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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
8章 ACT1

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第5話 何なんでござるか! その拙者に特化したふざけた能力は!

「えーっと……まずは落ち着いてほしいのでござる!」


 こんなことをつい最近も言っていたような気のする花川だった。

 冷静で話が通じる夜霧はそれでうまくいったが、今回の相手は興奮状態のようなので本当に落ち着いてもらわなければ困るところだ。


「落ち着いてるけど? ちょっと我慢しきれなかったぐらいで」

「それが落ち着いてないということでござるよ! 普通はそこらにいる男の腕に噛みついたりはしないのでござる!」

「そう?」


 少女は首をかしげた。


「あの! 拙者のことが好きだったりするのですよね!? でしたら腕を噛むとか、傷つけるとかして心が痛んだりはしないのでござるか!」

「……なんで?」

「あ、これ本気でわかってないやつでござる! その! 拙者はですね! ごくかいつまんでぶっちゃけてしまいますと、エッチなことをしても問題ない、むしろ大歓迎って感じの、拙者が好き放題にできるような美少女の方に来ていただきたかったんでござる! でも、あなたそうじゃないでござるよね!?」


 確かに望み通りに美少女ではある。スタイルも希望通りだ。

 だが、妙に口が大きく開いたり、人間の腕をかみ切れる咬合力があったりする相手を望んでいたわけではまったくない。


「エッチなことって?」

「……ううっ! 真顔で訊かれると反応に困るのですが……そのオブラートに包みますとですね。一つになるといいますか……子供を作る行為といいますか……」

「生殖行為のこと?」

「あ、学術用語的な感じでうまいことごまかせてる感はありますな。そう! そういうことでござる。で、拙者を痛めつけるのはそういうことではないでござろう! 確かに拙者には多少の被虐趣味はあるかもしれないでござる! けど、それはちょっと踏みつけられたりとか! 顔面騎乗ですとか! SMだとしても、ライトな感じの! ファッション感覚のやつでござる! 本当に身体を傷つけるようなやつは御免被りたいのでござる!」

「食べれば一つになれるよ?」

「ちょっとばかり、そんなことを言うかなとは思ったでござるが、絶対にそっちではないので!」

「……食べた相手の遺伝子を抽出して、自分の遺伝子とランダムに交換して、新たな遺伝子を持つ個体を生み出すのが、生殖行為なんじゃないの?」

「……え? いや、その……」


 花川は、思わずよろけて後ずさった。

 思った以上にやばい相手だということが、その台詞の端々から伝わってくる。


「君と私なら、きっと可愛い子が生まれてくるよ」

「チェンジで! 今回はご縁がなかったということで! 来ていただいたうえでこんなことを言うのは非常に心苦しくはあるのですが、お帰りいただけないでしょうか!」

「いや……帰らない……」

「うぅ。非常に可愛いので、本来であれば言われてみたい台詞ではあるのでござるが……ですが、ここで絆されてしまうとひどい目にあうのでござるよ!」

「大丈夫だよ。死なないようにするから。生えてくるんでしょ?」

「治りますけども! でもそういう問題ではなくてですね!」

「だったら問題ないじゃない。一気に食べちゃおうって思ってたけど、ちょっとずつ食べたらずっと楽しめるんでしょ? だったら我慢する。殺さないよ?」

「生殺し感がすごいでござる!」


 ――とにかくヤバイでござる! これまでいろんなピンチに遭遇してきましたが、その中でもこれは最たるものでは? これはどう切り抜ければいいので!


 何を言ってもごまかせる気がしないので、口八丁ではどうにもならないだろう。

 どんな気持ち悪いことを言っても彼女は受け入れてくれる。そんな予感しかしない。


「あのー、一つ確認なのですが。これから拙者をどうするおつもりで?」

「おうちに持って帰って誰にも邪魔されないところで君をたっぷりと楽しむ」

「嫌すぎるお持ち帰りですな!」


 少女はどこからか、袋を取り出した。


「それは……?」

「私のうちまではちょっと厳しい環境だから、これに入れておかないと死んじゃうと思う」

「それに入れられた時点で死にそうなんですが!」


 大きめの袋ではあるが、花川が入るほどではない。入れるとするとかなり圧縮しないと無理な大きさだった。


 ――これ……このままお持ち帰りされてしまいますと、永遠に食われ続ける地獄のような状況が待っているのでござるよね? 死んだほうがましなのでは!? いや、諦めてはいかんでござる。どうにか打開しないと!


