表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/84

第13話 オーク族長討伐遠征②

 遠征二日目の昼。

 銀鍵同盟の四人は、目的地である荒れた丘陵地帯へ辿り着いていた。


 草木はあるが、東の森のように深く生い茂っているわけではない。

 地面は乾き、あちこちで岩肌が露出している。

 高低差の激しい斜面が続き、崖のように切り立った場所には、地層がくっきりと縞模様を描いていた。


「……着いた、のかな」


 ヴァニラが杖を握りながら呟いた。

 その声には、明らかに疲労が混じっている。


 無理もない。

 ここに辿り着くまでに、銀鍵同盟は何度もオークの群れと遭遇していた。


 オーク隊長(リーダー)一体――160SP。

 オーク戦士(ソルジャー)三体――各80SP。

 通常オーク八体――各40SP。


 合計、720SP。


 数字だけ見れば、順調すぎるほど順調だった。

 だが、移動と戦闘を繰り返せば、当然疲労は溜まる。


 ゼストは後方から三人を見て、内心で息を吐く。


「疲れてはいるが……まだ目は死んでねえな」


 三人とも疲れている。それは間違いない。

 だが、下を向いてはいなかった。

 むしろ、出発前よりもEランク昇格への想いが強くなっているように見えた。


「もう少し歩いたら少し休もう」


 ゼストが言った。


「この先はいつ本命とぶつかってもおかしくない。水分を摂って、呼吸を整えておくんだ」

「賛成……」


 ヴァニラが即答した。


 それから少し移動すると、岩場の奥から水音が聞こえてきた。


 ざああ、と流れ落ちる音――滝だ。


 カレンが耳を澄ませる。


「水場?」

「たぶんな。休憩がてら確認しよう」


 ゼストは簡易マップを取り出し、周囲の地形と照らし合わせる。


「大きな川じゃない。崖沿いの滝かもしれないな」

「水を補給できるなら助かるね」


 レスターが言う。


「ただし、慎重に行くぞ」


 ゼストは声を低くした。


「水場には魔物も寄る。こっちが休みたい場所は、敵にとっても使いやすい場所だからな」


 三人は頷き、足音を抑えて進み始めた。


 岩肌の間を抜ける。

 乾いた草を踏む音すら、やけに大きく聞こえた。


 滝の音は近づくにつれ、はっきりしていく。

 水の匂い。

 湿った土の匂い。

 日差しで熱を持った岩場の空気の中に、少しだけ冷たさが混じる。


 そのときだった。


「――待て」


 ゼストが短く制した。

 三人は即座に止まる。


 ゼストは岩陰に身を寄せ、ゆっくりと前方を覗いた。


 崖の上から細い水流が落ち、小さな水場を作っている。

 その周辺は開けており、岩場に囲まれた天然の広場のようになっていた。


 そして、そこにはオークの一団が。


 その中心に立つ個体を見た瞬間、ゼストは目を細めた。


 通常のオークより、明らかに大きい。

 肩幅も、腕の太さも、纏う威圧感も違う。

 手には巨大な戦斧。

 身体には獣皮と粗末な金属片を組み合わせた防具を装備している。


 そして、右目。そこに、縦に走る古い切り傷があった。

 報告書に記されていた特徴と一致する。


 ――間違いない。


「あれが、オーク族長(ヘッド)だ」


 ゼストが小声で告げる。


 オーク族長(ヘッド)の周囲には、さらに四体のオークがいた。


 通常オークではない。

 体格と装備から見て、オーク隊長(リーダー)だ。


 つまり構成は、オーク族長(ヘッド)一体。

 オーク隊長(リーダー)四体。


 周囲にオーク戦士(ソルジャー)や通常オークの姿はない。


 ゼストは周辺をよく見る。

 岩陰、滝の裏、上段の足場。


 少なくとも、すぐ目に見える範囲に伏兵はいない。


 ――圧倒的物量はない。


「絶好のチャンスだな」


 ゼストは小さく呟いた。

 カレンが横目で見る。


「やるの?」

「その前に確認だ」


 ゼストは三人に向き直る。

 声は低く、しかしはっきりしていた。


「昨日の160SPと今日の720SPで、既に880SPは積み上げてる。この状況なら、隊長(リーダー)一体さえ倒せば目標はクリアだ」


 沈黙が落ちる。


 任務そのものは失敗するが、任務外SPは当然獲得できるため、Eランク昇格には間に合う。

 だから、無理に族長と戦う必要はない。


