AmericanHeroine 第一話。
父はアメリカンヒーロー。
母は日本の変身ヒーロー。
本人は思春期。
世界を救う?
いえ、親子喧嘩が大変です。
「お客様いらっしゃいませ。今日は何の御用でしょうか?」
女性行員が笑みを浮かべ、深々と頭を下げる。
「そうだな、金を出して貰おうか。」
黒いサングラスをかけた男がバッグを机の上にドンッと置く。
黒い革のジャケットから銃を取り出し、女性行員に銃を突きつける男。
後ろで様子を見ていた男性行員が急いで現金を用意し始める。
黒いバッグに次々と詰め込まれるドル紙幣。
パンパンに膨れ上がったカバンを手にすると男が銀行を後にする。
ジリリリリと警報が鳴った。
男が黒いSUVに乗り込むと、タイヤから白い煙が上がる。
街中を猛スピードで疾走する黒いSUV。
スカートをひらめかせ、後ろで黒髪をまとめた少女が男のサングラスに映る。
少女が左手のローズゴールドの腕時計に触れると《Call Me, Beep Me!》が流れた。
「HENSHIN!!AmericanHeroine!!」
少女が叫ぶと、丸い時計の縁がピンク色に光り、デジタルサウンドが鳴り響く。
「Change、DressForm!!」
少女の服が白地にピンクのドレスフォームへと変化する。
「チッ、ヒーローかよ。」
男がアクセルを強く踏むと黒いSUVが少女に向けて加速する。
ガシッと両手でSUVを掴む少女。
ブォーンという轟音と共にSUVのタイヤから白い煙が舞い上がる。
「うりゃ——ッ!!」
SUVを押し返すと飛び上がり、ボンネットにパンチをお見舞いする少女。
ボンネットがグニャリと変形すると、ピタリとSUVの動きが止まる。
複数のパトカーのサイレン音が聞こえた。
赤と青のライトが少女の白いドレスを照らす。
青いタイツに身を包んだ金髪の中年男性が少女の後ろから声をかける。
「成長したな、アヤ。」
「お父さん。」
ホッとした声で振り返ると、アヤがニコリと笑った。
SUVに乗る男が逮捕されたのを見届け、父と共に空へと消えるアヤ。
アヤと父であるジェイク・ハワードことキャプテンスカイがワシントンD.C.の郊外にある自宅の庭に舞い降りる。
自宅に帰ると、冷蔵庫から冷えたコーラを取り出しソファに腰掛けるジェイク。
コーラのプルタブに指をかけるとプシュと炭酸がはじけた。
リモコンのスイッチを入れるとジェイクがテレビに映る。
テレビに映るジェイクが美味い、美味いと連呼しながらコーラを飲んでいる。
「美味い、美味い。さすが、100万ドルの男だ。」
ゴクゴクと喉を鳴らし、ジェイクがコーラを飲む。
自身が出ているCMを見るとニヤニヤと笑いが止まらないジェイク。
テレビのニュースが始まる。
「アメリカを再び偉大に――——」
テレビに映る大統領を見るとジェイクが呆れた顔をする。
「Oh my god、この鼻クソ野郎。」
「お父さん、大統領に失礼よ。」
腰に手を当て、アヤが注意すると不満げにジェイクが反論する。
「アヤ、父さんは見たんだ。パーティーでこいつが鼻クソをほじって食べるのを。」
「お父さん!!」
眉間にしわを寄せると、体からバチバチと青白い光を放つアヤ。
ため息をつくと、ジェイクが右手で後頭部を掻いた。
「やれやれ、これだから思春期の娘って奴は……。もし、母さんさえ生きていたら……。」
スーパーヒーロー親子の壮大な喧嘩が始まった。
「大変です。ゴールドマン大統領。」
ガチャと音を鳴らし、大統領執務室の扉が開くと息を切らせスタッフが入ってくる。
不可解な表情を浮かべ、主席秘書官と顔を見合わせるゴールドマン大統領。
「どうしたイーサン、何があった?」
「キャプテンスカイが……。」
イーサンが身振り手振りでゴールドマン大統領に状況を説明する。
