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第18話 結果発表

 昨日は公衆浴場で汗と汚れを落とし、しっかり飯を食い、宿に戻ってから泥のように眠った。


 そして今日。


 銀鍵同盟の四人は、昼過ぎになってようやく支部へ顔を出していた。

 四人とも、顔色はかなり戻っている。


「……なんか、久しぶりにまともに寝た気がするわ」


 カレンが肩を回しながら言う。


「僕も。起きたら昼だったのは少し驚いたけど」


 レスターが苦笑する。


 受付に向かう途中で、四人は支部全体が少しざわついているのを感じた。

 他の勇者たちも、ちらちらと銀鍵同盟の方を見ていた。


 それも当然だろう。

 オーク族長(ヘッド)討伐遠征と、そこから帰還した銀鍵同盟。

 そして昨日、支部に先行して届いた討伐確認の報告。


 正式な処理はまだでも、噂はすでに広がり始めていた。


「銀鍵同盟の皆さん、もうランキングは見られましたか?」


 メイの問いかけにレスターが首を横に振った。


「いえ、まだですが……」

「そうですか」


 メイは一度、手元の書類を確認した。

 それから、なぜか少しだけ目を伏せる。


「では……すみません! よろしくお願いします!」


 突然、メイが隣の扉の方へ声をかけた。


「え?」


 カレンが眉をひそめる。


 次の瞬間――受付奥の扉から、見たことのない男が現れた。


 小柄なおじさんだった。

 年齢は四十代くらいだろうか。

 妙に存在感のあるツイストパーマと濃い眉。

 服装は勇者協会職員のものではあるが、どう見ても受付担当ではない。


 そのおじさんは、ゆっくりと窓口の横に立った。


 メイは無言で、封筒を差し出す。

 おじさんはそれを受け取った。


 ゼストは思わず呟く。


「……誰?」

「私が聞きたいわよ」


 カレンも小声で返す。


 おじさんは封筒を掲げ、支部内を見回した。

 その場にいた他の勇者たちも、何事かと視線を向ける。

 そして、おじさんは息を吸った。


「――いきましょう」


 声が、やたら通った。


「Fランク・銀鍵同盟は昇格か、現状維持か、それとも降格か!」

「いや降格はないだろ」


 ゼストが反射的に突っ込む。

 だが、おじさんは止まらない。


「勇者協会の査定はッ!」


 妙な間。

 なぜか、支部内に緊張感が走る。


「ゴクリ……」


 誰かが本当に喉を鳴らした。


 別のパーティの青年が、固唾を飲んで見守っている。

 受付待ちの勇者まで、掲示板から目を離してこちらを見ていた。

 銀鍵同盟の四人も、流れに飲まれて黙ってしまう。


 おじさんは封筒を開けて、中の書類に目を落とす。

 そして、勢いよくそれを掲げた。


「――Dランク昇格ゥーーッッ!」


 がなり声が、第77支部に響き渡った。


 一瞬の静寂のあと、支部内がざわついた。


『Dランク!?』

『銀鍵同盟って、こないだまでFランクだったよな?』


 周囲の勇者たちが騒ぎ始める。

 当の銀鍵同盟の四人も、完全に固まっていた。


 レスターが、ようやく声を出す。


「Eランクどころか、飛び級!?」


 ヴァニラは目を丸くしたまま、ゼストを見る。


「やっぱり、ゼストくんの稼いだSPが凄かったのかな!」


 カレンも、少し遅れて息を吐いた。


「……十中八九そうね」

「いやまあ、緊急事態だったしな」


 ゼストは頭をかく。


「俺がやった分も入るなら、そりゃ跳ねるか」


 メイはいつもの調子に戻り、手元の書類を四人に示した。


「今回の討伐内訳です」


 そこには、遠征中に確認された討伐数とSPが記載されていた。


 オーク族長(ヘッド)、2体――640SP。

 オーク隊長(リーダー)、11体――1,760SP。

 オーク戦士(ソルジャー)、34体――2,720SP。

 通常オーク、110体――4,400SP。

 討伐数合計、157体――9,520SP。


「九千……」

 ヴァニラの声が震える。


「これらが、元々の4,083SPに合算されます」


