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第9話 二週間訓練の成果

 辺境伯からの支援を勝ち取ってからの四日間は、ゼスト本人が指導することができた。


 そして、二週間にわたる訓練を終えた現在。

 銀鍵同盟の四人はその成果を確かめるため、再び東の森に来ていた。


 出現する魔物は主にゴブリンや小型の獣。

 実力を測るには、ちょうどいい場所だった。


「俺は戦闘には参加しない。とはいえ、回復役は必要だからな」


 ゼストは軽く手を上げた。

 その手のひらに、淡い光が灯る。


 光属性の回復魔法――癒光(ヒール)


 魔法系統としては基本中の基本だが、ゼストにとっては光属性は一番の苦手分野だった。


「一応、初級の癒光(ヒール)は使えるが、欠損部位の接合とかは俺には無理だ。あんま当てにすんなよ」


 ゼストは苦笑する。


「でも、癒光(ヒール)があるだけでも助かるよ」


 レスターが穏やかに言った。


「そういえば、チーム・レスター時代は回復ってどうしてたんだ?」


 それは、ゼストがかねてからうっすらと気になっていたことだった。

 勇者パーティに回復役は必須。

 それが不在の銀鍵同盟は珍しいどころではなく、およそパーティとして成立していなかった。


 少し三人の表情が曇る。

 重い口をカレンが開いた。


「回復役はいた……けど、今シーズンが始まる直前、アイツはDランクパーティに引き抜かれた」


 引き抜きや個人昇格……職業勇者をやっていれば珍しいものではない。

 このように遺恨を残すパターンも往々にしてある。


「そいつがやめてからの半年間はどうしてたんだ?」

「……低級ポーションでやりくりしてた」


 ゼストは眉を寄せた。


「あれ、副作用きついだろ」


 低級ポーションは回復量が少なく、連続使用すれば吐き気や倦怠感といった副作用も出る。

 ゼストの感覚では、できれば使いたくない代物だった。


「背に腹はかえられぬってやつだよね……あはは」


 ヴァニラは困ったように笑った。


「――ま、まあとにかく!」


 自分が作ってしまった気まずい空気を打ち破るがごとく、ゼストはテンションを上げる。


「今日は自分たちの力で勝つんだ! もちろん、自爆じゃない方法でな?」

「だ、大丈夫だよっ! いっぱい訓練したし!」


 ヴァニラの反応に、ゼストは笑って頷く。


 銀の鍵のエンブレムが縫われたバックパックが、朝の光を受けて揺れた。


 ☆ ☆ ☆


 森の奥へ進んでしばらく。

 思ったより早く最初の敵――ゴブリン集団が現れた。


 先頭にいるのは、他の個体より一回り大きいゴブリン隊長(リーダー)――40SP。

 粗末ながらも金属片をつなぎ合わせた胸当てを身につけ、短剣ではなく錆びた曲刀を持っている。


 その両脇には、棍棒と木盾を持つゴブリン戦士(ソルジャー)が二体――各20SP。


 さらに後方に、通常のゴブリンが三体――各10SP。


 Fランク下位パーティにとっては、決して軽い相手ではない。

 以前のチーム・レスターなら、間違いなく判断が遅れ、その間にゴブリンが散らばり、戦況が崩れていたはずだ。


 だが、今日は違った。


「レスターは雑魚三体を止めて、ヴァニラは戦士(ソルジャー)二体を牽制。隊長(リーダー)は私が倒す」

「任せて」

「了解っ!」


 カレンの要求に、レスターは即座に前へ出る。

 ヴァニラが杖を構えたのを確認すると、カレンは一歩踏み出した。


 今の銀鍵同盟(かれら)に迷いはない。

 ゼストは後方で腕を組み、静かに見守る。


 ――直後、ゴブリン隊長(リーダー)が甲高い声を上げた。

 それを合図に、集団が動く。


 通常のゴブリン三体が、左右に散って回り込もうとした。


 だが、レスターが先に動いていた。

 象牙色の大盾を構え、三体の進路を塞ぐ位置へ入る。


「ここは通さないよ――誘陣(プロヴォーグ)


 誘陣(プロヴォーグ)

 『自分が最も攻撃しやすい位置にいる』と敵に錯覚させ、自身に惹きつける魔法だ。


 この魔法の使用者には、敵の視界・進路・攻撃射線の中心に常に立つという高度なポジショニング技術を求められるが、レスターはゼストの予想を超える速さで、それをものにしつつあった。