額に手を当て、少し困った表情をする大統領。
イーサンが話し終わると胸の赤いネクタイをギュッと締め直すゴールドマン大統領。
「わかった、私が直接話そう。」
アヤがパンチを放つと、ドンッ!!と音が鳴り地面に大穴が開く。
ジェイクがアヤのパンチをかわし呟いた。
「やれやれ、これが思春期って奴か……。冷静になるんだアヤ、力をコントロールしろ!!」
バリバリと青白い光を纏うアヤ。
思春期特有の不安定な力の暴走に手を焼くジェイク。
「まったく、気の短い所は母親そっくりだな。」
右手で頭を抱え、空を舞うジェイク。
「あれは……。」
ジェイクの青い目に飛び込む、アメリカ国旗をはためかせ近づくリムジン。
アヤ達の近くに黒いリムジンが止まると、警護官が分厚い扉を開いた。
ゴールドマン大統領が黒く分厚い扉の間から姿を現す。
「止めるんだ、2人共。」
アヤの青い瞳に映るゴールドマン大統領。
「……大統領?」
アヤが纏っていた青白い光が消えた。
呆然と立ち尽くすアヤに近づくと、ゴールドマン大統領が右手を伸ばし優しく肩を叩いた。
「どうしたんだい?ニューヒロイン。」
ゴールドマン大統領がアヤに優しい口調で話しかけると、大統領を見上げ小さな声で呟くアヤ。
「いや、あの、お父さんが大統領が鼻クソを食べるって……。」
「ハハハ、私はそんなことしないよ。」
大声で笑うとアヤに向かって親指を立てるゴールドマン大統領。
「申し訳ありません、大統領。」
空から降下しアヤの隣で謝罪するジェイク。
ジェイクの顔を見ると大統領が大声で笑いながら答えた。
「気にしなくていい、私にも年頃の娘がいるからね。父親は大変だよ。」
「行こうかアヤ。」
大統領に礼をすると、アヤの腰に手を回し自宅へと歩き始めるジェイク。
大統領にお礼を言おうとアヤが振り返る。
アヤの目に鼻クソをほじるゴールドマン大統領の姿が見えた。
「鼻クソをほじるなぁ!!」
アヤが大統領に飛びかかると、アヤの右ストレートがゴールドマン大統領の顔面にヒットする。
ゴロゴロと転がる大統領。
警護官達が慌ててゴールドマン大統領に近寄る。
「たった1人の娘をコントロール出来ないなんて、俺のヒーロー人生もこれで終わりだ……。」
唖然として立ち尽くすキャプテンスカイことジェイク・ハワード。
ゴロゴロと転がると、うつ伏せのまま動かないゴールドマン大統領。
「大統領!!」
アヤに吹き飛ばされた大統領を心配し、急ぎ近づく警護官達。
大統領の顔を見るやいなや警護官達の顔色が変化する。
「大統領は何処だ?探せ!!」
黒いサングラスをした体格のいいリーダーらしき警護官が慌てて周りの警護官達に指示を出す。
リーダーらしき警護官の後ろから泥にまみれたゴールドマン大統領がゆっくりと立ち上がった。
アヤに殴られた左の頬がベロンと不気味に垂れ下がり中から白い素肌が覗く。
先ほどとは打って変わりドスの効いた声で話す大統領。
「よくも、やってくれたなアメリカ娘。もう少しで、この国を私の物に出来たと言うのに!!」
右手で顔をギューッと引っ張ると大統領の正体が露わになる。
大統領の正体を見て驚くジェイク。
「お前は、ロシアのセルゲイ大統領。」
ブチッ、ブチッという異音と共に上質なスーツを突き破り、ウニョウニョと動く赤い8本のタコの足のような触手が現れる。
「ええい、許さんぞ貴様ら!!ロシアより愛を込めて!!」
赤い触手がグィーンと伸びると、ジェイクが吹き飛ぶ。
「父さん!!」
倒れたジェイクにアヤが駆け寄る。
左手で腹を押さえ、座り込むジェイクがセルゲイを指差す。
「俺は大丈夫だ。アヤ、奴を倒すんだ。お前はヒーローだ!!」
コクッと静かにうなずくとセルゲイを睨むアヤ。
アヤが左腕の時計に触れると《Call Me, Beep Me!》が流れ、アヤが叫ぶ!!
