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可愛らしく小首を傾げ、母はずい、と人差し指を私に突きつけた。


「あなた、今まで恋人がいる様子なんて少しもなかったじゃないの。それが突然、婚約者を連れてきて…まるで嘘みたいねぇ」


うふふ、と母は笑う。

その目は明らかに疑っている。

なんでそんな妙に鋭いんだ。


「確かに家にとって伯爵家との繋がりは欲しいものだけど、結婚には愛がないと。そう思うからこそ、今まで日乃ちゃんが乗り気でない婚約はしなかったのに。…ねぇ、あなた達、本当に恋人なのぉ?」


いつものように甘ったるく聞いてはいるが、じろじろと遠慮なく観察する視線を向けてくる。

私はその視線に対して言い訳するように、にっこりと笑った。


「…そう。私達は恋人同士だよ」


嘘だ。

恋人でもなければ友人でもない。

燈哉さんにしてみれば、私は今日初めて会ったくらいの認識しかない存在だろう。


母はまだ疑いの目を向けたまま、可愛らしく小首を傾げた。


「……ふぅーん……愛し合っているの?」


「……えっ、愛し…?」


合ってはいないな…。残念だけど。

私が一方的に燈哉さんを好きなだけであって、燈哉さんは別にそんな思い持ったこともないだろう。


でもだからってそんなこと聞く?

婚約者って言って連れてきてんだから、それで良くない?


思わず戸惑い、押し黙る私を母は『やっぱり』とでも言いたげに見つめてくる。

父だけだったら、今までの話の流れで丸め込めた筈なのに。


思わぬ刺客に『やっぱり無謀だった』と私は片手で頭を抱えた。


燈哉さんが動いたのはその時だった。


燈哉さんはふいに私の肩を引き寄せた。

トン、と肩がぶつかって私は思わず顔を上げる。


すぐ近くに好きな人の整った顔がある。

触れ合った肩が暖かくて、側にいるこの人が想像ではないと、改めて実感する。


……っていうか、いやぁぁぁぁぁぁ!

肩抱かれてる!イケメン!なんかいい匂いする!

きゃぁぁぁぁぁぁ!格好いいぃぃぃ!


「…突然伺って怪しまれるのも無理はないと思います。けれど、俺達はしっかりと愛し合っています。なぁ、日乃?」


燈哉さんは私の顔を覗き込む。


……え、待って。日乃って、日乃って……!名前呼んでもらっちゃったぁ……!!

あああ、好き!しかもノリで合わせてくれただけだけど、愛し合ってるんだって!


その言葉、聞けただけで至高…!尊い!推せる!


脳内でアイドルのファンの如く、キャーキャー騒ぎながらも、私は顔がにやけないように、唇を引き締めた。

それから、燈哉さんに頷く。


「…そうです。その通りですよね」


「いや、固いって。照れずにいつものように『燈哉、好き。愛してる』って言ってみな?」


にっこりと燈哉さんは笑う。


いやいやいや、まてまてまて。

私、そんなキャラじゃないし。

突然何を言い出した?


固まる私に、燈哉さんは肩を抱く手に力を込める。一層燈哉さんに近づいた私は、あっという間に燈哉さんに抱きしめられる形となった。


え、待ってナニコレ。

サービス過多じゃない?

鼻血出そう。


いや、落ち着け。これは演技。演技だ。

少なくとも燈哉さんにはこの嘘の婚約を続ける意志があるんだろう。

だったら、ここで怯むことはない。


言おう。よし、言う。

愛してる。愛してる。愛してる。オッケー、言える。


「……ええと…あ、あい…愛し……て、る……?」


ポ、ポンコツーーーーー!!!


え、待って。マジでか?

もっとマシな感じで言えないのか!?

あああああ…!これは終わった…。バレた。


「……ぶふっ……いや、悪い…」


燈哉さんは肩を揺らして、必死に笑いを堪えている。…いや、堪えてはないか。笑ってる。


そっちが振ってきたのに…。

頑張って合わせた結果、笑われるってどういうこと?


私が憮然としているのを見て、燈哉さんはなんとか笑いを押さえて、こっちを向いた。


「…悪い。思わず。冗談だよ」


「………いいですけど…」


どうせ演技だし。

笑ってくれるなら、それでいいけどさ。


「……俺の婚約者は照れた顔も可愛いな」


ふ、と小さく燈哉さんは笑う。


嘘だとわかってはいるのだけど。

可愛いって……!え、待って。その笑顔、ヤバ。え、好き。可愛い。推し。


思わずポーッと見惚れてしまう私を見て、母は『あらぁー』と黄色い声を上げた。


「やだ、ちゃぁんと愛し合ってるのねぇ!…なぁんだ、良かったわぁ!じゃ、賛成よ賛成!まぁー、イケメンの息子、嬉しいわぁ!」


え、愛し合ってるように見えた?

確かに抱きしめられてる状態だし、私が見惚れていたのも事実だけど。

燈哉さんはよっぽど演技派なのか?


戸惑いつつも、私は一つ咳払いをして両親に確認をした。


「…じゃ、そういうことでいいよね?変更はきかないからね?」


父は少々肩を落としつつ、母は嬉々として、頷いた。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!


本作はすでに**【全話執筆完結済み】**です! 明日からも気ままに更新していきますので、安心してお付き合いください。 もし少しでも「面白い!」「続きが気になる!」と思っていただけましたら、 画面下にある**【★】(星)**や**【作品フォロー】**を押して応援していただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!

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