15
母の監禁宣言は冗談ではなかった。
当然、車も運転手も、私の言うことは聞かない。
ならばと、歩いて行こうにも、外にはホワイト商会お抱えの警備員が居て出れない。
それなら魔法で、と思った私を既に見透かしていたのか、母はまた私に、魔力封じの腕輪をつけた。
え、マジで、また…?
カチン、と嵌った腕輪を呆然として見つめると、母はニッコリと笑った。
「母様だって、つけたいわけじゃないのよぉ?でも、日乃ちゃん、魔法があるとまた無理するでしょぉ?また怪我したら困るじゃなぁい」
「……おかしくない?」
「どうしてぇ?心配してるのよぉ?…あ、これはちゃんと正規ルートの腕輪だから、心配要らないわよぉ」
にこにこと笑う母が、こんなに恐ろしいと思ったことはない。
そこには、純粋な愛しかない。
でもそれが、こんなに暴力的になることを、私は知らなかった。
「こんなの、おかしい…」
まるで、飼い犬だ。
可愛くて、愛しくて、安全の為に首輪で繋ぐ。
でもそれは、私の望みじゃない。
「私、学校行きたいんだけど…」
「ダメよぉ。だって、また誘拐されたら困るもの」
「もうされないよ」
あのクズは捕まった。
母の懸念は晴れる筈なのに。
「……そんなの、わからないじゃない」
ぽつりと、母は呟くように言う。
それから、せきを切ったようにまくしたてた。
「どうして、言う事を聞かないの!?あなたのためを思って言ってるのよ!?あなたがいなくなった時、私達がどんなに心配したかわからないの!?もうあんな思いは沢山よ!お願いだから!家にいてちょうだい!」
発狂するように母は髪を振り乱す。
いつものほほんと笑っている母が見せた初めての顔に、私は何も言えなかった。
衝撃に、思わず一歩後ずさる。
「ここにいればいいの。ここは安全だから。母様と父様が、あなたを絶対に守ってあげるから」
縋るように伸びてきた手が、腕に触れる。
今までは暖かくて優しかったその手が、急に穢らわしいものに見えて、私はその手を振り払った。
「………日乃ちゃん…」
悲しそうに母は名前を呼ぶ。
これ以上一緒に居たくなくて、私は母に背を向けて、二階に駆け戻った。
夕方になって、父が帰ってきた。
母の暴走を止めてくれる。そう思っていたのに。
父はさも当然のように頷いた。
「そうだよ。退学の手続きはこっちでするから。日乃は何も考えず、ゆっくり休みなさい」
ポン、と肩を叩かれて、目を見開く。
父と母は、別人にでもなったのかと思う。
でもそこには、私を心配する優しい両親がいるだけだ。
その優しさ故の暴走に、私の意思は必要ない。そう理解した時、私は恐怖で、声も出なかった。
両親はその態度が、納得したように見えたらしい。
優しく、夕飯に誘ってきたけれど、私は首を横に振った。
何も言わず、二階へと引き返す私を、両親は心配そうに、でも呆れた様子で、見送った。
その晩、ベットに横になり、一人考える。
私の望む未来。それはこれじゃない。
それを、どうしたら両親に分かってもらえるのか、どう話したらいいのか、考えても考えても、妙案は浮かばなかった。
その日から3日。
私はなんとか両親を説得しようと思ったけれど、両親の意見は変わらなかった。
因みにその間、燈哉さんと、高那さんと、珍しく1日だけだけど、彩希も来てくれて、一緒に説得しようとしてくれたけれど、両親の『家族の事だから』という一言に、引き下げざるを得なかった。
まさかの実家で監禁された私は、4日目の夜、窓枠に足をかけていた。
飛び降りも二度目ともなれば、肝が座る。
私の部屋は二階だし、窓の近くには大きな木もある。
多分、そこに向かって飛べば、大怪我はしない筈。
二度目だし、前回より低い位置だからか、恐怖で身体が動かないなんてことはなかった。
飛ぼう。そう思った瞬間に、手足は窓枠から離れたし、意識も失わず、多少のすり傷はできたものの、大怪我もせず、私は木の枝に着地した。
まぁ着地というよりは、引っかかった、という方が正しいかもしれないけれど。
ズリズリと、格好悪く枝を青虫のように移動して、そこから塀に飛び移る。
そこからジャンプして、私は漸く、家を抜け出した。
目指す場所はわからない。
それでも私は私の自由の為に、真っ暗な中を走り出した。
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