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即死チートが最強すぎて、異世界のやつらがまるで相手にならないんですが。(書籍準拠版)  作者: 藤孝剛志
7章 ACT2

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第22話 このまま消化されるかと思ってたけど助かったよ

 マルナは、極彩色の建物が建ち並ぶ空間にいた。

 柱は赤で、壁は黄で、屋根は金。どぎつい色がいたるところに使われていて、マルナからすれば信じられないような美的感覚に基づいて作られた場所だ。

 一瞬、ここがどこなのかよくわからなかったが、すぐに神の座だと思い出した。

 普段は滅多に来ない、世界を管理するための場所だ。

 世界の運用は自動で行われているので、大幅な設定変更でも必要にならない限りここには用がない。

 なのでほとんど廃墟のようなものだった。

 もっとも、神のために用意された建物が朽ちることはない。

 以前この世界を管理していた神から奪い取ったが、あまりに悪趣味に思えてその後は見向きもしなかった場所だった。


「なぜこんな所に、と思ってるんだろうね」


 声がし、マルナはそちらを見た。

 少年が立っている。

 人を小馬鹿にしたような顔の少年で、マルナはその気配に覚えがあった。

 この世界をマルナリルナの前に支配していた旧神。堕ちた神の一人だ。


「いやあ、海の藻屑どころか巨大魚に食べられちゃったから、このまま消化されるかと思ってたけど助かったよ」


 何を言っているのかと疑問に思うと、マルナの脳裏にその状況が描かれた。

 高遠夜霧たちを乗せた龍が、力をなくして海へと落ちていく。夜霧たちは脱出し、龍はそのまま海へと沈んでいった。

 龍が沈んでいくと深海から巨大怪魚が現れ、龍を一呑みにしたのだ。

 確かに少年は事実を述べている。だが、堕ちたとはいえ神だ。たかが野生生物ごときにやられるはずもないだろう。


「うっかり力を使いすぎちゃってたからね。封印が解けなかったらこの身体は危なかったかも。ああ、自己紹介がいるかな? 僕は降龍。あだ名みたいなもんだけど、案外気に入ってるから、君もそう呼んでくれるとうれしいよ」


 神は基本的には不滅だ。

 殺そうと消滅させようと、年月を経ればどこかから湧き出るようにして現れる。

 なので神同士の戦いでは、決着後に隷属させるか、封印処置を取ることが多かった。

 この世界の支配権を争った戦いの結果、七人の神が消滅。四名が逃走。残った一人は隷属を拒み最後まで抵抗したため、リルナが封印を施したのだ。

 その封印は術者そのものを鍵とするものであり、術者が生きている限り他者が解くことはできないものだった。


「なんの用? 今さらこの世界を取り戻そうってこと?」


 マルナにはどこか焦りがあった。

 神である自分でも理解できないことが立て続けに起こっている。

 いつものようにふざける余裕がなくなっていた。


「うーん。それはちょっと厳しいね。僕たちは十二人もいたのに、二人だけの君たちに負けちゃったんだ。君一人になったとしても、単純な戦力比で考えれば敵うわけがないよ」


 そのとおりだった。

 神としての力を取り戻そうが、降龍一人でマルナに敵うわけがない。


「で、なぜこんな所なのかと言うと、僕が呼んだんだよ。君は明確に目的地を定めずに飛んだだろう? だから僕にも干渉の余地があった。どこでもいいから逃げようと飛んだわけだから、そのどこでも、の部分を僕が選んだんだ」


 確かにそれは可能だろう。

 マルナは無我夢中で飛んだだけで、どこに行こうと思ったわけでもないからだ。


「そうそう。用なんだけど特別なものはなくって。単に小馬鹿にしにきただけだよ」

「なに!? 死にたいの!」

「うーん、今なら死なないんじゃないかな。勝てはしないけど、負けもしないっていうか。ま、それはともかく高遠夜霧はどうだった?」


 マルナは押し黙った。

 そう言われて直前に起こった出来事を思い出す。

 まだ何も整理できていなかった。何もわからないに等しい状態だったのだ。


「あれについて何か知っているの!?」

「わざわざ教えないよ? 僕は君を馬鹿にしにきたんだから。せいぜい思い悩むといい。それでこそ僕の溜飲も下がるというものさ」


 しかし神であるマルナにその正体がわからないというのも不思議な話だった。

 全知全能である神が、管理する世界内でのことがわからないなど本来ならありえないことなのだ。


「さて。基本的に神は全知全能なのだけど、君も知っているとおり神は何人もいるわけだ。全員が全知全能などというのはおかしな話だよね。そもそも全知全能って言葉自体が矛盾を孕んでいるんだけど」


 全能を真の意味でなんでもできるという意味だとすれば、全能のパラドックスに陥る。

 よく言われる例は、全能者は絶対に持ち上げられない石を創造することができるのか?

