魔女への忠誠
「なんで貴方がその姿で、彼女が居るのか」
「言っている意味がよくわからない」
硬い表情でそんなやり取りをしていたヘリオとスケアホラー。2人はムギー達を見ると安堵したように息を吐き、難しい顔を止めました。しかし神父はハッとして「鐘が鳴ったという事は、フェリチタ。主霊契約を交わしたんですか?!」と問い詰め、フェリチタは首を傾げます。
「ええ。貴方が許可したんじゃないの?」
「してませんよ……!」
なんとムギー、知らない内に墓守見倣いとして爆誕した事が判明しました。墓守とは、魔女の下僕として墓地を守る不老不死の存在であり人間カテゴリから外された者達です。主霊と契約した者は見倣いとなりやがて墓守を引き継ぐ事になる。
主霊はサポート役の不死者で幽霊なら誰でも成り得て、契約は“魔女に目を付けられた人間が主霊と踊らなければならない”
はて、ムギーはどこで魔女に見染められたのか?神父が慌てたのも無理はありません。墓守を辞められるのは良いが、代わりに役目を押し付けてしまう羽目になるのですから。
「ど……どうして私が、こんな目に」
一方的な巻き込まれ事故。そんなつもりじゃなかったのに、気付けばなんか重要そうな役割が宛てがわれてしまい、思わず崩れ落ちるムギーとスケアホラー。ヘリオとフェリチタは魔女は気まぐれだから、と諦めた素振りをします。
「……まぁ、こうなった以上はさ、ポジティブに考えるしかないよ」
「やっぱり奇跡なんてなかったんだ……神父様の言ってた事が正しかったんだぁ……」
「今の神父はお前だろ?コトホギ」
「黙れよトロープ」
「やっぱり喧嘩しとこっかなぁ!」
大人気なく言い合う2人は、この墓地の裏にある教会で育った幼馴染でした。
スケアホラーもといコトホギは育ての親である神父様への敬愛からトンチキな一人称な事。ヘリオもといトロープは間抜けな名前の響きがコンプレックスで、軽薄そうに振る舞い元から名前を名乗らない事を暴露し合いました。
どうやら“魔女に誘われる”のは墓守になりかねないからで、既に墓守な彼等はフルネームでなければセーフと捉えているようです。
そうして和やかになるかと思えば、再び現れたディフラ。手には柘榴を持っていました。
「お前がこれを食わなきゃそこの2人を殺す……墓場の柘榴は魔女への忠誠の証と看做される。お前はそれでも食べるのか」
ムギーは、スケアホラーとフェリチタを見て、ディフラを見ました。
ヘリオは真顔になり、彼からムギーを庇うように立ち塞がります。ジリジリと近付き、呆気なく退かされますが、また立ち塞がらんとした時。
ムギーが、差し出されていた柘榴を受け取りました。丁寧に食べやすいように切られていて、赤い実が艶めいています。
「「ムギーッ!!」」
咎めるように2人が叫び、自分達は不死だから殺せない、食べたところで貴女が損をするだけだと言いますが……彼女は知っています。不死だろうが、嫌なものは嫌だと。
潔く、柘榴に齧り付きました。彼女の口元が真っ赤になったのを確認したディフラは、自分が追い詰められたような、何かに怯えた迷子のように逃げ出しました。一言「帰る」とヘリオに告げて。
それを横目にムギーに駆け寄る人質にされた2人。魔女に忠誠を誓うのはすぐに墓守になるという事と同義なので気が気ではありません。しかし……ディフラの背中を見送り、暫くしてヘリオが笑い出します。
「恋は盲目っていうけどさ、復讐擬きも盲目だね?」
なんと彼、退かされた時にどさくさで柘榴の実をラズベリーにすり替えたというのです。普段から保存食として乾燥させた実を持ち歩いていたが、今日は偶然乾燥前のも持ち合わせがあって良かったと。
3人はへらへら笑う優男に詰め寄りビシバシ叩きます。
フェリチタはすり抜けていますがボディ・アッパーと的確なコンボを狙い、ムギーは恩人ではあるものの、と怖さも相まってビシビシと胸板を。スケアホラーは無遠慮にゴッ、ゴッと鈍く重い音を響かせています。
ヘリオは「ご、ごめ、ごめんって」女性陣には優しく、幼馴染には「おいコトホギ!加減って知ってるか?」と文句を返し、起き上がり「奇跡がないなら起こせば良いんだよ」と笑い掛け「今回はごめんね」と謝り去って行きます。
コトホギは、敬愛する神父様に「奇跡などありはしない」と断言されて「奇跡はある!」と反論した事があります。ついぞ証明は出来ていなかったのですが──ヘリオが去った方向を暫し見つめ、噛み締めるような顔をして。初めて、腹から大笑いしました。
デカい図体の立派な大人が子供のように明るく無邪気に笑ったものだから、ムギーも釣られて笑い、2人は勢いで踊りだしました。
契約なんかしない、ただ意味のない踊り。しかし2人は笑顔で踊っていました。
そんな2人を遠目に、男女が会話しています。
「何故コトホギ・アイザック・ドルチェさんがあの姿で居るんだ」
「魔女が時系列を狂わせたからよ」
「これは誰が見ている夢なんだ」
「それは私にもわからないわ」
女性が目を伏せました。




