墓参りは珍道中?
とある神父と大人びた表情の子供が会話していた。
「幸せな夢の方が覚めた後に虚しいから、嫌」
「何言ってんだ。虚しくなる程、幸せだったのなら無駄ではないだろう」
子供は真偽を確かめるように、神父の顔色を窺うが彼は自信に溢れていた。この満たされた男には持たざる者の気持ちはわからない、と判断して溜め息を吐く。
「だって、所詮夢じゃない何も残らない」
「底が抜けた宝箱だと思えよ」
「ゴミじゃない」
「あー、いつかお前にもわかるよ。その宝箱の満たし方が」
ガシガシと頭を掻き、自身の言葉足らずを悔やむ気持ちを切り替えると、神父は子供の頭を撫で回す仕草をする。手はすり抜けるが、子供はされるがままでいた。言われた言葉を反復しながら、拗ねたような表情で。
─────────────────────────
木の根に躓き、勢いのままどさりと転んだ女性。彼女は亡くなった祖父が「墓地を訪ねるのは寝る子も泣き出す魔女時間が礼儀だ」と言っていたのを律儀に守った。それは良いものの、カンテラ頼りでは木の根やらで危ないと不満を溢しながら起き上がる。
首元に寄り添う星形の模様がトレードマークなヤモリのテラコッタくんと一緒でなければ怖くてとても決行できなかったろうな、と指先で彼の背を軽く撫でてから歩き出す。
時折響く鳥の羽音や風で木々の葉っぱが揺れる音に不気味さを感じながら祖父の墓を探していると、一際大きな黒い影が現れた。
声も出ずビビリ散らし尻餅をついた女性に、影もとい神父に見える男は「こんな真夜中にレディが彷徨いては危ないですよ」と穏やかに声を掛けた。
女性は彼があまりに長身・細身なので思わず「スケア……クロウ?」と呟きますが「どちらかといえば、神父はスケアホラーです」と返されました。
どうやら彼は一人称が神父なトンチキな男のようですが、女性に手を差し伸べ、立たせてくれました。
「メテオラくんが来訪者だというから見に来たら……」
そう言うと同時、彼の腕にハヤブサがとまりました。お腹の辺りに小さな星形の模様があります。偶然とはいえ自分の相棒との共通点に緊張を緩めた女性が「夜分遅くにすみません。私は」と口を開きますが「本名は口にしないように。魔女に誘われますよ」と注意されます。
今が魔女時間だから?と疑問に思いましたが、女性は頷きました。
「ムギーと言います」
咄嗟だったので本名コムギの愛称、ムギーと名乗った女性に神父はお辞儀します。
「ご丁寧にありがとうございます。神父はスケアホラー。此方はハヤブサのメテオラくんです」
「墓守も兼任していますから、ご用件を伺いましょう」
淡々と言いきった神父に呆気に取られそうになりますが、首元のテラコッタくんが軽く叩いてくれたので「こちらはテラコッタくんです」と続けられました。
「祖父のお墓を探しています。苗字はドルチェです」
スケアホラーの表情が途端に間抜けになり、一拍置いて「あのヤンチャ坊主のお孫さんが、こんなに真面目な方だとは!」と笑いながら案内を始めてくれます。
道中、様々な白いモヤの様なものが出ました。所謂幽霊達です。
先程の会話を盗み聞きしていたらしく、ムギーの祖父の武勇伝を好き放題話します。曰く、スカート捲りが趣味だったとか。夜な夜な墓地を訪れては、幽霊達に混じってどんちゃん騒ぎをしていたとか。ただ、証言する者達は皆笑顔なのが印象的でした。
ムギーの中で、優しいお祖父ちゃん像が崩れていきます。
(あのクソジジ……い、いやまだだ。罵るのはまだ早い)
葛藤していると一際大声で「来たわね、アイザックーッ!」と恨みがましい怒鳴りが響きました。現れたのは墓場に不釣り合いな純白のドレスに身を包んだ女性。幽霊達と同じく色白ですが、彼女は青白く発光もしています。
「あの時はよくも捲ってくれたわね!リビングに逝きなさい!」
かなり憤っている。どうやらスカート捲り被害者のようですが、口元は他の幽霊達同様に笑っており、ムギーを見て「あら?女の子?」と首を傾げました。
「そ、祖父がご迷惑をお掛けしたようですみません……」
「此方はムギーさんとテラコッタさんです。フェリチタ、遊び相手が来て嬉しいのはわかりますが、はしゃぎすぎないように」
注意するスケアホラーに「はいはい、仰せのままに」とテキトーに返し、ムギーに「礼儀正しい子は好きよ。顔をよく見せて」と顔を上げさせ「あまり似てないわね」と眉を下げ微笑みました。
戸惑いながらされるがままなムギーでしたが、風が吹き女性陣のスカートが捲れます。スケアホラーは顔を逸らすどころかしかと見届けていました。
「神父様がそれで良いんですか!?」
「何を仰るやら。今のは風のちょっとした祝福です」
思わず問い糺すムギーに真顔でそう言ってのけ「さぁ、此方ですよ」と歩き出す彼に思わずジト目を送りますが、フェリチタは「いつもの事よ」と呆れ顔をしました。




