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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
8章 ACT1

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第8話 何のためにハナカワを攫うんだよ!? あんなくだらねぇ生き物をよ!

「ハナカワの野郎はどこ行ったんだよ!? 逃げやがったのか、あぁ!? あんだけ面倒みてやったってのによぉ!」


 ヨシフミが苛つきを隠さずに叫んだ。


「面倒見てたかなぁ? ほとんど、ほったらかしだったような」


 レナが呆れたように言う。


「放っておいてやるだけでも、たいしたもんだろうがよ!」


 ここはエルフの森の中。

 賢者ヨシフミは神輿に乗ってここまでやってきたが、神輿を担いでいた奴隷たちが全滅したので渋々歩いているところだった。

 謎の女の襲撃に苛ついていたところ、花川が突然消えたのだ。

 よほど腹立たしいのか、ヨシフミの機嫌はすこぶる悪かった。

 花川がいなくなり、彼らは四人で行動している。

 賢者ヨシフミ。四天王のレナと九嶋玲。賢者候補の三田寺重人がその構成だ。

 帝国での重人の立ち位置は自分でもよくわかってはいなかったが、どうやら玲の部下という扱いらしい。


「おいシゲト! ハナカワがどこに行ったかわかんねぇのかよ!」

「イレギュラーなイベントについてまではわからないですね」


 三田寺重人のクラスは預言者(オラクルマスター)。運命を予見する能力を持っていた。

 だが、何もかもを知ることのできる全知の能力ではないので、いきなり消えた花川の行方まではわからない。

 重人にわかるのは、簡単に言ってしまえば進行しているイベントの攻略情報にすぎないのだ。


「くそっ! ハナカワの野郎、今度会ったらただじゃすまさねぇ!」

「花川くんに私たちから逃げる能力なんてないはずだし、本人の意思じゃないかもしれないけど?」

「攫ったってか? 何のためにハナカワを攫うんだよ!? あんなくだらねぇ生き物をよ!」


 そのくだらない生き物を重用していたのはヨシフミでは、と重人は思ったが、口には出さなかった。

 今は一応は部下ということになっているが、機嫌を損ねれば即座に死を賜ることだろう。余計なことはできるだけ言わないにこしたことはない。


「そういや変な女がハナカワを襲ってたよね。あいつが連れてったのかな?」

「くそっ! どいつもこいつも俺様を苛つかせやがってよぉ!」


 黒いドレスを着た女の件も謎だった。

 突然現れて花川に襲いかかったものの、殺すわけでもなく突然消えたのだ。

 花川に訊いても訳がわからないと言うだけで、その正体はわからずじまいだった。


「これで世界剣とやらまで手に入らなかったら、ストレスでどうにかなっちまいそうだ! シゲト! ちゃんと向かってるんだろうな!」

「はい。もうすぐ迷いの森を抜けます。そこから先はまっすぐ目的地に向かうだけです」


 エルフの森は、大きく分けると外縁部、内周部、中央部と三つに分けられる。

 この内周部がやっかいな場所で、空間が循環しているのだ。闇雲に進んでは同じ所を延々と彷徨うはめになる。

 だが、重人は迷いの森の攻略手順を知っていた。

 予言者の力で、どう進めばいいのかがわかるのだ。ここは同じ所を何度も歩いているようでも、一定の順路を進んでいけば抜けられる仕組みになっていた。

 この森には蟲が大量にいて、次々に襲いかかってくる物騒な環境だが、敵には玲とレナが対応していた。

 玲のクラスは運命の女(ファムファタル)。異性を籠絡する能力を持っており、それは蟲にも通じるものだったのだ。

 なので、雄の蟲は玲が支配下において、雌の蟲を攻撃させる。

 それだけでは対応しきれない場合はレナが対処していた。

 レナの能力を重人は把握していないが、そつなく強かった。特別な力を使うことなく、身体能力だけで蟲を返り討ちにしていたのだ。


「めんどくせーな。おい、レナ。瞬間移動で俺を連れてったりできねーのか?」

「無理。私の瞬間移動は、逃げる敵の先回りをするとか、いきなり相手の後ろに出現するとかだから」


