第3話 先が思いやられるFランパーティ
「ああは見栄を切ってみたものの……」
マクスウェル辺境伯領ルカリス。
その東側に広がる森の中で、ゼスト・マクシムは深々とため息をついた。
王都ハイデンダルクを出発してから、約半年。
船を乗り継いでようやく辿り着いた辺境の地で、ゼストは第77支部所属のFランクパーティと合流した。
その名も『チーム・レスター』。
メンバーは三人。
大盾を持つリーダー、レスター・セニール。
長剣を振るう前衛、カレン・リードマン。
背丈ほどの杖を握る魔法使い、ヴァニラ・イェスタ。
そして現在、彼らは、東の森でゴブリン討伐依頼の真っ最中だった。
「おーい、赤髪サイドテール! 大丈夫かー?」
「うっさいっての! はあ、はあ……なんかこいつタフなんだけど!?」
カレンが長剣を振るいながら叫ぶ。
相手は一匹のゴブリン。
背丈は子どもほどしかなく、手には粗末な棍棒を持っている。
Fランクの討伐対象としては、典型中の典型。落ち着いて対処すれば十分倒せる相手だが、カレンの剣は決定打になっていなかった。
肩、腕を斬り、脇腹を浅く裂く。しかし、そのどれもが急所には届いていない。
結果として、ゴブリンは無駄にしぶとく暴れ続けていた。
「ごめん! ヴァニラ、一匹そっちに行った!」
今度はレスターの声が飛んだ。
レスターはいわゆるタンク役である。
本来なら、敵の注意を引きつけ、味方に攻撃を通させないことが役割だ。
だが、今の彼は明らかに振り回されていた。
敵を受け止めることばかり意識していて、進路を塞げていない。
結果、ゴブリンの一匹がレスターの横をすり抜け、後衛のヴァニラへ向かってしまった。
「わぁ!? こっち来ないで〜!」
ヴァニラが情けない声を上げる。
蘭色の髪を揺らしながら、彼女は杖をぶんぶん振り回した。
魔法使いが杖を振り回すときは、大抵ろくなことにならない。
ゼストは嫌な予感を覚えた。
「落ち着け! 火力を絞れ!」
「え、えっと、えっと、火、火、火よっ!」
ヴァニラの杖先に、赤い魔力が集まる。
——いや、集まりすぎている。
ゴブリン一匹に向けるには、明らかに過剰な火力。
「待て、撃つな!」
次の瞬間、森の一角が爆ぜた。
爆炎が広がり、衝撃波が木々を揺らす。
ゴブリンは吹き飛んだが、ついでにゼストを含めた四人もまとめて爆風に巻き込まれた。
「ごふっ……!」
ゼストは背中から地面に叩きつけられた。
舞い上がった土煙の中、焦げた草の匂いが鼻をつく。
——耳鳴りがする。
ゴブリン討伐依頼で味方の魔法に巻き込まれるなど、黒之剣にいた頃には考えられなかった。
ゼストは仰向けのまま、空を見上げる。
木々の隙間から、辺境の青空が見えた。
「……こりゃ、先が思いやられる」
☆ ☆ ☆
数時間後。
勇者協会第77支部。ルカリスの街の中央通りに面した二階建ての建物である。
受付窓口が三つ。依頼掲示板が一枚。奥に事務室。
本部に比べると実に簡素だが、辺境の勇者たちにとっては重要な拠点だ。
「審判員として同行しましたが、ああいった倒し方は初めて目の当たりにしました」
受付窓口の向こうで、メイが淡々と言った。
討伐依頼では、依頼達成を客観的に判断するため、協会から審判員が派遣される。
今回のゴブリン討伐では、メイがその役割を担っていた。
彼女の服装を見れば、爆発に多少巻き込まれたことは一目瞭然。
きっちり整えられていたはずの制服は、ところどころ煤で汚れている。
「自爆魔法って言うんですかね、あれ」
「ご迷惑をおかけして申し訳ないです……」
レスターが深々と頭を下げる。
「その……怒ってますよね?」
「怒ってません」
メイは無表情で返した。
「怒ってんじゃん」
カレンが小声で突っ込む。
「怒ってません!」
だんっ、と大きな音が響く。
メイが任務達成を示す判を、依頼書に力強く押した音だった。
その勢いに、ヴァニラが「ひゃっ」と小さく声を上げる。
怒っている。どう見ても怒っている。
メイは依頼書を持って窓口の奥へ引っ込むと、しばらくして戻ってきた。
「ちょうど週終わりなので、SPとランキングが更新されていると思います。確認しておいてください」
差し出された報酬・銀貨3枚をレスターが受け取る。
ゼストたちは支部の壁に貼られたランキング表へ向かった。
そこには、順位、パーティ名、SPがずらりと書かれている。
ゼストは癖で上位から見始めたが、その瞬間ぐいっと袖を引っ張られる。
「ちょっと、そんなとこにあるわけないじゃん」
カレンは不機嫌そうにゼストを引っ張り、ランキング表の下位の方へ連れていく。
ゼストの眉間に、じわじわと皺が寄っていった。
「ありました!」
ヴァニラが明るい声を上げる。
『Fランク6,999位 チーム・レスター 963SP』
「やった! 初の六千位台ですよ!」
「喜んでいる場合か?」
ゼストは即座に言った。
「Fランクは総勢7,666パーティ。こんなもん、最下位と大して変わんねーじゃねーか!」
レスターが苦笑いを浮かべ、ヴァニラが「あう」と肩を落とす。
カレンのこめかみがぴくりと動いた。
「言ってくれるわね……私たちがここまで来るのにどれだけの――」
「――まあまあまあ、落ち着いて」
レスターが慌てて間に入る。
「喧嘩する前に、まずは腹ごしらえと行こうじゃないか」




