていた。
「これで————Finishだッ!!」
こわばる表情のモンドーに決まるアヤの渾身の一撃。
ズシーンという轟音と共にモンドーが道路に打ち付けられる。
衝撃でヒビ割れ、大きな穴が開いた道路からピクリとも動かないモンドー。
モンドーの前に立つハワード親子に黄色いカマロから懐かしい日本の音楽が聞こえる。
雨上がり特有の懐かしい香りがジェイクの記憶を呼び覚ました。
「赤いスイートピー、マイが好きだった日本の曲……。」
感傷に浸るジェイクに首をかしげ、アヤが話しかけた。
「お父さん、どうしてここに?」
「傘、忘れたろう?あっ、でも、もう必要ないか……。」
空を見上げ照れくさそうに頭をかくジェイク。
アヤがジェイクを見ると、ニコリと笑い小声で話した。
「あ、り、が、と、う。」
ジェイクの持つ傘を手にすると、黄色いカマロに乗り込むアヤ。
「お父さん、学校に行ってくるね。」
カマロの中から笑顔で手を振るアヤを見送るジェイク。
ドンッ!!クレムリンの大統領執務室にセルゲイが拳を机に叩きつける音が鳴り響く。
「刺客を倒すとは、許さんぞアメリカ娘。」
グラノフがセルゲイに尋ねる。
「どうする、セルゲイ?」
「私が出る。待っているがいいアメリカ娘。」
そう言うと、セルゲイは立ち上がり窓から外を見つめた。
いつも応援ありがとうございます。
この場を借りてお礼申し上げます。
よろしければコメント等あると嬉しいです。
いつも読んで頂きありがとうございます。
よろしければコメント等あると嬉しいです。