 要は対象となる相手の周囲への移動であり、長距離の移動もできないとのことだった。


「使えねぇなぁ……」


 ヨシフミは嫌々という様子で、だらだらと歩いている。

 そうするうちに迷いの森を抜けた。


「まっすぐに行けばエルフの里で、そこが目的地です」

「ほー。エルフねぇ。世界剣はそいつらが守ってるのか?」

「いえ。里にある隠し通路から、封印の遺跡に進むことができるんです。それがもっとも早く世界剣に辿り着く経路です」

「よーし! エルフはとっ捕まえて連れて帰ろうぜ! 今、うちにも何匹かいただろ。番いにして増やすんだ!」

「それは帰りにしない? ぞろぞろ連れてくっての?」

「あー、拘束できる能力の持ち主がいねぇか……いや。玲ならどうにかできるんじゃねーか?」

「そうですね……男を支配下に置いて女を拘束して帝国へ連れていかせておくのは可能だと思います」

「よし! それでいこうぜ!」


 途端にヨシフミの機嫌がよくなった。

 もう花川のことはどうでもよくなったらしい。

 重人は預言書を参照し、歩きやすい道へと向かった。

 一見ではわかりにくいが、枝葉が切り払われるなどして道として整備されている場所があるのだ。

 道を辿っていくと、簡単に里まで辿り着いた。


「しょぼいな」


 何を期待していたのか、里を見たヨシフミは落胆していた。


「そりゃー、こんな森の奥にある集落だしねぇ」


 レナは当たり前だと言わんばかりだ。重人もこんなものだろうと思っている。

 粗末な木造建築がぽつぽつと立っているだけの村だった。


「長老とかいるんだろ。そいつシメようぜ!」

「ここまで私たち結構働いてるからさぁ。ヨシフミもたまには動きなよぉ」

「いいぜぇ。たまには俺様の力も見せてやるかぁ!」


 だが、ヨシフミが力を発揮する機会は訪れなかった。

 なぜなら、エルフの里は綺麗さっぱり消し飛んでしまったからだ。


「は?」

「え?」


 皆が絶句する。

 目前を膨大な熱と光が通り過ぎ、後には何も残っていなかったのだ。


「何だ、これ……」


 ヨシフミが素の顔になっていた。


「何でしょう……」


 重人にもわかるはずがなかった。


  *****


 神から力を与えられて調子に乗っていたのも、今となっては昔のこと。

 ビビアンは途方に暮れていた。森の中で立ち往生しているのだ。

 ビビアンは一応は無敵だ。何者の攻撃も通さない盾を出現させることができるし、死んでも生き返ることができる。

 なので死ぬ心配だけはないのだが、かといってどうしていいものかわからない。

 ビビアンは、エルフの森の中にある遺跡を目指していた。

 遺跡に到達はしたものの遺跡を守っている何かの攻撃を受け、あわてて逃げ出したところで神の使徒に襲われたのだ。

 神の使徒は、冒険者のクリス。

 エント帝国の西側で冒険を繰り広げていた悪名高き英雄だ。

 クリスの襲撃により、兄王子と護衛の戦士は死んだ。

 今生き残っているのは、ビビアンと姉のマチルダ、従者のマーヌだけだった。


「どうしよう……」


 ここまで来て逃げ帰っていいものなのか。

 エルフ達の防備が薄い今が千載一遇のチャンスなのかもしれないのだ。

 今逃げ帰れば二度とここまで来ることはできないかもしれない。そう思うと何の成果もなしに帰るのは躊躇われてしまう。

 だが、先に進むにしても遺跡には守護者がいる。

 遺跡の中に入る前の段階で、一行が壊滅させられるほどの罠が仕掛けられていたのだ。遺跡の中にはより強力な防衛体制が敷かれていると想像するのは、当たり前のことだろう。


「ビビアン。一応言っておくけど、蟲除けの香には限りがあるよ。いつまでも悩んではいられない」


 マーヌが渋い顔で言う。酷なことを言っているのはわかっているのだろう。


「そ、そうね! とにかく前に進むべきよね! 幸い私は無敵なんだし! 何が出てきたって平気なんだから!」


 一人で行くならどうにでもなる。


 目的の物がどこにあるのかはよくわからないが、とにかく探してみるしかないだろう。


「ちょっと待って! 一人で行くっていうの!」


 マチルダが慌ててビビアンにすがりついた。

