火を司る墓守
魔女の下僕に与する墓守の1人、ヘリオの墓地は火を司るだけあり好きな時に夕焼けが見られる。というか、マジックアワーやブルーアワーを気まぐれに迎えていた。常時真夜中が基本な墓地で空の違いを楽しめる事は気に入っていたが、今はその空のように安定しない心をどうすべきか決めあぐねている。
「──へぇ、そんな事があったんだね」
留守番をしていたヘリオの主霊であるハウオリは、ディフラの土産話に興味深げに頷く。ディフラも自分の巣穴から顔を覗かせたばかりの様で信じたい、信じても良いのかと静かに悩んでいるらしかった。
ムギーにした事は過激だったが、ああやって甘える相手がいなかったのだろう。自分の感情を全力で出せる相手が、存在するだけで大きな違いだ。
弟分達のやり取りを微笑ましく見ていたヘリオが井戸水を飲もうとして、ディフラに「……頭でも打った?」と心配された。
「井戸水は植物用。オレですら知ってるし、アンタも直接は人間が飲めたもんじゃないって言ってたろ」
そうだ。迷い込んで来たディフラを拾った時、井戸水を飲めたものではないと断定していたのにコトホギの墓地から帰ったら飲もうとしている。
記憶の混濁、矛盾があるのに気付き誰かの見ている夢と仮説できたものの。向き合い方を筆頭に、打開策はてんで浮かばない。
(井戸水が飲めたものではない……?)
いや、自分の時代では飲めた筈だ。飲めなかったのは昔の話であり、土やら虫の危険があったものが蒸留を応用した技術で安全に変わった。
目前の桶に入った水を見ると、よく見れば濁っていた。頭でも打ったかって?
「……そうかもね。少し散歩でもしてくるよ」
ヘリオは空を眺めながら、鳥を司る墓地での事を思い出しました。
柘榴の実をラズベリーにすり替えたのは保険であり、彼女が本当に齧るだなんて思いもしなかっただとか。もしかしたら彼女が──かもしれない、違っても、あの状況であんな事が出来るのは凄いなと感心する。
散歩から戻っても、相変わらずハウオリは興味深々といった様子。引っ込み思案で人見知りな主霊の、珍しい態度に「折角だから遊びに行かない?」とヘリオが提案するも首を横に振ります。
ハウオリはこの墓地で一番弱い幽霊でした。名前コンプレックスが酷かったヘリオは彼が弱いだけでなく、変わりたいという思いを持っていたのに親近感から契約をしたのです。
けれど未だ、この墓地から出れた事はありません。
偶然、他の墓守から招待状兼案内のビラが届きました。仮面舞踏会のお知らせと書かれており、仮面付きならと前向きな反応に、行ってみる事になりました。