 石を作れないなら全能ではないし、作れたとしてもその石を持ち上げられないのでやはり全能ではないことになる。


「全能のパラドックスについては皆で目を背けるっていう暗黙の了解がある。けれど全能対全能となるとどうか。それは全能の及ぶ範囲と、全能強度の兼ね合いってことになるよね」


 そんなことは当然知っている。

 全能者は、それぞれが支配する領域内でのみ全能たり得るのだ。

 そして、全能には強度がある。

 全能者同士の対決はそれが全てだ。支配領域が重なっていて、同程度の全能であれば能力を相殺しあってお互いに何もできないことになる。

「全知についてだけど、僕たちは全ての情報を同時に知ることはできない。僕たちは神だなどと嘯いているけれど、知性と情念と感情があり、連続的(シーケンシャル)に物事を考えている。全知とはいえそのベースは個々の魂であり意思だ。なので、最初から全てを知っているわけじゃない。何かについて知ろうと考えて、初めてそれについて知ることができる」


「さっきから何が言いたいの?」

「前置きさ。さて。全知であることを維持しようとするなら、知らないことがあってはならないんだけど、先ほどの説明でわかるように知ろうとしなければそれは問題ないんだ。だから、君の親かな? 創造主はあれについて教えなかったんだろう。知らなければ考えないし、考えなければ全知を維持できる」

「だからなんなの!」


 まわりくどい、もったいぶった物言いにマルナは苛立った。


「いや、だからさ。君はもう全知じゃないと言いたいんだよ。高遠夜霧がなんなのかわかんないんだろ? これで君の全知は崩れた」


 そう指摘されたことで、マルナリルナの神格は揺らいだ。


「そしてマルナとリルナは同程度の存在のはずだ。その片割れが殺されたということは、君も殺される可能性がある。つまり、全能であるというのも疑わしくなってくるね」


 さらに揺らぐ。

 神としての存在基盤に罅が入るのを、マルナは感じていた。

 それは、あってはならないことだった。


「だから全知全能だなんて偉そうにしてる奴らは、あれについては思考から除外しているんだ。そして知らない者には初めから教えていない。勝負を挑まなければ全能でいられるし、知ろうとしなければ全知でいられるからね」

「そ、そんな存在があるわけない! いるはずがない!」

「いるんだよね。困ったことに。そして信じられないことに、高遠夜霧から逃れる術はない。もう君は終わってるんだよ」


 まさかと思いマルナは高遠夜霧を見ようとした。

 瞳が、現れた。

 閉じた瞼が開くように、空中にいくつもの眼が現れたのだ。

 それは見るという概念の具象化だ。高遠夜霧が、マルナを認識しているという表れだった。

 高遠夜霧はマルナの視線に気付き、見つめ返してきたのだ。


「で、少し話は戻るけど、全能者同士の戦いでは支配領域が重要になる。全能者は、自分の支配が及ばない場所では他の全能者に勝てないからね。ところで、ここはどこだっけ?」


 神の座。

 世界の管理場所であり、旧神の拠点だ。


「君の片割れが死んだことで僕は封印を解かれた。同時に、少しだけ支配領域も取り戻した。ここは僕が全能を振るえる場所なんだよ」

「だから何!? ここが私の支配領域でもあることは変わらないのに!」

「うん。全能の強度は君のほうが上だから、今の僕じゃ勝てないよ」

「さっきからなんなわけ! いい加減にして!」

「だから。勝てる人にやってもらうよ」


 マルナの背を何かが貫いた。

 それは胴を貫通し、胸へと抜け出ていた。

 腕だった。

 白く、しなやかな腕がマルナの胸から飛び出していた。


「紹介するよ。彼女は漆黒の魔女ミランダで趣味は神殺し。神殺しの咎人とも呼ばれてるよ」

「な……なんで……」


 決定的な一撃が加えられたことをマルナは自覚した。


「神として揺らいで弱くなり、僕の支配領域下にあり、他の全能者の手助けがある。これだけしても不安はあったけど、どうにか届いたようだね」


 マルナの問いに、降龍は手法について答えた。


「どうにかして一矢報いたいと思っていた。できすぎなぐらいにやり返せて、すっきりとしたいい気分だよ」


 ミランダは動機について語った。


「ちょ、ちょっと待って……私まで消えたら、この世界は大変なことに……」

「この世界がどうなろうと知ったことか」


 ミランダが吐き捨てるように言う。

 世界を渡る魔女にとってはこの世界などどうでもいいのだろう。


「神としての業務は僕が引き継ぐよ。前にもやってたから心配はいらない」


 してやったりということか、降龍はほくそ笑んでいた。


「そ、そんなんじゃない! この世界には……あいつが……」


 だが、マルナは何も伝えられずに消滅するしかなかった。

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