 いつもの高慢な態度はかなぐり捨てていて、怯えた様子を隠そうともしていない。


「こんなところに置いていかれるなんて嫌!」


 ここが安全なわけではない。

 遺跡から逃げてきて、とりあえず落ち着いた場所でしかなかった。

 蟲が来ないのは蟲除けの香のおかげでしかなく、それもいつまで持つかはわかったものではなかった。


「でも、遺跡に行くよりはましなんじゃない?」

「何がましなのよ! あの殺人鬼がまたやってくるかもしれないじゃない!?」

「一度帰って態勢を立て直すかい? 正直、ビビアンに全てを任せるのは不安だよ」


 身の安全を考えるならそれが最善だろう。

 だが、帰ったとして態勢を整えられるとも思えなかった。

 護衛最強だったゲイルは死んだし、後継者たる王子も全滅した。

 継承権は姫であるビビアンたちにもありはするが、いずれも跡を継ぐなどとは思ってもおらず、支配者たるべく教育などろくに受けてはいない。

 香に限りがあるなら、一度帰ってしまうと、次は蟲に怯えながらの道中になる。

 つまり、帰るということは世界剣オメガブレイドを諦めるということだ。


「やっぱり帰る? 国を取り戻すにしても、他の方法があるかもしれないし」


 今は思いつかないが、何も世界剣のみが賢者を倒し、国を奪い返す唯一の方法でもないはずだ。


「他の方法って何!? どうやって冒険者や賢者に勝つっていうの!? 最後の手段がこれなんじゃないの!」


 だが、マチルダは楽観的に考えているビビアンとは違った。

 こんなところまでついてきたのも、国の再興について真剣に考えた結果なのだろう。


「いや、どっちなのよ……」

「好きにおし。私はビビアンに従うよ」


 従者であり、育ての親でもあるマーヌだが、自分の考えを押しつけようとはしなかった。

 もっとも、マーヌもどうしていいのかわからないだけかもしれないが。


「じゃあ……みんなで行く? こっそり行けば見つからないかもしれないしさ」

「そ、そうね! 最初は油断があったかもしれないけど、わかっていたらどうにかなるかもしれないわ!」

「まあね。進むにしろ帰るにしろ、遺跡には行かなくちゃならないからね」


 旅に必要な物資は遺跡に放置されていた。臣下が荷運びをしていたが、遺跡の守護者に殺されてそのままになっているのだ。

 今のビビアンたちはほとんど何も持っていないに等しい。これでは、帰るに帰れないだろう。


「じゃあ、これ持ってて」


 ビビアンは盾を二つ出現させて、マチルダとマーヌに渡した。


「なんでも防げる無敵の盾なんだから!」

「最初から渡しといてって言いたいところだけど、ありがとう」


 盾を構えながら慎重に遺跡へと戻る。

 それほど離れていなかったのか、すぐに森は途切れて石畳のある場所まで辿り着くことができた。


「どう?」

「んー……巨大ゴーレムみたいなのは、また建物に戻ったみたい」


 そこには石材を積み上げて作られた建物が立ち並んでいる。

 先ほどここに来た際には、これらの建物が変形して襲いかかってきたのだ。


「中間あたりまで行ったら襲ってきたんだったかな」


 マーヌが持つ導きの鈴は、目的地の方向に向けると微かに鳴る。

 それによれば、この遺跡群の奥にある巨大な三角形の建物に世界剣があるはずだった。


「まっすぐ行っても同じことになりやしないかい?」

「じゃあ、端っこを行こう!」

「そんな単純な問題なのかしら……」


 先ほどは、遺跡群の真ん中を通る大通りを堂々と進んでいった。

 それがまずいのなら、そこは避けるしかないだろう。


「じゃあできるだけ端のほうに」


 森と建物の境界に沿って動いていく。右端に辿り着いたところで、中央方向へと向きを変えた。

 意味はないかもしれないが、できるだけゆっくりと気配を抑えながら進んでいく。


「真ん中あたりまでは来たかしら……」

「今のところは大丈夫そうだけど……」

「荷物はどうするんだい?」

「今は放置で。今回収しても邪魔になるだけよ!」


 そのままビビアンたちはゆっくりと進んでいった。

 かなりの時間をかけて歩いていき、目的地である巨大な建物が真左に見える位置にまで辿り着く。

 ここからは建物の間を通っていくしかなかった。


