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私は今、アスベスト家近くの小さな喫茶店で出てきたコーヒーを飲んでいる。
同じテーブルには、アスベスト兄妹、そして女衒がいる。
往来のど真ん中で女衒と売買するわけにもいかないので、とりあえず近くのこの店に来た。
古びた店だけれど、コーヒーは美味しい。
私はさっき彩希と行った喫茶店で食べれなかったケーキを頼もうか迷ったけれど、注文して舐められたら困るからやめておいた。
高那さん用に注文したケーキは素朴ながらも美味しそうだ。
彩希が好みそうな感じだな、と頭の隅で思いながら、私は鞄から小切手を取り出した。
「…では、300ベルン丁度で宜しいですね?」
小切手に数字を記入する。
女衒はそれを眺め、なんともいえないため息をついた。
「いやぁ…お金さえ入ればいいけどね。お嬢さん、変わってるねぇ…」
「こちらにも事情があるもので。…どうぞ」
私は女衒に小切手を差し出した。彼はそれを受け取ると、ほくほくとした顔で頷き、席を立った。
「それじゃ、どうも。今後があるなら、どうぞご贔屓に」
あるわけない。
この女衒、私をなんだと思っているんだろう。
誰彼構わず買うような色狂いだとでも思っていそうだ。
私はその去っていく背中をじろりと睨み付けた。
そんな私を見ていた高那さんがちょいちょいと私の袖を引いた。
上目遣いでこっちを見ている。
か、可愛い!
「…あの、ありがとうございました。助けていただいて…」
どこか歯切れ悪く彼女は言う。
多分、一連の売買の流れがどこまで本気なのか図りかねているのだろう。
正直、どこまでも何も、私は本気だ。
そして、こうして女衒と取引した以上、彼ら兄妹に拒否権はない。
「助けたかどうかはわかりませんけど。私は本気です」
真顔で言い切ると、燈哉さんが口を開いた。
「…何が目的なんだ?」
警戒心を隠すこともなく、彼は私を睨んだ。
その顔もいい…!
好きな人に睨まれて喜ぶ私は多分、そこそこの変態だろう。
だが、それを顔には出さない。
出して、いや、出てはいない筈…。
ポーカーフェイスには少なからず定評がある。
「…まずは自己紹介を。私は日乃・ホワイトと申します。ホワイト商会と呼ばれる総合商社を営む夫婦の娘で、高那さんとは同じ学校に通っている五年生です」
ちらりと高那さんを見ると、彼女はこくこくと頷いていた。
「仰る通り、貴方を買ったのは勿論、目的あってのことです」
◇◇◇
目の前の彼女は、にこりと笑う。
漆黒の長い髪は後ろで一つに纏め、切れ長の瞳は吸い込まれそうな程に深い紫だ。
伏し目がちに視線を落とし、コーヒーを一口。
その何気ない仕草が、物凄く色っぽい。
妖艶な女の魅力ではなく、どことなく男性の色気を思わせる。
彼女の、女らしさと男っぽさが絶妙に混じり合うアンバランスさに、思わずため息が出た。
今度、絵に収めたい。
俺は美しい物が好きだし、そういうものを絵に描く。
有難いことに、俺の絵を買ってくれる人間もいて、俺は騎士団員でもあり画家でもある。
そうは言っても画家の方はあまり描かない上に、飛ぶようには売れないから、あまり画家としての俺は有名ではない。
それよりは騎士団員の方がまだ有名だろう。
一応、エリート集団と呼ばれている騎士団本部に勤めているから。
彼女、日乃・ホワイトは先程俺を買った。
正直、逆玉の輿ではある。
ホワイト商会といえば、知らない人の方が珍しい超有名商社だ。
売っている物、取り引きしている物も実に多種多様で、中には物ではなく、情報もある。
その情報も、誰それの浮気から始まり、国の最高機密まであるという話もある。
それが事実なら、商社の域を越えて探偵とか隠密の域ではあるのだが。
騎士団員としてはその辺り、気にはなるものの、今の俺は一個人として彼女に買われたので、そこはひとまず置いておく。
「…それで、その目的とやらは話して貰えるのか?」
俺の質問に彼女は悠然と微笑んだ。
「ええ。貴方には協力してもらわなくてはなりませんから」
年下の、それも妹とほぼ変わらないような年なのに、彼女には妙に有無を言わさない雰囲気があった。
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