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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
8章 ACT1

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第6話 なんだ。服と一体化してて一緒に脱げるとかじゃないのか

 エルフの少女、フワットの家で、夜霧、知千佳、もこもこが操る槐の三人は待機していた。

 エルフたちがどのような生活をしているのかはよくわからないが、この家にはフワットが一人で住んでいるようだ。

 鳳春人が去った後、することもなくてぼんやりと待っていると、しばらくしてフワットが帰ってきた。


「じゃあ、行きましょうか」


 フワットは家に入ってくるなりそう言った。


「え? エルフとの交流みたいなのは!? せめてお茶を飲んだりとか!」


 それまでぼんやりとテーブルについていた知千佳が勢いよく立ち上がった。

 家で待っていろと言われただけで、なんのもてなしもなかったことに落胆しているのだろう。


「何をとぼけたことを言っているんですか。私たちは人間と敵対していることをお忘れなく。あなたたちには早く出ていってもらいたいだけです」

「エルフがいるってわかったんだから、もうそれでいいだろ」


 それほどエルフに興味のない夜霧は淡々としたものだった。


「何か悩み事とかないの!? そーゆーのを私たちが解決するような展開は! その過程でエルフとの友情が育まれたり!」

「目下の悩みはエルフの森に人間が迷い込んだことですね。あなたたちがさっさと出ていってくれることで悩みを一つ解決できるのですが」

「うう……、嫌われてるのに図々しく居残るもんでもないよね……」


 出ていけと急かされているようだったので、夜霧は立ち上がった。


「そういや、花川は?」


 部屋を見回した夜霧は、ようやく花川がいないことに気付いた。


「途中でどっか行ったけど?」

「我々も暇ではないので、勝手にどこかに行った人のことまでは知りませんよ」


 村の人々と出会うと面倒なことになる。そう言われて夜霧たちは、フワットの家でおとなしく待っていたのだ。


「今までもいつの間にかいなくなってたし、別にいいか」

「そうだよね。気付いたらいないよね、いつも」


 よくあることだと夜霧は特に気にしなかったし、知千佳も同意のようだった。


「いや、おぬしら。少しは心配するそぶりとか、捜すふりぐらいはしたらどうなのだ……」

「花川だし」

「そのうちひょっこり現れるでしょ」

「では行きましょう」


 花川に関して合意できたと判断したのか、フワットは家の外に出た。

 夜霧たちもその後に続いた。

 来た時もそうだったが、村の中は閑散としていた。

 森の中にある小さな集落だ。それほど賑わっていなくても不思議ではないのだが、エルフがあまり出歩いていないのだ。エルフの手下である蟲猿のほうが多いぐらいだ。


「エルフの森が手薄になったのはエルフが減ったからなの?」


 普段は森に入るとエルフが出てきて襲われる。だが、最近になってエルフが出てこなくなったと夜霧は聞いていた。


「人間にわざわざ教えることでもないですね」


 防衛戦力が激減した。確かにそんな情報は敵対勢力に伝えるべきことではないだろう。

 だが、言いぶりからすると減ったのは事実のようだった。


「俺がイゼルダを殺した影響だとしても、エルフにばかり被害が出るのか?」


 夜霧は小声でもこもこに訊いた。

 イゼルダは客船で倒した敵だ。

 イゼルダは、己の因子を持つ生き物を世界中に用意していた。

 その因子は普段は働くことなく潜んでいて、大半の者は自分がイゼルダであることを知らずに一生を終える。

 だが、イゼルダ同士は世界中にネットワークを張り巡らせており、顕在化しているイゼルダが死んだとしても、どこからか復活を遂げるのだ。

 夜霧も、イゼルダを殺した時には驚いた。夜霧は能力を行使した結果を把握できるが、その際に何百万もの人々が死んだ手応えを感じたのだ。


「ふむ。イゼルダとやらの生存戦略はよくわからぬが……エルフの総数が少ないのならそのようなことも起きるかもしれぬな。ランダムに因子をばらまいていたとしても、局所的な偏りは出るであろうし」