「じゃあ慎重にね」

「ええ」


 これまで以上に細心の注意を払いながら歩く。

 何かが起こったところで慌てて逃げ出すぐらいしかできることはないが、それでものんきに歩くわけにもいかないだろう。


「まあ、このあたりの建物は小さいから、変形とかはしないんじゃない?」

「何の根拠もない希望的観測ですわね」


 正面には、三角形の巨大な建物が見えている。何事もなければこのまままっすぐに進めばいい。

 だが、そう簡単にいくわけもなかった。

 地面が揺れ、建物が震える。

 ビビアンたちの左右にある建物が、蠢きはじめたのだ。


「ここまで来たら一気に行くしかない!」


 幸いというべきか、変形には多少の時間を要するらしい。

 ビビアンは巨大な盾を出現させた。

 それに車輪のように四つの盾を付加する。これで簡易的な乗り物が完成した。


「乗って!」

「これ盾なの!?」


 三人は盾に飛び乗った。

 車輪部分の盾を高速で回転させて、一気に加速する。

 あっというまに建物の間を通り抜け、ビビアンたちは大通りへと飛び出した。


「抜けた!」

「こんなのできるなら最初からこれで突っ込んだらよかったんじゃ!?」

「気付かれないにこしたことはないでしょ!」


 大通りにこの手段で突っ込んでも、巨人に左右から押し潰されるだけになったかもしれない。

 これはあくまでも最後の切り札だったのだ。


「いける!」


 ここから先には何もない。あとは一直線に目的地である巨大な建物へと向かうだけだ。

 背後からは建物が変形した巨人が追いかけてくる。

 だがビビアンのほうが速く、巨人たちは追いつけない。


「後は到着すれば……へ?」


 ビビアンは目を疑った。

 目的地である巨大な三角形の建物が、大きく震えていたのだ。


「もしかしてあれも!?」 


 それは当然のことだったのかもしれない。

 大通りにある建物が変形するのだ。中央にある巨大な建物が変形して巨人になったとしても不思議ではなかった。

 だが、まさかという思いもある。目的地の建物まで変形するのであれば、ではいったいどこへ向かえばいいのか。


「導きの鈴は、あいつの下を示してるよ!」


 マーヌが鈴を動かしていった。鈴を巨大な建物に向けると鳴り響く。そして、下へと向ければより大きく響くのだ。


「地下ってことなの!?」

「とりあえず突っ込む!」


 近づいてみなければどうしていいかはわからない。

 ビビアンはそのまま直進した。

 巨大な建物は、腕を生やし、脚を生やして立ち上がる。それは見上げるほどの大きさになり、大巨人ともいうべき姿へ変貌を遂げた。


「あった!」


 大巨人の足下。

 そこに、その巨体から比べればちっぽけな穴が開いていた。

 大巨人が片足を上げる。ビビアンたちを踏み潰そうというのだろう。

 だが、それはチャンスでもあった。


「巨大チェーンソーシールド!」


 ビビアンは頭上に片手を掲げ、そこに巨大な盾を出現させる。そして大きく振りかぶり投げつけた。

 巨大な盾が大巨人の軸足に激突する。ビビアンの盾では巨人どもを切り裂けないのはわかっている。だが、大質量をぶつければ衝撃は通るだろう。そのもくろみ通り、大巨人はバランスを崩してその巨体を傾かせた。


「ちょっと! こっちに倒れてきますけど!」


 ビビアンは慌てて向きを変えた。

 倒れてくる大巨人から離れるように、全速力で突き進む。

 大巨人が倒れ、遺跡群を押し潰した。ビビアンたちの乗る盾は、その振動で大きく跳ねた。


「チャンス! 今なら行けるよ!」

「その機転を最初から発揮していれば、皆助かったのではなくて!?」

「そんなこと言われても思いついたの今だし!」


 ビビアンは乗っている盾を地下入り口へと向けた。

 最大の障害である大巨人もしばらくは動けない。後を追ってきている巨人も引き離している。

 今なら邪魔をする者はいない。

 だが、想定外の出来事がビビアンたちに襲いかかった。

 光だ。

 訳のわからないほどの強烈な光を浴び、ビビアンの目の前が真っ白になった。

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