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ホワイト家の超広い玄関エントランスで、俺は今、笑顔を浮かべている。
多分、この笑顔は、引きつった笑顔だろう。
目の前ではホワイト家の当主夫妻が驚いた顔でこっちを見ている。
それはそうだろう。
手塩にかけて育てたであろう愛娘が、突然結婚したい相手を連れてきた。
しかも相手は伯爵とは名ばかりの、借金まみれの騎士である。
その上、その妹までついている。
俺が親なら猛反対する。
「…というわけで、私はこちらの燈哉・アスベストさんと結婚します」
何が、『というわけ』だ。
その前の説明は、『私、婚約しました』の一言である。
あまりの突拍子の無さに、当事者ながらドン引きだ。
案の定、彼女の両親も身動き一つできずに固まっている。
俺が言うことじゃないけど、可哀想だな。
いや、本当に俺が言うことじゃないけど。
何故こんなことになったかというと、このぶっ飛んだ別嬪さんは、本日、プロポーズされたらしい。
同じ学校の先輩で、伯爵家の三男坊に。
ハロンド家の三男坊を俺は知らないが、商社の娘相手からすれば悪くない縁談の筈だ。
実際、他にも貴族の次男三男辺りから縁談を持ち込まれることもあったらしい。
どんなに大きな商社だったとしても、ホワイト一家は平民だ。
そこらの男爵や俺みたいな貧乏伯爵より、よっぽどいい暮らしをしていても、身分の上では平民は貴族より下ではある。
だからこそ、次男三男でもいいから、貴族と何らかの縁を持ちたいと思っての縁談だろう。
それなら、大人しくハロンド家の坊っちゃん、ないしは他の貴族の次男三男の誰かと、縁談を結べばいいのに。
彼女はそれらを全て断り、あの場で俺を買った。
そして、俺に『偽物の婚約者』を演じてほしいと宣ったのだ。
……いや、偽物の婚約者て何?どゆこと?
買われた身だから、拒否権はないんだけど。
「…あと一年と少しの間で構いません。卒業後は自分でどうとでもしますから。ただそれまでの間、貴方には婚約者になって貰いたい」
一年後、彼女は18歳になる。
卒業後は直ぐに成人の儀を迎え、大人と同じ立場になる。
確かにそうなれば、結婚していようがそうでなかろうが、ある程度のことは本人の努力と才能次第でどうにでもなるだろう。
でも多分、今普通に婚約したら、そのまま花嫁コース一直線だろう。
そうなったら一人立ちは難しくなる。
それを避けたい、という事だけはよくわかった。
「……婚約者っていうけどさぁ、アンタの両親は納得してるわけ?」
普通、貴族の縁談は親が組むものだ。
彼女は平民だけれど、限りなく貴族に近い環境だろう。
そうなると、当事者の一存で婚約どうこうは難しいだろう。
何の力もない子供なら特に。
「私が貴方を買ったのはついさっきですから、両親は納得どころか知りもしないですね。でも大丈夫です」
「………ん?」
大丈夫って何が?
戸惑う俺に彼女はにっこりと笑ったのだ。
「全て私がやりますから。貴方はただウンウン頷いてくれればいいですよ」
………え、イケメンじゃね?
これがお互いの性別が逆だったら。
もし俺が女だったら、思わずぽーっとなってしまうような笑顔と発言だ。
案の定、高那はほぅ、とうっとりとため息をついていた。
そして、言われた通り俺は今、ウンウン頷いている。
横では日乃-婚約者だから敬称は省くことにした-が、両親にプレゼンし始めた。
「父様も母様も貴族と縁を結びたがってたよね?燈哉さんは伯爵位も既についでるし、何も問題はない筈だよね?」
いや、問題しかないけどな。
そもそも前提がおかしいだろう。
偽の婚約者なんて聞いたことないわ。
「…いや、そうは言うけどね…その、アスベスト伯爵家はどうするんだい?まさか婿には来て貰えないだろうし…まぁ、嫁に行くのは仕方ないとしても……その、伯爵家の借金とか…」
ちらちらと日乃の父親はこっちを見ている。
借金のことも当然知ってるよな。
そりゃ、そうなるよな。
「心配入りません」
日乃はキッパリとよく通る声で言った。
「アスベスト伯爵家の借金は燈哉さんがきちんと返済します。その前に伯爵位が剥奪されても困るから、一旦我が家で支払うのは必要経費だよね?…そして、父様。これは私達ホワイト商社にとっても有益でしょ?アスベスト伯爵家の嫁となれば、私は貴族だよ。例え貧乏だろうと、貴族との繋がりが直接持てる。これ程のチャンス、逃していいと思うの?」
「……いや、うん…まぁね。チャンスではあるけどね」
「下手に貴族の次男なんかに婿に入ってもらうより、私が直接交渉した方が絶対に有利だから。アスベスト伯爵家の地位と権限、最大限活用できるのは、私!」
おぉう……圧がすげぇ…。
日乃は父親が揺れているのを見逃さない。
ここぞとばかりに食い込んでいく。
「父様、ホワイト商社は今こそ貴族間にも入り込むべきでしょ?下手に婿を取って仲介料取られるなんて愚策でしかないよ」
日乃のプレゼンは、よくあの短時間でここまでできると感心してしまう程だった。
父親はうーん、と唸りながら思案している。
そんな中で、ホワイト夫人は可愛らしく首を傾げた。
「……ねぇ、そんなことより。日乃ちゃんは、アスベスト伯爵を愛しているの?」
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