「えーと、その、ストレスフルな状況で育てられた牛よりも、優しく愛情を込めて育てた牛のほうが美味しいって聞いたことがあったような、なかったような」

「ストレスは与えたほうが美味しくなるよ? 苦しいとね、苦痛を抑えるために神経伝達物質みたいなのがぴゅるぴゅる出るの。それで味がまろやかになったりするから」

「あ、駄目だこれ。価値観が全然違うのでござる」


 説得は不可能だろう。

 となると戦うか、助けてもらうか、逃げるか。

 戦って勝てる気はまったくしなかった。腕を噛み千切られた時、その動きを花川はまったく見ることができなかったのだ。それに人の腕をあっさりとかみ砕く力まである。つまり勝ち目はないので、戦うのは論外だ。

 助けてもらうなら最有力候補は高遠夜霧だ。夜霧ならこの女が何者であろうとあっさりと即死させるだろう。

 だが、ここで叫んだところで夜霧まで届きそうにはなかった。邪魔されないようにと村はずれまで来たのだ。声が届いたとしても、夜霧が花川のために駆けつけてくれるとも思えない。

 夜霧のもとまでこちらから出向けばいいのかもしれないが、それは逃げるのとほぼ同じ意味だ。

 では、逃げる方法はと考えても、この少女を出し抜いて逃げ切れるとは考えられなかった。


 ――とにかく拙者の手持ちの道具、スキルを考えてみるのでござる!


 花川はアイテムボックスのスキルを持っている。簡単に言えば見えない袋があり、そこに道具を収納しておけるのだ。

 中には前回の召喚の時から集めた様々な道具が入っている。

 だが、しょせんは花川が入手できたような道具でしかない。それほどレアな物はなく、誰もが購入できるような代物しかなかった。


 ――一番レアなのは、命がけで入手した奴隷の首輪なのですが……。どうにかこの女を言いくるめて、自ら装着させられないですかね?


 身体能力に差がありすぎて、無理矢理付けるのは不可能だろう。それにあまりに格上には通用しない可能性がある。


 ――そういえば、この方、何者なのでござる?


 検索ウィンドウを確認する。名前はカルラ。後は3サイズなどの見た目に関する情報のみだ。

 だが、それらの情報の下に詳細ボタンがある。

 花川は詳細ボタンを押した。


 ++++++++++++++++++++++

 天盤喰らい。その本体はあまりに大きく、天盤(宇宙)をも丸呑みにできるほど。

 雑に天盤を喰らってきたが、ここ数百年ほどは味にこだわるようになってきた。

 大きすぎる本体では細かな味を追求できないため、天盤世界内での活動体として分身体を作り出した。

 カルラはそのうちの一つで、本体に比べれば脆弱だがそれでも天盤内でいえば神に匹敵する力を持つ。

 本来はシステム外の存在だが、グルメ情報を検索するために様々なシステムにユーザー情報を登録している。

 ++++++++++++++++++++++


「ちゃんと詳細情報を読めばよかったでござる!」


 花川はその場にへたり込んだ。

 格上すぎて、何も通用する気がしなかった。


「えー!? これどうしろと!」


 アイテムは通用しないと思ったほうがいい。

 ならば花川が他に使えるのは、ヒールと召喚のスキルだ。

 ヒールは意味がなさそうなので、使えるのは召喚ぐらいだろう。


 ――召喚だと……カルラ様に匹敵するようなのを喚び出し……いや、状況が泥沼になる様しか想像できんのでござる……あ! でしたら!


 高遠夜霧を召喚する。

 いい考えだと思った花川は、即座に検索を開始した。


「って、出ないんですが! 名指しで検索してるんですけど! え! どういうことでござるか!」

「さっきから、どうしたの? ちょっと食べていい?」

「よくないでござる! その! 空腹は最高の調味料なんて申しますし、我慢したほうがより美味しくなるんじゃないですかね!」

「あ。その発想はなかった。我慢すると美味しくなるのか……そうかも」


 なぜか納得されてしまったので、多少の猶予はできたようだ。


「えーと、そう! では知千佳たんを喚べば!」


 知千佳を喚べば、夜霧も探しにくるだろう。

 そう考えて、壇ノ浦知千佳を検索した。

 今度は名前が表示された。だが、名前は灰色になっていて、着信拒否と表示されていた。


「着拒って! いや、そもそも同意がなければ喚べないのですが!」


 なんでも召喚とはいうものの制限は多くある。

 このスキルは無理矢理相手を召喚できるものではないのだ。

 ちらりとカルラを見る。

 カルラは、袋の口を無理矢理広げていた。花川を入れる気満々だった。


 ――逃げるしかないのですが……あ!