「そういうものか」


 会話が弾む雰囲気でもないため、黙々と村の通りを歩いていく。夜霧はそこらに花川がいないかと一応捜してはみたが、姿は見当たらなかった。

 夜霧たちは村を出て森へと入った。

 フワットは迷いなく進んでいくが、夜霧はすぐにどこにいるのかわからなくなった。

 どこを見ても同じような熱帯雨林のごとき景色だ。これで現在地を把握していろと言われても、普通は無理だろう。


「空間が循環してるみたいだったけど、どうやって出るの?」


 巨大な樹木で囲われた六角形の領域外は、どこまでも森が続いていた。

 空間が歪んでいるのか、ここは別世界のような場所になっているのだ。


「まあ、それぐらいなら教えてもいいでしょう。一定の順路で歩くと抜け出ることができます」

「やっぱり迷いの森か」


 だとすると、なんのヒントもなくここを脱出するのは、ほとんど不可能だろう。


「……でも、森の真ん中って行かなくてよかったのかな? なんかありそうだったけど」


 知千佳はまだ気になっているようだった。


「行ってほしくないって言ってるんだから、興味本位で行くべきじゃないだろ」


 もともとは脱出方法がわからず、とりあえず向かった先だった。

 この森には東側へ抜けるために入っただけなので、余計な所に向かう必要もないだろう。


「エルフイベントほとんどなかったね……エルフの森……」

「そうかな? 結構あったような気もするけど」


 フワットについていくと、森の中であっても歩きやすかった。

 エルフはこの森を熟知しているのだろう。

 よく見ないとわからないが、枝葉が邪魔にならず地面も平坦になっている道のような場所があるのだ。


「これ、あとどれぐらいで出られるの?」

「もう少しであなたが言うところの迷いの森に入ります。そこからは正しい道筋を進めば三十分程度というところでしょうか」

「迷わなければ案外近いんだな」

「迷うところまで人が侵入することは滅多になかったのですけどね」


 これまでは人が森に入ってきた場合、すぐに撃退していたとのことだった。

 だが、大半のエルフが突然死に、これまでのような戦力の運用ができなくなったのだ。


 ――俺のせいかもしれないけど、そんなあやふやなことを伝えても仕方がないよな。


 証拠があるわけでもないし、夜霧の力とは関係がないかもしれない。

 こんな状況で説明したとしても、フワットから見れば、ひどく曖昧で訳のわからないことを言っているだけになってしまうだろう。

 あえて伝えることでもないと夜霧が考えていると、森が途切れ、何もない場所が現れた。

 十メートルほどの幅で、何もない地帯が伸びているのだ。

 フワットが立ち止まり、夜霧たちへ向き直る。


「この先が迷いの森になります。ここから先は正確に私の後を――」


 ついてこい、というようなことを言いたかったのだろう。

 だが、その言葉が発せられることはなかった。

 フワットがその場に倒れたのだ。


「フワットさん?」


 知千佳が驚きの声をあげる。

 何者かの攻撃なのかもしれないがそれは夜霧たちを狙ってはおらず、夜霧は殺意を感知することができなかった。

 夜霧はあたりを見回した。

 鬱蒼としていて暑苦しい熱帯雨林の中は見通しが悪い。誰かが潜んでいるのかもしれないが、夜霧には何も見つけることができなかった。


「触丸だ」


 もこもこが呆然とつぶやいた。


「どういうこと?」

「フワットの中に入れっぱなしだったのだが、それが鋭角化して内臓を破壊しおった」

「え? もこもこさん、なんでそんなことを!?」

「違うわ! 触丸が制御不能になっているのだ!」

「何者かの攻撃?」

「ええ。デモンストレーションといったところです」


 夜霧がもこもこに問いかけると、何もない場所から答えが返ってきた。

 声がしたほうへ視線を向けると、何者かが姿を現した。

 それは瞬間移動だったのか、姿を隠蔽していただけなのか。唐突に、その場に現れたのだ。

 それは、人間ではなかった。

 人のような姿ではあるが、その体表は金属質であり、関節部分には機械が見え隠れしている。

 機械であることを隠そうともしない人型ロボットというところだろう。

 頭部だけは人間の少女なのが、夜霧には不気味に思えた。


「そちらの少女二人も我々が提供した素材をお持ちですね。それは我々の制御下にあります。さて。あなたの力が我々を殺すのが早いか、我々が少女たちを殺すのが早いか、試してみますか?」

「何をどうしたいんだ?」


 知千佳たちを人質にとるような真似をするということは、ただ殺したいわけではないのだろう。


「あなたが持つ、女神の欠片をお渡しいただきたいのです」

「何だそれ? 何か勘違いしてない?」


 そう言われても何のことか、夜霧にはわからなかった。

 今までに入手した物を思い出してみたが、女神に関する物は記憶にない。

 物ではないのかもしれないが、それはもっと説明してもらわないとわからないだろう。


「いえ、あなたが持っていることは確実です。その反応を検知したからこそ我々はここへとやってきたのですから」

「それが欲しいならまずは普通に声をかければいいだろ。なんで脅迫から入るんだ?」

「我々は確実にそれを手に入れなければならないからですよ」

「だとしても話し合いから入ればいいと思うな!」


 ――さてどうしたものかな。


 夜霧は対応を考えた。

 目の前の相手が何者かは知らないが、脅迫の手口を見る限り脅威ではない。知千佳を殺そうとするなら実行する前に殺せばいいし、槐は人形なので守る必要もないだろう。

 だがこの少女ロボットは、以前に列車に乗ってハナブサの街に向かっていた時に出会った巨大ロボットの関係者のはずだ。それがなぜ、今さら夜霧たちに関わってこようとするのか。

