22
目が覚めた時、そこは自分の部屋だった。
離れにいたはずなのに、目覚めたら自分の部屋。
でも部屋の中は私以外、誰もいなかった。
結局、また話せなかった。
ちゃんと、昇進の話を聞いて、お祝いしたかったのに。
その翌日も、やっぱり燈哉さんとはちゃんと話ができなかった。
すぐ近くに住んでいるのに、こんなにも会わないなんて、想像もしていなかった。
我が家に珍客が現れたのは、それから2日後だった。
学校から帰った私を待っていたのは、想像もしていない人物、怜史さんだった。
長い足を組んで、母と優雅に談笑している。
いや、マジで意味不明…。
なにこの貴族のお茶会モードは。
うちは平民なんだけどな!?
呆気に取られていると、怜史さんはひらひらと手を振ってきた。
我が物顔でリビングを占拠する姿に、ドン引きを通り越していっそ恐怖を感じるレベルだ。
「……何故?」
『こんにちは』も『お久しぶりです』も頭から吹き飛び、私の口から出たのは直球の疑問だった。
「アハハ。だよねー。わかる」
相変わらずのチャランポランな態度で、怜史さんは机に頬杖をつく。
よく人の家でこんなに堂々とできるな、と思わず感心してしまう。
そして母は、別にそれを注意するのでも、気を悪くするのでもなく、にこやかに私を見た。
その笑顔に、何か怪しい気配を感じる。
「日乃ちゃん、最近、燈哉くんと会えてないんでしょ?」
「え…うん…」
「そうよね!ほらぁ、きっと喜ぶわよぉ」
キャッキャと怜史さんに向かって母は笑う。
怜史さんもそれに、にこやかに頷いている。
怖い怖い怖い!
なにその連携感!
絶対にろくでもない話だと思う。
「日乃ちゃん、まぁそう警戒しないで。…燈哉、昇進したの知ってる?」
やっぱり昇進したんだ。
薄々感じていたけれど、怜史さんにはっきり言われて、なんだか惨めな気分になった。
皆知っていて、直接言われた人ばっかりなんだろうに。
立場だけでも婚約者の私だけが、本人の口からじゃなく、他人から聞く。
しょんぼりしながらも、私は頷いた。
「なんで悲しそうなの?……まさか燈哉、まだ言ってないの?」
「その…色々タイミングが合わなくて…」
「え?そんなの一分あれば報告できるよね?」
鬼畜…!
その通りだけど、そんな事言わなくても…。
切れ味の鋭過ぎるナイフに傷つきつつも、私は怜史さんを睨んだ。
「なんなんですか?さっきから。人の事を笑いに来たんですか?騎士団ってそんなに暇なんですか?」
ジロリと怜史さんを睨むと、怜史さんはアハハと笑う。
やっぱり笑いに来たのかな、この人は。
「ごめんごめん。面白くてつい」
私は全く面白くないけど。
ムッとしたままでいると、目の前に一通の封筒が差出された。
「……なんですか?」
「招待状だよ、プリンセス」
そのキザったらしい仕草が似合うのが、また腹立たしい。
ひったくるように封筒を取って、表と裏を見る。
表には『invitation』の金箔が押されていて、裏には何も書いていない。
その代わり、綺麗な赤の封蠟がしてあった。
「…………非常に、大変、めちゃくちゃ開けたくないのですが…?」
「うんうん、分かる。その直感、絶対合ってるよ」
否定してほしいのに…。
怜史さんは私から封筒を奪い取ると、簡単に封を開けて、中身を取り出した。
それを目の前に突きつける。
「おめでとう。騎士団、引いては王宮主催の昇進祝賀パーティーへの招待状だよ」
騎士団…。王宮…。
いや、規模。
デカすぎじゃん…。
くらり、と目眩がしそうだ。
「きゃー!素敵!いいわねぇ、日乃ちゃん!楽しみねぇぇ!」
全然楽しみじゃない。
寧ろ行きたくない。なんでそんな嬉々として居られるのかわからない。
私達家族は平民だよ?
貴族じゃないのに…。
なんでそんな所に呼ばれなきゃいけないんだ…。
「なんで…どうして私の所に来たんですか…?」
「アハハー。同じ同僚の好意じゃん。燈哉、これ出るんだよ?新進気鋭の、最速で副団長まで上り詰めた男だよ?貴族のお嬢様方がわらわら群がってきちゃうよ?」
怜史さんはそこで私を見てにっこりと笑った。
「牽制、したいでしょ?」
あ、あああー…。悪魔だ。
この見た目だけは優しそうな悪魔は、私に意地悪く微笑んでいた。
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