 彼女は次の書類を示した。


『Dランク1,600位 銀鍵同盟 13,603SP』


 Dランクの目安は14,000SPだが、シーズン中盤の今は下位ラインが13,000SP前後まで下がっているらしい。

 その結果、Dランク全1,916パーティ中、銀鍵同盟は1,600位まで浮上していた。


「一気にDランク下位に食い込んだな」


 ゼストが言う。


 カレンはランキング表から目を離せないまま言った。


「正直、実感ないわね……ほとんどゼストのおかげって言っても過言じゃないし」


 その言葉に、レスターとヴァニラも少しだけ表情を曇らせた。

 昇格は嬉しい。

 だが、Dランクという結果があまりにも大きすぎて、自分たちの実力として受け止めきれない。


 そんな空気を察したように、メイが静かに口を開いた。


「出発前にも言いましたが、今回の任務はDランク下位相当です」


 三人がメイを見る。


「あなたたちは、オーク族長(ヘッド)クラスを自分たちの力で倒しました」


 メイの声は、いつも通り淡々としていた。

 けれど、そこには確かな重みがあった。


「たとえゼストさんが追加分のSPを稼がなかったとしても、Dランク昇格は時間の問題だったでしょう」

「でも……」


 カレンが何かを言いかける。

 その前に、メイがカレンの手元にそっと手を添えた。


「実力は本物なんですから、自信を持ってください」


 カレンは目を見開いた。


 メイがこんなふうに、受付職員としての距離を少し越えて言葉をくれるのは珍しい。

 だからこそ、その言葉は妙に胸に入ってきた。


「……はい。ありがとうございます」


 その横で、仕事を終えたおじさんが、すたすたと立ち去ろうとしていた。


「ちょっと待って」


 カレンが思わず声をかけるも、おじさんは振り返らない。

 ただ片手だけを軽く上げて、そのまま受付奥へ消えていった。


 残された四人は、しばらく扉を見つめる。

 カレンが、ぽつりと言った。


「ていうか、今の演出はなに? あのおじさんは誰なの……?」


 メイは目を伏せた。


「すみません……上からの指示で『やれ』と」

「どういう指示だよ……」


 ゼストは半目になる。


 ヴァニラは楽しそうに笑った。


「あははっ、面白かったからまた見たいけどなー!」

「マジで?」


 ゼストが驚いたように見る。


「うん! なんかドキドキした!」

「なら、また次の昇格まで頑張らないとだね」


 レスターが苦笑しながら言った。


 なにはともあれ。

 銀鍵同盟は、数か月前倒しでDランク昇格を果たした。


 その結果を受けて、ゼストの頭にはまず報告すべき相手が浮かぶ。


「俺はこれから、マクスウェル辺境伯に挨拶してくる」


 辺境伯とのスポンサー契約。

 銀鍵同盟に毎月銀貨百枚を支援しているエイド・マクスウェルにとっても、今回の昇格は大きなニュースになる。


 カレンが腕を組む。


「じゃあ、一旦解散?」

「だな。夜に酒場で集まろう。今日は昇格祝いだ」


 ヴァニラの顔がぱあっと明るくなる。


「お祝い……またお肉あるかな!」


 その様子に、レスターが微笑む。

 カレンも、今度は素直に頷いた。


「遠征明けだし、ちゃんと食べたいわ」

「決まりだな」


 ゼストはロッドを肩に担ぐ。


「じゃ、夜に集合。遅れるなよ?」

「それ、ゼストにだけは言われたくないんだけど」

「俺、最近はちゃんとしてるだろ」

「寝坊して訓練に遅刻した人がよく言うわ……」


 軽口を交わしながら、四人は支部を出る準備をする。

 その背中に、他の勇者たちの視線が集まっていた。


 羨望。驚き。疑念。興味。

 それらが混じった視線。


 だが、もう以前のような嘲笑ではない。


 SランクNo.1から転落した男に拾われたFランクパーティ。

 そう見られていた彼らは、いまやDランクへ飛び級昇格した注目株になった。


 ゼストは支部の扉を押し開けながら、少しだけ笑う。


 銀鍵同盟の再出発は、確かに次の段階へ進んでいた。

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