 殺すとしても、まずはそれを聞き出す必要があった。


「もこもこさん。こうなると触丸を使い続けるのは危うくない?」

「そうだな……十分研究したつもりではおったが、バックドアのようなものがあるようだしな」


 もこもこの同意を得たので、夜霧はまず触丸を殺した。

 機能を停止した触丸は、黒い塊となって知千佳と槐の足下に落ちた。


「な!」


 少女ロボットが驚いていた。

 中身がどうなっているのかはわからないが、ずいぶんと感情をあらわにしている。


「なんだ。服と一体化してて一緒に脱げるとかじゃないのか」

「何を期待してるのかな!?」

「うむ。バトルスーツモードだったなら、期待通りにいったのだがな」

「これで脅しは通用しなくなった。で、聞きたいんだけど。あんたは、前に俺たちと出会った巨大ロボの仲間ってことでいいのか?」

「そのとおりですよ」


 少女ロボットが驚いていたのはつかの間のことで、すでに冷静さを取り戻していた。


「じゃあ、ずっと俺たちを監視していたのか?」


 触丸が彼らの制御下にあったのなら、夜霧たちの動向を探るのは簡単だったはずだ。


「まさか。我々の探していたものが見つかったのでそれを取りにきただけのこと。それを持っているあなたたちの容姿がデータベースに登録されていたので、使えそうな情報を利用しただけです」

「それが女神の欠片? 巨大ロボットもそれを探してた? でもそんな物持ってないけど」


 最初から持っていれば、巨大ロボットも気付いただろう。

 となると、この異世界で入手した何かということになる。

 だが女神の欠片とはなんなのか。

 女神が人のような姿をしているのなら、人体の一部なのかもしれないが、そんな気色の悪いものを入手した記憶などなかった。


「もしかして賢者の石?」


 知千佳が言う。確かに、夜霧たちが意識的に集めているとなるとそれぐらいしかない。


「いや……だとするとちょっとおかしいような。巨大ロボが賢者から回収した素振りはなかったから」


 それに、賢者の石が目的なら、ロボットたちはもっと積極的に賢者に襲いかかってもいいだろう。

 だが、そのような事実はない。

 侵略者(アグレッサー)と賢者は敵対しているが、それは現れた侵略者(アグレッサー)を撃退するために賢者が出向くといった関係なのだ。


「あなたたちがそれをどのように認識しているかはどうでもいいことですが、我々の欲している物はあなたの持つ鞄に入っています。それを我々に渡しなさい」

「と言われてもな。もしそれが賢者の石だった場合、渡すわけにはいかないし……」


 夜霧は背負っていたリュックを下ろし、中を確認することにした。

 このリュックは魔法のアイテムで、中は見た目よりも広くなっている。

 中はいくつかに分かれているので、夜霧は貴重品を入れている区画に手を入れた。


「……ないな……」

「え!? どういうこと! ちゃんとそれに入れてたよね!?」

「うん。シオン、レイン、ライザの持っていた三つだ。間違いなく入れたはずなんだけど」


 形状を思い浮かべるとそれを手に取れる仕組みになっている。

 賢者の石は、手のひらサイズの丸い石なのだが、それがリュックの中に入っていないのだ。


「もしかして盗まれた!?」

「可能性はあるな……俺は殺意は感知できるけど、泥棒の気配までわかるわけじゃないし」

「ちょっと! 我々は砕かれた女神の欠片を――」

「今それどころじゃないから」


 しびれを切らしたのか少女ロボットが言ってくるが、そんな謎のアイテムよりもこれまでそれなりに頑張って入手してきた賢者の石がなくなっていることのほうが重大事だった。


「まあ……中が広いだけの収納道具で、特段セキュリティが強いわけでもないしな……」


 持ち主だけにしか取り出せないような機能はついていなかった。その気になれば誰でもこのリュックから中身を持ち出すことはできただろう。


「え、どうすんの!? これまでの旅路は全て無駄!?」

「うーん。盗まれる可能性を考えてなかったのはまずかったな……いや? 何かあるな?」


 貴重品の区画に、石ではない物が入っている。

 とりあえず夜霧はそれを手にした。

 生暖かくぶよりとしたもので、手にした瞬間に背を怖気が走った。


「何だこれ?」


 リュックから取り出し、しげしげと見つめる。

 それは、肌色をしたなまこのようなものだった。

 生きているのか、それは脈打っている。表皮には薄く青い血管のようなものが浮き出ていた。


「キモっ!」


 知千佳がそう声をあげるのも無理はなかった。


「こんなのを入れた覚えはないけど……誰かに入れられた? それともこれが――」

「女神の欠片! それを渡しなさい!」

「嫌だ」


 気持ち悪い見た目のよくわからない物だが、賢者の石の代わりに入っていた物だ。

 そう簡単に渡すことはできなかった。


「ならば力尽くで奪うまで!」


 途端に、周囲に轟音が響き渡った。

 空を見上げれば、巨大ロボットが何体も浮かんでいる。どうやっていたのかはわからないが、今までは姿を隠していたのだろう。


「最初に会った巨大ロボットは話のわかる奴だったんだけどな……」


 どうやら、あれとは違う個体のようだった。

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