確信
拓海は、改札で優斗を見たあの夜から引っかかっていた。
優斗の、あの位置。
あの視線。
動かなかったこと。
頭の中で、何度も繰り返す。
それだけで十分だった。
でも、確信には足りない。
証拠がない。
だから、踏み込めない。
踏み込めないまま、放置していい話でもなかった。
拓海はスマートフォンを手に取った。
香帆の連絡先を開く。
指が止まる。
今、何を聞く?
どう聞く?
考えて、やめた。
このまま聞いても、答えは出ない。
なら。
見るしかない。
直接。
拓海はスマートフォンを閉じた。
息を吐く。
決めた。
――
数日後の夜。
拓海は、香帆の会社の最寄り駅にいた。
改札の少し手前。
人の流れを見渡せる位置に立つ。
仕事帰りの人間が、次々と通り過ぎていく。
スーツ姿。
私服。
イヤホンをつけたまま歩く人間。
特別なものは、何もない。
ただの帰宅ラッシュだった。
時間を確認する。
十八時半を過ぎている。
以前、香帆が言っていた時間だ。
数分後。
人の流れの中に、見覚えのある顔が現れた。
香帆だった。
少しだけ早足で歩いている。
その様子に、違和感はない。
問題は――その先だった。
いた。
優斗。
改札の横。
柱の近く。
自然に立てる場所だった。
けれど、動いていない。
さっきから、ずっと同じ位置にいる。
人の流れが変わっても、立ち位置が変わらない。
目線だけが動く。
改札の奥。
出てくる人間を、一人ずつ見ている。
探しているわけじゃない。
焦りもない。
ただ、来るまで待っている。
そんな立ち方だった。
――最初から、いた。
拓海の中で、何かがはまった。
電話のときも、そうだった。
この男は、最初からここにいる。
そして――香帆が来るのを、知っている。
――
香帆が改札を抜ける。
優斗の視線が止まる。
その瞬間だけ、空気が変わったように見えた。
優斗は歩き出さない。
香帆の方が近づいてくる。
タイミングを計っている。
そう見えた。
やがて、香帆が気づく。
少し驚いた顔になる。
何か言っている。
優斗が笑う。
自然なやり取りだった。
周りから見れば、普通の恋人同士にしか見えない。
でも。
そこに至るまでの過程が、普通じゃない。
拓海は、無意識に拳を握っていた。
――
そのときだった。
一瞬だけ、優斗の視線が動いた。
こちらを向く。
目が合った。
その目に、驚きはなかった。
動揺も。
警戒も。
ただ、確認した。
それだけで、また香帆へ視線を戻した。
拓海は、息を止めたまま動けなかった。
もう疑いじゃない。
あれは――監視している。
その確信だけが、静かに沈んでいった。
直接、確かめなければならない。
逃げずに。
逸らさずに。
でも、今じゃない。
まだ、足りない。




