高木孝介⑤
今年の秋季リーグでうちの大学は6チーム中5位の成績に終わり、表彰者を一人も出すことはできなかった。
とはいえ、俺の中にこの結果に対する悔しさだったりリベンジに燃える反骨心みたいな特別な感情が湧き上がってくることもなく、毎試合スタンドで応援していたはずなのに、今期の印象に残るシーンなんてものは俺の中には存在しなかった。
最終戦の9回裏、我がチームの攻撃が不発に終わり、三者凡退のうちにゲームセットを迎えた瞬間も、俺はスタンドからフェンス越しに黒土のグラウンドを見つめながら、これから来年春までの半年間で完全復活ができるだろうかと、そんなことをぼんやり考えながら、マウンドが少しずつ遠くなっていくのを感じていた。
そろそろ引き揚げようと振り返ったとき、撤収作業を進める関係者の中で、一人スタンドに立ち尽くしたまま、その場を動かない部員がいることに気がついた。
桑山先輩だった。彼もまた、プレイヤーがいなくなったグラウンドをじっと見つめていた。でも俺と違うのは、彼が唇を嚙みながら、目から大粒の涙を流していたことだ。
4年生の桑山先輩にとっては、この試合が大学野球最後の試合だった。彼は4年間で公式戦の出場どころか、一度もベンチ入りもしたことがない。
その涙にどんな想いが込められていたのかはわからなかったが、ベンチ入りできなかった他の4年生はあっさりとした様子で荷物を抱えて引き上げていくのとは対照的で、その横顔が一番強く印象に残った。
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キャンパスでは秋物を身にまとう学生の姿が増え、少しずつ乾いた空気の中に枯葉の匂いが濃くなっていく。
そんなある日、テレビでドラフト会議の中継を見た。おなじみのアナウンサーの声が、球団名、指名選手、ポジション、所属先を読み上げていく。
注目選手の所属先には多くのメディアが押し寄せ、指名された際の表情や第一声を捉えようと躍起になっていたのだろう。
高校生、大学生、社会人、どの年代も程度の差こそあれ、指名された選手はカメラの前で努めて表情を引き締めていたが、その嬉しさを隠し切れない様子だった。指名が競合し、抽選の結果、意中の球団が交渉権を獲得した選手はなおさらのことだ。夢見たユニフォームに袖を通し、憧れのプロ野球選手になれるのだから。
ちょうど一年前、俺は自分がこの会見の場にいるところを何度も想像した。妄想の中で俺は大学のロゴが入ったボードを背にし、スーツ姿でカメラのフラッシュを浴びながら、真面目な顔で記者の質問に答えていた。
「○○から指名を受けた現在の率直な感想をお聞かせください」
「自分を評価してくださってありがたいと思っていますし、素直に嬉しく思っています」
「その気持ちを今一番誰に伝えたいですか?」
「両親をはじめ、今まで支えてくれた全ての人に感謝したいです」
「どんな選手を目指しますか?」
「先発、中継ぎなどにこだわらず、どんな場面でも必要とされるところで活躍できる投手になりたいで
す」
無難な回答でまとめる俺は、クレバーな選手としての印象も世間に植え付ける予定だった。
あれから一年、今の俺にはそんな会見の様子は微塵も想像することができない。怪我を抱えた選手としての漠然とした不安と焦りだけが日々大きくなっていた。
4年になる最後のシーズンで結果を残せば、ドラフトに掛かる可能性もあるだろうか。一そんな希望を抱く一方で、「きっともう百五十キロのストレートは投げられない」「MVPを獲得した一年前の秋季リーグ、今思えば、あのときが俺のピークだったのかもしれない」
最近はそんなことさえ考える。
気づけば俺は、手のひらを真上に向けた状態で腕を正面に水平に伸ばすと、靭帯を損傷した右ひじの内側を祈るような気持でじっと見つめていた。




