14
私が自分の家に戻ってきたのは、4日後だった。
朝普通に出て行った娘が、4日後に帰宅したら、それはもう上から下まで大騒ぎだ。
両親は泣きながら私を出迎えてくれた。
私もそれは嬉しかったし、ちゃんと無事に帰ってこれて、本当に良かったと思っている。
思っているけれど。
これはない。
『日乃ちゃん、おかえりなさい』
デカデカと飾られた横断幕。
これでもかという量の食事。
色とりどりの花と風船が飾り付けられた庭。
おまけに沢山の人人人…。
え、お祭りなの?なんで?
感動の再会ってもっとこう…しんみりした感じじゃないの?
なんでパーティー!?
薄々思ってたけど、私の両親、おかしくないか!?
「さ、二人とも着替えてらっしゃい」
にっこりと母様は笑う。
いや待って?確かになんか皆綺麗な服着てるしね?ほら、あの人なんかドレスだし?
うん、華やかな雰囲気なのはわかる。わかるんだけどね?
「……なんで?」
「?だって、おかえりなさいパーティーだもの。着飾って当たり前でしょぉ?」
「いや、そうじゃなくて。なんでパーティーしてるの?」
前提がおかしい。
おかえりなさい。喜ばしい。さぁ、パーティーだ。とはならなくない?
しかも拉致監禁されて帰ってきてるのに?
留学から帰ってきたとかじゃないんだけど…?
「だぁって、無事に帰ってきたんだもの!皆でお祝いして、また楽しい生活が始まりますよってお祝いしたいじゃない!」
「えぇぇー……」
なにその思考…。
ちょっと常人には理解できない考えにドン引いていると、横に立っていた燈哉さんが肩を震わせ始めた。
いや、笑ってる場合じゃないんだけど…。
「燈哉さん?」
「いや、悪い……つい……」
あらぬ方向を向いて苦しそうに燈哉さんは口元を押さえている。
大爆笑したいのを必死に留めているようにしか見えなかった。
「あら、燈哉くんまで!」
ぷぅ、と母は頬を膨らませる。
四十すぎのマダムにしては可愛すぎる仕草なのだけれど、それが似合うのが怖いところだ。
「すみません。…でも、日乃も疲れていますし、皆さんだけで楽しんでもらえると有り難いんですが」
自然な動きで燈哉さんは私を引き寄せる。
なんていうか……近い。
事件の後、お姫様抱っこで運ばれた時から、今まで以上にスキンシップが増えた気がする。
演技で触れるには多すぎる気がする。
キスもそれ以上もないけれど、手を繋いだり、抱き寄せられたり、髪を撫でられたりなんかは、一日に数回ある。
騎士団の人もいたし、演技の延長かと思っていたのだけど、家に帰ってきても、もっと言うなら帰りの車の中でも、燈哉さんは私にくっついて離れなかった。
いや、嬉しい。
嬉しいには嬉しいけど。
緊張するし、恥ずかしい。
特にこんな人が沢山いる所では、特に。
「あら…。まぁ…そうよね…。わかったわ、今日は二人ともお休みしましょ。また機会はいくらでもあるものね」
いや、そんな何回もおかえりパーティーしないけどね?そんな何度も誘拐されたくない。
「そうですね。今度は別のパーティーで参加しますから」
燈哉さんは苦笑しつつ、肩に回していた手を動かして私の手を握る。
「じゃ、母屋まで送っていきますね」
「はぁい。いってらっしゃぁーい」
ふりふりと可愛らしく手を振って母は別の相手の元へと歩き出した。
私は燈哉さんに連れられて、しっかり母屋の自室まで送られた。
私は、一人部屋に戻ってきて漸く、帰ってきた実感を噛み締めていた。
そして、次の日。
いつものように時間ギリギリに起きて、学校の支度をする所で、はたと気づく。
制服、ない。
あの家に置いてきたし、なんならあの家、全焼した。
新聞の写真でチラリと見たけど、完全なる焼土、何もなかった。
騎士団で聞いた所によると、私だけでなく、燈哉さんも燃やしたらしい。
私は燈哉さんは風魔法しか使えないと思っていたから、驚いたけれど、騎士団の団員さんは燈哉さんの火魔法を当然知っていて、且つ、やりすぎだったと、皆言っていた。
見てないからわからないけれど、相当火力が強かったらしい。
因みに、その火災は、正当防衛で押し通すと、騎士団の団長さんが引き受けてくれたそうだ。
取り敢えず、夏服を着るしかない。
最近は暖かい日も増えたし、少し肌寒いけれど、大丈夫と言い聞かせて着替えを済ます。
それから、下に降りていった私に、母はキョトンとした顔を見せた。
「日乃ちゃん、どうして制服なんて着てるのぉ?」
「あ、夏服のこと?制服燃えちゃったから取り敢えず。今日、新しいの買ってくるね」
「何言ってるのぉ?そんなの、要らないわよぉ」
「…………ん?」
どういうこと?新しいのがあるってこと?
母の言っている意味がわからず、首を傾げると母も不思議そうに私を見つめた。
「日乃ちゃん、学校はもう行かないのよぉ?」
「……………は?」
え、どういうこと?
今日は学校のある日だけど?
行かないって何?
にこにこと母は笑っている。
そのさも当然といった態度に、狂気すら感じる。
「もう決まったことなの。日乃ちゃんはもう家から出ないで、花嫁修業しましょうね?」
母の中では、もう決定しているらしい。
にこにこと笑って、二階を指差した。
「もうこの家から、二度と出ないでね?母様、心配で堪らないの」
にっこりと、母は言う。
その目が1ミリも笑っていなくて、その狂気に、私は背筋が寒くなるのを感じた。
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