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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
8章 ACT2

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第12話 あれ? ですが、その場合、拙者も死ぬのでござるかね?

「あなた、拙者を食べたいと。そうおっしゃるんでござるかね?」

「そうですね。美味しそうとは思うのですが、さすがに人間を食べるのには抵抗があります」

「その感覚を大事にしていただきたい! それは人間としてとても大事な心だと思うのでござるよ!」


 少なくとも、今すぐ飛びかかってむしゃぶりつくというほどに飢えているわけではないようだった。


「なんでもかんでも奪ってみるものではないですね。常時自動発動のスキルを奪ってしまうと制御ができないわけですし」

「はぁ。その。それで拙者をどうしたいので。あなたの目的がよくわからないのでござるが」

「目的……」


 クリスが考え込む。

 花川には信じられなかった。彼女には即答できるような目的がないのだ。


 ――なんなんでござるか! たいした目的もなく拙者を殺そうとするなど!


 そう思うも言えるわけがなかった。

 相手は圧倒的な強者であり、彼女にとって花川は吹けば飛ぶような存在なのだ。


「ああ、すみません。少しばかり混乱してまして……先ほどの方から強力なスキルを一気に大量に奪ってしまったためか、それを統合するために私の心の中は嵐のような状況なんです」

「はあ。さようでござるか」

「それで、目的でしたか。私の目的はできるだけ楽に人生を過ごすことなのですが」

「その、人生の目的といった大きな話ではなくてですね」

「かといってそれは、腐れ果てた王侯貴族のように富に飽かして漫然と日々を過ごすことではないのです」

「まあ、それはそれでうらやましい状態でござるが」

「自分の持ち得る才能を最大限に活かすことができれば、それは一つの幸せな人生かと思うのです。私は昔から身体を動かすのが得意でして、たいていのことは一通り見るだけで習得することができました」

「だから人のスキルを奪うってスキルを与えられたのでござるかね」

「そんな私にとって冒険者というのは天職だと思うのです。適当にモンスターを狩っていれば収入と名誉が得られる。こんなに楽なことはなかったのです」

「それが幸せなのでしたら、それを続けていればよかったのでは?」


 こんなところで自分のような者に関わろうとしないでほしいと思う花川だった。


「ですが。人の強さというものには上限があります。適当に過ごしているだけではすぐに頭打ちになりました。人づてに聞いた話では、上限に達した状態でも死に物狂いの修行を続ければ限界を突破することができるらしいのですが」

「ああ。限界突破系のスキルですかね。人によっては当たり前に持っててむかつくでござるが」


 花川と同じく、二度目の召喚をされた東田亮介と福原禎章は持っていた。そのスキルがあれば人間の種族限界であるレベル99を越えることができるのだ。

 ギフトを得てレベル99まで成長できるだけでもそれは一つの才能であり、ここまで達するだけでも相当の努力が必要だ。

 実際、そこはたいていの人間にとっての到達点であり、特別な人間以外にその先はない。

 だが、ごくまれに必死の努力によってその限界を超える者がいる。レベル99を越えることは不可能ではないのだ。


「ですけど、私、無駄に終わるかもしれない努力をするのが嫌でして」

「あ、しないんでござるね。努力」

「そこに、斬りつけるだけでスキルを奪うことができる力をいただけたわけです」

「はあ。それはわかりましたでござる。そうすると、もう目的は達成したのでは?」

「いえ。この力には条件があります。タカトーヨギリという方を殺さないと失われてしまうことはご存じかと思いますが」


 マルナリルナのどちらかを夜霧が殺し、もう一方は逃亡したことですっかり終わった気になっていた花川だったが、クリスに言われてその条件とやらを思い出した。

 夜霧を殺した者にだけ使徒としての力が残るが、他の者は力を失うのだ。


「ええ。私はこの力を失いたくないのです」

「えーと。拙者は力とかどうでもいいですので、勝手にやっていただいたらと」


 すでに力を奪われてしまっている花川からすれば、本当にどうでもいい話だった。


「一定期間内にタカトーヨギリに挑む者がいないと、使徒は皆死んでしまうとか。もう使徒も少なくなったようですので、そろそろ私が挑まねばならないんでしょう。それまでにできるだけ力を得ようと思っていたわけですが」

「なるほどー。それだけの力があればどうにかなるのではないですかね?」


 花川は、実に心のこもっていない相づちを打った。

 慢心のあげくに夜霧に挑み、そして死んでくれれば花川としては都合のいい話だからだ。


 ――あれ? ですが、その場合、拙者も死ぬのでござるかね?