 ゼストはそれを分かった上で訊いた。


「どうする?」


 カレンは、即答した。


「――冗談やめてよ」


 彼女は岩陰から、オーク族長(ヘッド)を真っ直ぐ見る。


族長(アイツ)も取り巻きも全部倒してEランク昇格。これ一択でしょ?」


 怖さがないわけではないだろう。

 それでも、その声は震えていなかった。


 レスターも静かに頷く。


「やろう」


 彼は大盾に手を添えた。


族長(ヘッド)クラスも倒せるってことが、これからの僕たちにとって確かな自信になるはずだから」


 ヴァニラも杖を抱え、深く息を吸った。


「私も、その覚悟でここまで来たんだもん……!」


 ゼストは三人の顔を見た。


「分かった」


 ゼストはロッドを握り直す。


「いつでも回復の準備はできている。自信を持って行ってこい」


 その言葉に、カレンは小さく頷いた。

 そして、すぐに表情を切り替える。


「まずは私とヴァニラでオーク隊長(リーダー)どもを蹴散らす」


 カレンは小声で、だが力強く指示を出す。


「その間、レスターはオーク族長(ヘッド)を止めて」

「了解」

「分かった」


 カレンが一瞬、ゼストを見る。


 ゼストは何も言わずに頷いた。

 それで十分だった。

 カレンも頷き返す。


「じゃ――行くよ!」


 三人が、一斉に岩陰から飛び出した。


 真っ先に反応したのは、オーク族長(ヘッド)だった。

 右目の傷を歪ませるように顔を上げ、人間たちの存在を捉える。


『グォオオオオオオオオッ!』


 腹の底に響くような雄叫び。

 それは周囲のオーク隊長(リーダー)たちへの警戒指示(アラート)だった。


 四体のオーク隊長(リーダー)が、一斉にこちらへ進撃してくる。

 地面が揺れた。


 通常オークとは違う。

 装備も、足運びも、圧も、一段上だ。


 レスターが大盾を構えながら叫ぶ。


「カレン!」

「作戦通り!」


 カレンは前を見据えたまま叫び返す。


「こいつら無視して行って!」


 レスターの足が、一瞬だけ止まりかけた。


 目の前のオーク隊長(リーダー)を素通りする。

 それは、後ろのカレンとヴァニラに危険を預けるということでもある。


 仲間思いのレスターにとって、一番難しい判断だ。


 ――だが。


「……っ!」


 レスターは迷いを振り払った。

 最接近していたオーク隊長(リーダー)が斧を振り上げる。


 その直前、レスターは踏み込んだ。


「はぁっ!」


 大盾によるシールドバッシュ。

 鈍い音が響き、オーク隊長(リーダー)の巨体が横へ弾かれる。


 レスターは優しげな顔立ちをしているうえに、普段の物腰も穏やかだ。

 しかし、背丈は高く、その身体には厚みがある。


 ――つまり、彼は生粋のタンク体型。

 やろうと思えば、これくらいのパワープレイもできる。


「通してもらう!」


 レスターは吹き飛ばしたオーク隊長(リーダー)には追撃せず、そのままオーク族長(ヘッド)へ向かって走る。


 自分たちの族長(ヘッド)へ近づく人間を止めようと、残りのオーク隊長(リーダー)たちが振り返った。


群爆火炎(レギオン・バースト)!」


 ヴァニラの声が響く。

 杖先から、複数の火球が生まれた。


 中サイズかつ中火力のそれが、正確に四方向へ放たれる。


 火球がオーク隊長(リーダー)たちの進路へ着弾した。

 爆ぜる炎、舞い上がる土煙。

 熱と衝撃が、隊長たちの足を止める。


「よし……!」


 ヴァニラは小さく拳を握った。


 爆炎の向こうから、オーク隊長(リーダー)たちが怒号を上げる。

 まだ倒れてはいないが、動きは乱れた。


 カレンが剣を構え、口元を吊り上げる。


「盤面は整ったわね」


 その前方では、レスターがついにオーク族長(ヘッド)の前へ辿り着いていた。


 族長が巨大な戦斧を持ち上げる。

 レスターは大盾を構え、足を踏みしめた。


 後方では、カレンとヴァニラの前に、分断されたオーク隊長(リーダー)たちが立ちはだかる。


 ゼストは岩陰から全体を見渡し、ロッドを握った。


 ――ここからが本番だ。


 銀鍵同盟にとって、初めての族長(ヘッド)クラスとの戦い。


 その幕が、今まさに上がった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