 一体目のゴブリンが棍棒を振り上げる。


 レスターは衝撃を正面から受け止めず、盾を滑らせてわずかに斜めへ逃がした。

 それを囮にして二体目と三体目が連撃を打ち込もうとするも、巧みにいなしていく。


 一方、ゴブリン戦士(ソルジャー)二体はカレンと戦うゴブリン隊長(リーダー)の援護に入ろうとしていた。

 だが、その足元に火炎(フレイム)が弾ける。


「行かせないっ!」


 ヴァニラは杖を敵に向けながら、落ち着いて狙い定めている。

 火力は抑えているため殺傷能力は低いが、牽制には十分だった。


 ゴブリン戦士(ソルジャー)たちは驚いて足を止める。

 すぐに一体が怒って突進しようとした。


「――爆火炎(バースト)!」


 今度は中火力の火球を繰り出すヴァニラ。

 三秒以内というゼストが課した基準に、ギリギリではあるが間に合っている。


 爆火炎(バースト)はゴブリン戦士(ソルジャー)の盾に直撃し、相手の身体を後ろへ押し戻した。


 そして、カレン。

 彼女の目の前に立つゴブリン隊長(リーダー)は曲刀を構え、低く唸る。

 通常のゴブリンより体格がよく、動きも速い。


 しかし、カレンは踏み込みを急がない。


「――来なよ」


 カレンは剣先をわずかに下げて相手を誘う。


 ゴブリン隊長(リーダー)が踏み込み、錆びた曲刀が横薙ぎに走る。


 カレンは半歩引いて躱し、相手の手首を見る。

 訓練で何度も見た急所の位置が、彼女の頭の中に浮かんだ。


 剣を振るうと、刃がゴブリン隊長(リーダー)の手首を深く裂いた。


『ギャッ!』


 握っていることもままならず、ゴブリン隊長(リーダー)の手から曲刀が地面に落ちる。


 カレンは止まらない。

 次に膝。隊長(リーダー)の体勢が崩れる。


 最後に首元へ長剣が迷いなく走る。

 ゴブリン隊長(リーダー)から勢いよく血が吹き出し、直後に絶命した。


 自分たちの隊長(リーダー)が真っ先に倒れたことで、残りのゴブリンたちに動揺が走る。


 カレンは隊長(リーダー)を倒した勢いのまま、ゴブリン戦士(ソルジャー)の方へ迫った。


「ヴァニラ、そっちのヤツ焼き殺して!」

「はいっ! ――灼火炎(ブレイズ)!」


 ヴァニラの高密度の火球が、ゴブリン戦士(ソルジャー)の方へ飛翔する。

 ゴブリン戦士(ソルジャー)は手で振り払ったが、小さな見た目に反する超火力によって、あっけなく焼失した。

「――ガラ空き!」


 カレンは駆け引きせず、残ったゴブリン戦士(ソルジャー)を袈裟斬りで強引に倒した。


「ヴァニラ! 囲んでくれ!」

「うんっ! 群火炎(レギオン・フレイム)!」


 レスターが引き付けていたゴブリン三体の後方に、火球が着弾して炎が広がる。


 完全に逃げ道を塞がれたゴブリンたちの動きが鈍る。

 躊躇によって生まれた隙を突き、レスターとカレンが一体ずつ斬り伏せた。


『キジャッ!』


 最後の一体が仲間を犠牲に逃げようと背を向ける。


「逃がすか――カレン、とどめを!」

「うん!」


 レスターに脚を掴まれて倒れたゴブリンの背に、カレンは思い切り剣を刺した。


 静けさを取り戻した森に、三人の荒い息遣いだけが残る。


「はぁ、はぁ……勝った……んだよね」

「うん……僕たちの勝利だ」


 ヴァニラが呆然と呟き、レスターは盾を下ろして大きく息を吐いた。


 カレンは剣についた血を払いながら、自分の手を見る。


 ――震えている。


 恐怖でも興奮でもない、今までとは違う手応え。

 自分たちが何をすべきか分かる――そんな感覚が確かにあった。


「ねえ、ゼスト」


 椿色のサイドテールを揺らしながら、カレンが振り返る。


「今の、どうだった?」


 その声には、少しだけ期待が混じっていた。


 ゼストは腕を組んだまま、三人を見る。


 厳しく言おうと思えば、いくらでも言えるが……そんな言葉、今は必要ない。


 ゼストは小さく笑う。


「――上出来だ!」


 グッドサインを掲げるゼストを見て、三人の顔がぱっと明るくなった。


 ゼストは三人の前へ歩いていく。


「今日の戦いで分かっただろ? お前ら、ちゃんと強くなってる」


 その言葉は、二週間の訓練の何よりの報酬だった。


 ヴァニラは嬉しそうに杖を抱きしめ、レスターは静かに頷いた。


「……まあ、当然よ。あれだけやったんだから」

「だな! あははっ」


 照れ隠しのように顔を逸らすカレンの反応に、ゼストは笑った。


 誰かに勝たせてもらったわけでもない。

 地味で退屈な積み重ねが、初めて実戦で形になった。


「――よし! 今日はもう少し狩るぞ!」


 この二年間で失い続けた自信を、三人は少しだけ取り戻した。

 しかし、同時にゼストも、今までにない新たな感覚を得ていた。


 ――これがパーティで戦うってことか……面白くなってきた!


 東の森の木々の間を、風が抜ける。


 銀鍵同盟は、次の獲物を探して森の奥へ進んでいった。

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