仮面舞踏会にて
会場は木を司る墓守が管理する、大樹のある墓地。華やかな雰囲気が苦手なディフラはお留守番を申し出ます。
仮面舞踏会という事で装いもヘリオはハウオリに合わせ濃紺から黒に変え、随所に控えめなフリルが付いたものにしました。
ハウオリは普段からゴシックを好んでおり、フリルもふんだんにあしらわれた服を選びました。所謂ゴスロリは顔をヴェールで隠しても違和感を与え難いからです。
最低限のドレスコードさえ守れば良いだろうと、仮面も装着して会場へ。受付を済ませ、中へ入るとハウオリは初めて見る光景に目を奪われます。
仮面を着けて踊る人々や、豪華な食事を楽しむ人々。ヘリオの墓地には幽霊が少ないので賑やかな雰囲気も新鮮です。そもそも、着飾る機会もあまりなかったので、ハウオリは胸を高鳴らせました。
取り敢えず会場を回っているとヘリオがふと、壁際で自身の主霊と同じく見惚れている様子の女性に声を掛けます。
「ムギー?」
名前を言い当てられ驚くムギーですが、リボンに紛れてアンクレットよろしく足元にいたテラコッタくんを目敏く見付けただけでした。
「1人で来たの?コトホギは?」
「それが……」
コトホギはお留守番……というか「せめて誰かは赴かないと失礼にあたる、でも神父は行きたくありません。あぁ見倣い、つまり弟子よ。貴女の出番ですよ」と押し付けられたムギーでした。
事情を聞き、笑ってしまうヘリオ。ハウオリも思わずクスリと笑ってしまい、慌てて墓守の背に隠れます。
「一大事なのに笑っちゃってごめん。こっちはハウオリっていって、俺の主霊なんだ。良かったら仲良くしてね」
「よ……よろしくお願いします……」
「わ、私はムギーです。是非、よろしくお願いします」
ハウオリの事情を知らないムギーはお友達が増えたと喜びます。知り合いも居ない舞踏会でどうすれば良いのか困っていたから寧ろ助かった、と。
その気さくさに安心したハウオリは、一緒に舞踏会を楽しみます。滅多に見られない料理に挑戦してみたり、宝石と見紛う美しさのスイーツを堪能したり。
人気のない中庭で先程見た踊りを真似してみたり。はしゃぐ2人をすっかり保護者目線で見守るヘリオ。しかし、休憩に来たのか参加者と思しき人物達の会話が聞こえてしまいます。
「なぁ、何故今頃になってパーティー、しかも仮面舞踏会なんだ?」
「知らないのか?噂によると、主霊の中に魔女が紛れてるって話だぜ」
墓守が主催の仮面舞踏会ですから、疑問が出るのは不思議ではありません。どうやらこれはその噂の真偽を確かめる為だったようです。
ムギーが「魔女って具体的に何?」と首を傾げると、ヘリオが説明してくれました。
キノコのように自然発生する者であり、コブンの墓守を統べる者。墓守に不老不死を与える謎多き存在で、詳しくはベールに包まれている。誰かの姿を模倣する、なんて話もあるそうで。
「だからまぁ、主催者みたいに知りたがったり、あわよくば利用したがる人間が居てもおかしくないよね」
「成る程……」とムギーが頷くと、先程話していた2人が会場に戻る際、疑われている筆頭の主霊を挙げました。
「火を司る墓守の主霊なんか見た事がないぞ」
「人見知りらしいが、本当は魔女だったりするかもな」
「まぁそれなら鳥の主霊も……」
ハウオリは自分が疑われていると知り、怖がります。隠れているだけではダメなのか、ヘリオにも迷惑を掛けてしまっていると揺らぐ彼にムギーはそっと手を取ります。
「私にとってハウオリちゃんはハウオリちゃんだよ。魔女がどうとか、関係ないよ!」
安心させるように両手で手を温めるように握るムギーに、思わず相棒を見やるハウオリ。視線に気付いたヘリオは宥めるような、余裕綽々といった風に微笑みました。
「迷惑なんかじゃないさ。俺の主霊はお前しか居ないよ」
ハウオリは、勇気が欲しいと思いました。せめて、自分の足で立てるように。けれど勇気を出すぞ!と決意したは良いものの、具体例は浮かばないし疑いが強まると怖いから一度帰るね、と言いました。
当然ヘリオも一緒に帰ろうとしますが、ハウオリは「レディを1人にする気?」と咎めます。ムギーは(ハウオリちゃんだってレディでは?)と首を傾げますが口には出しません。
去り際小声で「ムギーの方見過ぎ」と指摘を受けたヘリオは(逞しくなったな……)と感慨深げに頬を指先で軽く掻き、ムギーの元へ戻り、気付きます。
これはチャンスなのでは?と。
訳もわからん夢に囚われてるらしいけど打開策もない。ただ、気になる子と2人きり……抱えるには重すぎる情報もあるし、こうなったらいっそ全て言ってしまおうか。
それは、半分以上自棄っぱちでした。