 思いついたことがあるので、花川はそれを試すことにした。

 検索ウィンドウで、花川大門を検索する。

 瞬時に名前は表示された。召喚も可能だ。


 ――召喚位置ですが……。


 そのまま召喚すれば、花川の目前に召喚される。

 だが、召喚位置を変更できるのならどうだろうか。

 やってみると、召喚位置をずらすことができた。

 システムウィンドウに地図が表示され、花川の現在地を中心に半径百メートルほどの範囲を指定することができたのだ。


 ――できれば高遠殿のところに行きたいのですが……。


 だが、この地図ではどこに何があるのか何もわからなかった。

 とりあえず座標を指定するだけのものらしい。

 花川は一番遠い位置を指定して、自分自身の召喚を実行した。

 召喚は、瞬時に行われた。

 目の前の景色が村の中から、森の中に変わったのだ。


「成功でござる! これを繰り返せば!」


 どこに向かっているかは考えない。まずはカルラから距離を取るのだ。

 花川は北へ向かって召喚転移を十回行った。

 これで一キロ程度は距離を稼げたはずだ。


「ですが、なんであなたはそこにいるのでござるか!」


 カルラが目の前に立っていた。


「君の匂いは覚えたから、ついていけるよ」

「え!? これもう詰んでるのでは?」


 そもそもが自力で世界を超えての転移が可能な相手だった。

 キロ単位で逃げたところでなんの意味もなかったのだろう。


「……その……食べてもらってもいいので、おうちに連れて帰るとかは勘弁してもらえないでござるかね……」


 花川は譲歩してみた。

 こんなわけのわからない存在の本拠地などに連れていかれてしまっては、本当に何もかもが終わってしまいかねない。

 それぐらいなら、多少痛い目を見るのは仕方がないと覚悟したのだ。


「この世界、ちょっときな臭いかな。落ち着いて食べられない」

「え? それはその、もしかしてカルラ様よりも強い何かがここにはいるということで?」

「なんか集まってきてるよ? ここにいるよりうちに来たほうが安全だと思うんだけど」

「それはマジでござるか?」

「なんで嘘をつかなきゃいけないの?」

「えーっと……」


 なんとなくだが、この手の上位存在は人間相手にわざわざ嘘はつかないように花川には思えた。

 そうなると、本当にこの世界は危ういのだろう。


「そのー、だとしてもですね。その袋に入るというのはちょっと無茶なのでは……」


 カルラが手に持つ袋を見る。

 やはり花川を収納できる大きさではなかった。


「……半分ぐらい食べたら入ると思うんだけど」

「たぶんその状態で袋に押し込められたらヒールどころではないので、死んでしまうかと思うのでござるが……」

「じゃあどうしよっか」

「どうしたものでござるかね……いや、そのですね。拙者が美味しいとしましてですね。そんなごちそうを食べ続けるのはどうかと思うのでござるよ。そーゆーのはたまに食べるから美味しいわけでですね。ですので、たまに食べにくるとかそーゆーところで一つ、どうですかね?」

「そうなのかな?」

「そうでござるよ!」


 この方向へ話を持っていけば、どうにかなるかもしれない。

 そう思ったところで、カルラの首がぽろりと落ちた。

 それは何の脈絡もない、あまりにも唐突なものだった。


「はい? それはそういう余興みたいなものなので?」


 花川は、カルラが自らそうしたのだと思った。

 上位存在故の、わけのわからないお茶目な行動だと思おうとしたのだ。

 だが、カルラがバラバラになってこぼれ落ち、その背後に何者かがいるのを見て考えを改めた。

 それは剣を手にした女だった。

 彼女が、カルラを細切れにしたのだ。


「なんなんでござるか! 次から次へと! 新キャラはもうおなかいっぱいなんでござるが!」

「駄目かもと思いましたけど、なんとかなりましたね」


 女は飄々とそう告げた。


「そ、それはよかったでござるね! ですが、拙者、たまたまここに居合わせただけのくだらない者ですので、ここでお暇させてもらうでござるね!」


 助かったとはまだ言えないだろう。カルラの脅威がなくなったとしても、また別の脅威が現れたに過ぎないのだ。


「待ってください」


 少しずつ後ずさっていた花川は、そう言われて動きを止めた。


「えーと、なんでござろうか? 拙者とあなたは無関係ですよね? そちらのバラバラになってる人と何かあるのかもしれないでござるが」

「あなた、神の使徒ですよね?」

「あー、その。使徒だったこともあるでござるね。はい」


 そう言われて花川も使徒としての感覚を思い出した。

 使徒同士はお互いにその存在を認識できる。その感覚によれば、女はマルナリルナの使徒だった。


「私もそうなんです。冒険者のクリスといいます」


 冒険者。エント帝国が中心となって作りあげたシステムだった。

 エント帝国には、冒険者ギルドがあり、冒険を斡旋しているのだ。


「ははぁ。それはそれは。で、拙者に何の用でござる?」

「使徒でしたら、特別な力を神からいただいたのですよね?」

「ははははは……拙者のは、特別だなどというほどのものでもないので……」


 嫌な予感がして、花川は自分召喚を行った。それにより、百メートル先へと転移したのだ。


「やばいでござるよ! あれも関わってはいけないオーラが半端ないので――」


 花川の胸から剣が突き出した。


「あ……こーゆーの、前にもあった気がするでござるね……」

「さっき斬った人から能力を得られまして。あなたの匂いを辿ってそばに移動するという能力なんですが」


 背後から、クリスの声が聞こえてきた。


「何なんでござるか! その拙者に特化したふざけた能力は!」


 どうあっても逃れられないようだった。

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