 花川では夜霧を倒せない。

 時間がくれば自動的に使徒が全員死ぬという条件なのであれば、花川が生き残れる望みなどまるでないのだ。

 なんとなく大丈夫なような気がしていたが、マルナリルナのどちらかは逃亡しただけだ。

 夜霧たちを襲う気はなくなったかもしれないが、死亡条件がなくなったとは限らない。


「はい。挑むための力は得られたと思うのですが、私に定着するのに時間がかかるんです。そして、その過程であなたを食べたいと考えるようになってきていまして。なので私についてきてください」

「……はい……でござる」


 ――おそらくですが、定着してしまうと拙者への食欲も十二分に発揮されるのでは……。


 このままこの女のそばにいるのは非常にまずい。

 どうにか逃げ出したいとは思うものの、今この場で出し抜いて逃げ出したところで意味はなかった。

 彼女は、花川のそばに瞬時に移動する能力を持っているからだ。


 ――とりあえず……ギリギリのところまで精一杯生き残るのでござるよ……。


 現状は絶望的だ。

 だが、いつまでも同じ状況かはわからない。

 これまでも奇跡的に助かってきたのだ。今回もどうにかなる瞬間が訪れるかもしれない。

 花川は、一縷の望みを不確定な未来に託すしかなかった。


  *****


 皇帝であり賢者でもあるヨシフミ。

 ひょろりとした身体にはたいした力はなさそうであり、言動にも戦う者の覚悟のようなものがまるでない。

 見た目はそこらにいるチンピラで、それなりに戦いを経験した戦士であれば圧倒できそうに思える。

 今のビビアンなら、どうにでもなるような相手に見えた。


「けどなぁ。こんなのと戦っても面白くもなんともねえんだよなぁ」


 部下を下がらせて自分から前に出てきたくせに、ヨシフミはそんなことを言いだした。


「引き分けって言ったのヨシフミじゃん」


 先ほどまでビビアンと戦っていた女が不満そうに言った。


「どうせ戦うなら、自分のことサイキョーだと思ってて俺を舐めくさってる奴じゃねーとなぁ。そーゆー奴が俺に手も足も出ねぇで狼狽えるってのが面白いんじゃねーか」

「そりゃ無理じゃない? だってこの子、ヨシフミが皇帝で賢者だって知ってるし」


 そのとおりだ。

 いくら弱そうに見えてもビビアンはヨシフミを舐めてかかるつもりはなかった。

 相手は賢者なのだ。どれほど弱そうに見えようが、弱いわけがない。

 強敵だと想定して身構える必要がある。


「さっさと終わらせるか。はい、終わり」


 ヨシフミは何をするわけでもなく、ただそう言っただけだった。


「は? 何が終わりだっての!?」


 ビビアンは生きている。何のダメージも負ってはいなかった。


「足下見てみろよ」


 言われてビビアンは素直に足下を見た。

 最初は、何がおかしいのかわからなかった。おちょくられただけなのかと思うも、すぐにつま先が灰色になっていることに気付く。

 つま先は、まるで石のようになっていた。

 そして、それはゆっくりと範囲を広げていた。


「殺すと復活するならってことで、石化させることにした。つい最近手に入れた力だ。堪能してくれや」

「この! チェーンソーシールド!」


 ビビアンは盾を放った。

 だが、それは簡単に部下の女が弾き飛ばした。

 ヨシフミの戦いはもう終わったと判断して前に出てきたのだろう。

 こうなるともう何も通用しないのは目に見えていた。


「これ、酒場を石化したやつだよね? あのときは一瞬でやってなかった?」

「そりゃおめぇ。そんなことしたってつまんねーからよ」

「えー? もしかしてこんなとこで、石になってくのをずっと見てるの!?」

「駄目か?」

「駄目ってことはないけど……つまんなくない? てか、こんなとこまでわざわざやってきて、するのがお姫様を石にすることなの?」

「んー。そう言われりゃぁ、やってることがしょぼすぎる気もしてきたな。けどそーなるとよぉ。こんなとこまでやってきて他にすることねぇんだが。せいぜいがこいつをいたぶるぐれぇだろうがよぉ」

