着信履歴
拓海は、改札の前に立ったまま動けなかった。
人の流れが絶えない中で、さっきの光景だけが頭に残っている。
あの男。
改札の前。
あの位置で、動かなかった。
誰かを探す様子もない。
待ちくたびれた様子もない。
ただ、視線だけが一点に向いていた。
――香帆。
あそこは、改札から出てくる人間を正面から見渡せる場所だ。
迎える位置でも、待つ位置でもない。
見る位置だ。
――
さっきの会話を思い出す。
電話をかけたのは、店を出てすぐだったはずだ。
呼び出しは一回で切れた。
ほとんど待っていない。
つまり、あの男はすぐに出られる場所にいた。
問題は、そのあとだ。
通話が終わってから、ほとんど時間は経っていない。
それなのに、あの位置にいた。
普通に動いていたら、間に合わない。
――最初から、そこにいた?
その考えが浮かんだ瞬間、背筋に冷たいものが走った。
電話にも出た。
そのまま、動いていない。
視線はずっと、同じ方向を向いている。
――香帆。
話しながら、見ていた。
拓海は、わずかに眉を寄せた。
――
電話のあと、香帆の様子がおかしかった。
笑っていた。
でも、どこか固かった。
あれは、安心している顔じゃない。
無理に形を作っているような笑い方だった。
着信は七件。
短時間のうちに、連続して。
普通じゃない。
心配、で片付けるには多すぎる。
――
そのときだった。
一瞬だけ、あの男と目が合った。
向こうも、確かにこちらを見た。
気づいている。
そう感じた。
だが、次の瞬間には、何事もなかったように視線を外した。
それだけだった。
それ以上、何も起こらない。
まるで、こちらの存在など問題にしていないみたいに。
その態度が、逆に引っかかった。
普通なら、何かしらの反応がある。
あれは違う。
わかっていて、無視した動きだった。
――
拓海は、ゆっくりと息を吐いた。
結論は、出ていない。
証拠もない。
でも。
偶然で片付けるには、重なりすぎている。
時間が合わない。
位置が不自然。
視線が一点に向いていた。
着信は七件。
すべてが、同じ方向を向いている。
あの男は、偶然そこにいたんじゃない。
そこまで考えて、拓海は目を細めた。
だったら――何をしていた?
答えは、一つしか思い浮かばなかった。
見ていた。
香帆を。
その言葉を、口には出さなかった。
出した瞬間に、何かが決定的になる気がした。
まだ、断定はできない。
でも。
このままにしておくわけにはいかない。
拓海は、無意識に奥歯を噛み締めていた。
胸の奥に、静かに何かが沈んでいく。
もう一度、会う必要がある。
あの男が、何をしているのかを――
確かめなければならない。