「HENSHIN、AmericanHeroine!!」
アヤの叫びと呼応するようにデジタルサウンドが鳴り響く。
「Change、DressForm!!」
アヤの服装が白地にピンクのドレスフォームへと変化する。
「よくも、父さんを……。許さない!!」
コツ、コツ、白いブーツの足音を鳴らしセルゲイに近づくとアヤが次々とパンチを繰り出す。
ヌルヌルと首を左右に動かし、巧みにアヤのパンチをかわすセルゲイ大統領。
「何故、当たらない?」
アヤがハァ、ハァと肩で息をする。
セルゲイがニヒルに笑うと背中の8本の触手がアヤを攻撃する。
ヌルリと触手が伸びると次々とアヤを攻撃する8本の触手。
赤い触手が可愛い顔に決まると吹き飛ばされるアヤ。
カツ、カツ、カツ――——
ニチャアと薄気味悪く笑うと背中の触手をヌルヌルと動かし、ゆっくりとアヤに近寄るセルゲイ大統領。
「諦めろ、アメリカ娘————」
迫り来るセルゲイを前にアヤが膝に手を当て立ち上がった。
「諦めない……。父さんも母さんも、きっとそうした……。それが私の物語だ!!」
フラフラと立ち上がると、右手で血まみれの口元を拭うアヤ。
(アレをやるしか……。でも、アレはもって数秒……。)
「これで、終わりだアメリカ娘!!」
セルゲイの背中の8本の触手がアヤに伸びる。
アヤが左手の時計に手をやるとLinkin ParkのIn the Endが流れ、時計からデジタルサウンドが鳴り響いた。
「Change、UltimateForm!!」
アヤが光に包まれる。
光の中から白地に赤と青のアルティメットフォームに身を包んだアヤが姿を現した。
後ろにまとめられた髪がほどけ、バリバリと青白い光を纏うアヤ・ハワード。
「姿が変わろうが、状況は変わらんぞ!!アメリカ娘!!」
8本の触手がアヤを攻撃しようとした瞬間、セルゲイの目の前からアヤが消えた。
ズドンと鈍い音と共に吹き飛ぶセルゲイ。
右足を上げ、キックを決めたままのポーズでアヤが立つ。
「あと、10秒。いや、3秒……。」
フラフラと左手で腹を抱え、立ち上がるセルゲイ。
「3……2……。」
上半身をひねり、右手を後ろに回したアヤがセルゲイの前に突然現れる。
「これで、最後だ!!」
アヤの渾身の右ストレートがセルゲイに決まった。
ゴロゴロと転がると道路に激しく打ち付けられピクリとも動かないセルゲイ。
「AmericanHeroine、UltimateForm、Untransform。」
アルティメットフォームが解除されたアヤにジェイクが近寄る。
「成長したなアヤ。」
アヤの肩に手を回し、ニコリと微笑むジェイク。
「お父さん……。」
ニコリと笑う父にアヤが微笑み返した。
ガチャンと牢の扉が閉まる音がする。
牢の中で1人壁に背もたれするセルゲイ大統領。
「畜生、もう少しで《この星》を我が手に出来たというものを……。覚えていろアメリカ娘。」
そう呟くと右手を鼻に伸ばし、鼻クソをほじった指をしゃぶるセルゲイ。
カシャ、カシャ――——
カメラのフラッシュがホワイトハウスの庭に立つアヤを照らす。
アヤの隣に立つ、《本物の》ゴールドマン大統領が記者を前に話し始める。
「皆さん、話は以上だ。皆で祝おうじゃないか。アメリカを救ったニューヒロイン、アヤ・ハワードの誕生を!!」
パチパチと大統領が小さく拍手をすると、隣に立つジェイクがアヤに微笑みかける。
父、ジェイクを見ると照れくさそうに笑うアヤ。
割れんばかりの拍手がアヤを包む。
プレジデントオウンがThe Stars and Stripes Foreverを奏でると、ワシントンD.C.の青空に鳴り響いた————
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