「えー? することないなら帰ろうよー」

「ああそうだ! おまえ他の王族らと一緒に来たんだろ? そいつらどうした?」

「それがあんたに何の関係があるって言うの!」


 ビビアンは、石化を解除できる盾を出せないかと試していた。

 だが、回復能力を持つ盾では石化を止めることはできなかった。


「他にいるんなら、おまえをとらわれの姫として扱ってやってもいいかと思ったんだが」

「ええ! お兄様は後からやってくるわ! それに天位剣士のゲイルもいるもの! あんたなんて真っ二つなんだから!」


 そんな嘘に意味があるのかはわからない。

 だがそれで多少でも生き延びることができればと、ビビアンは叫んだ。


「けどよぉ。おまえら正攻法じゃどうにもなんねぇから、こんなとこまで世界剣を探しにきたんだろうが。何人か増えたところでどうなるってんだよ?」

「そ、それは! あんたに言うわけないでしょ!」

「ま、そりゃそうだな。奥の手があるってのなら期待したいところだが……そういや世界剣はどうなった?」


 世界剣なのかはわからないが、錆び付いてボロボロになっていた剣はビビアンが放り投げた。

 なので、近くに落ちているはずだが、ビビアンから見える範囲には落ちていなかった。


「てか、レイとシゲトがいないんだけど?」

「あぁ?」


 ヨシフミが疑問に顔を歪め、次の瞬間、弾けるように笑いだした。


「ぐははははっ! あいつら裏切りやがったのかよ!」

「え? レイには何か枷をはめてないわけ?」

「いや? 仲間にしてくれっつーから、四天王がちょうど空いてたし面白そうだと思っただけだが」

「ちょっと! あんなぽっと出を何の保険もなしに信頼してたわけ!?」

「別に信頼はしてねぇよ。何かしでかしたら面白いと思ってただけで」

「面白いって……」

「おまえも裏切りたくなったら好きにしろや」

「ヨシフミの力を知ってるのに裏切るわけないでしょ。あいつら何にもわかってないのよ」

「しかし、剣を持って逃げたってことは、あれは本物だったってことか?」

「でも、あんなのどうすんの?」

「預言書になんか書いてあるんだろ。どうにかできるから持って逃げたんだろうぜ」


 そう聞いてビビアンは後悔した。

 やはりあれがヨシフミを倒す手段だったのかもしれないのに、ろくに考えもせずに投げ捨ててしまったのだ。


「レナ。あいつらを追えるか?」

「無理。逃げるところを見てないから」

「じゃあ自力で追うしかねぇんだが、どうしたもんか」


 ヨシフミたちは、もうビビアンを見ていなかった。

 忘れたわけでもないだろうが、興味は完全に裏切り者の行方に移ってしまっているのだろう。


「ねえ」


 ビビアンは、自ら声をかけた。石化は膝のあたりまで進んでいた。


「ああ。仲間がいるんだっけ? 助けにきてくれるといいな」


 ビビアンなどどうでもいいという態度で、ヨシフミたちはこの部屋を出ていこうとしていた。


「待ちなさいよ!」

「あぁ!? 助けろとか無様なこと言うつもりか?」

「取引よ! 石化を解除するなら、逃げたって奴らの行き先を教えてあげるわ!」

「へぇ? ちょっと面白くなってきたな」


 確かに無様な言い草ではあるだろう。

 両親を殺し、国を奪い取った相手に命乞いをしているのだ。

 だが、ここで石になってしまえば、何もかもが終わってしまう。

 今となっては、ビビアンは王族最後の生き残りなのだ。どうあっても死んでしまうわけにはいかなかった。


「私には、探し物をする能力がある。ここまでやってきたのもその能力を使ったからよ。だから、世界剣がどこにいっても追いかけることができる!」

「ほう? 面白そうじゃねぇか」


 ヨシフミが指を鳴らす。

 すると、太ももあたりまで進行していた石化が止まり、ポロポロと石片が崩れ落ちた。どうやら石化は表面から進行していたらしい。


「ヨシフミー。こんな奴まで信用するわけぇ?」

「だから信用してるんじゃねぇよ。何かしたいならすりゃいいんだ。それが面白けりゃ俺は満足だ」

「言っとくけどさぁ。ヨシフミ私より強いから、何かしようとしても無駄だからね。返り討ちにあって死ぬだけだから。長生きしたいなら余計なことはしないようにね」


 部下の女が釘を刺す。

 もちろん、今すぐにヨシフミに対して行動を起こそうとは思わない。

 それは、再び世界剣を手にしてからのことになるだろう。


 ――だけど。こいつ隙だらけだし!


 ヨシフミは傲慢で自信に満ちている。

 それこそ仲間が全て裏切ろうが、最終的には自分一人でどうにでもなるという圧倒的な自信を持っているのだ。

 だからこそ、小物を警戒するような真似はしない。そんなせせこましいことをする自分を許せないのだろう。

 なので一緒に行動していればいくらでもチャンスはある。

 ビビアンはそう、自分に言い聞かせた。

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