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第11話 一攫千SPの遠征に向けて

 贅沢な肉料理を楽しんだ夜から、さらに十二日が過ぎた。


 その間、銀鍵同盟はゴブリン一体につき10SPの討伐任務から、ホブゴブリン、コボルト、そして一体40SPのオークへと、少しずつ相手の格を上げていった。


 そして今日。


 勇者協会第77支部の掲示板前に、彼らは立っていた。

 壁には、週ごとに更新されるランキング表が貼り出されている。


『Fランク256位 銀鍵同盟 4,083SP』


 その文字を見て、ヴァニラが両手をぎゅっと握る。


「256位……!」


 声が少し震えていた。


 ほんの少し前までようやく六千位台に入ったことを喜んでいたパーティが、今やFランク上位3%付近。

 もはや第77支部の中だけの噂では済まず、アマチュア勇者の間でも銀鍵同盟の名は少しずつ知られ始めていた。


「急上昇って感じだけど、まだ先は長いわね」


 カレンは腕を組みながら言った。


「そうだね。でも、ここまで来たんだ」


 レスターが穏やかに頷く。


「前の僕たちなら、考えられなかった順位だよ」

「だよねぇ……前は下の方から探してたのに、今は上から探した方が早いんだもん」


 ヴァニラはランキング表を見上げたまま、しみじみと呟いた。


 ゼストはEランクの掲載箇所に視線を移し、その最下位付近を追った。


『Eランク3,833位 草笛の旅団 5,020SP』


 ゼストは小さく息を吐く。


「……思ったより低いな」

「低い?」


 レスターが首を傾げる。


「当初、俺はEランク昇格ボーダーを六千前後だと見てた」


 ゼストは指で表の一番下を示す。


「でも、今のEランク最下位は約五千。シーズン中盤だからだろうな。終盤になればもっと上がる」


 シーズン序盤から中盤にかけては、昇格ボーダーがまだ固まりきっていない。

 そのため、この時期なら入れ替わる余地がある。


 ゼストの声が少しだけ低くなる。


「一か月以内にEランク昇格……そこに間に合わせるなら、残り四日間で1,000SPを積み増す必要がある」


 普通のFランクパーティなら、現実的ではない数字。

 しかし、ただ数をこなせばいい段階はとうに過ぎていた。


「……リスクを承知で、獲得SPの高い任務を受けるのもアリだ」


 ゼストのその言葉で、三人の表情が引き締まった。


 この二週間、銀鍵同盟は確かに強くなったが、今までの任務はゼストが難易度を調整しながら選んでいた。


 ここから先は昇格を掴むために、明確に一段上の危険へ踏み込む必要がある。


「メイさん」


 ゼストは受付窓口の方へ振り返った。


 ちょうどメイが、書類を抱えてこちらへ歩いてきていた。

 いつも通りの無表情。

 だが、その手には一枚の依頼書がある。


「用意しておきました」


 メイはそう言って、依頼書をゼストに差し出した。


 ゼストは依頼書を受け取り、目を通す。

 そこには、討伐対象の詳細が記されていた。


 オーク族長(ヘッド)、一体――320SP。

 オーク隊長(リーダー)、五体――各160SP。

 獲得見込み――1,120SP。


 ゼストは依頼書から顔を上げた。


「オーク……しかも族長(ヘッド)クラスか」


 その言葉に、カレンの眉がぴくりと動く。


 オークは単体でもFランクにとっては十分な脅威だが、この任務ではその上位個体であるオーク族長(ヘッド)も倒さなければならない。

 知力、体格、膂力、耐久力……当然、通常のオークとは一線を画すレベルだ。


「本来なら、Eランク上位かDランク下位のパーティに回す内容ですが、銀鍵同盟は直近二週間で実績を積み上げている成長株ですので……」


 ……つまり、このレベルの任務を優先して回しても、露骨な贔屓には見られにくいということだろう。


「もちろん、強制ではありません。受けない判断も妥当ですが……」


 メイは四人を見た。


「今回の任務は、東の森を越えて北上する三日間の遠征になります。明日出発しなければ、目標期間内の達成は難しいでしょう」


 三日間の遠征。

 その言葉が、四人の間に重く落ちた。


 ゼストは依頼書を畳み、三人の方へ向き直る。


「今、ここで決めよう」


 声は静かだった。


「目標に間に合わせるなら、この任務を受けるしかない。だが、当然リスクは高い」


 ゼストは一人ずつ目を見る。


「回復魔法で怪我を癒すことはできる。切り傷も打撲も、ある程度ならどうにかなる」


 そこで一度、言葉を切った。


「でも、疲労感や心労までは治せない」


 ヴァニラが小さく息を呑む。


「荷物を背負っての長時間歩行、野営、討伐対象以外の敵とも当然遭遇する。慣れないことが続けば、普段ならしないミスも出る」


 勢いだけで受けていい任務ではない。

 Eランク昇格のために命を落とせば、何の意味もない。


「だから、よく考えてほしい」


 しばらく沈黙が落ちる。


 最初に口を開いたのは、カレンだった。


「……族長(ヘッド)クラスとは、遅かれ早かれ戦うことになる」


 彼女はゆっくりとゼストを見る。


「どこまで通用するのか――試してみたい」


 その声に、いつもの勝ち気なだけではないものが混じっていた。


「もちろん、二人が良ければだけど」


 最後にそう付け加えたところに、以前とは違う成長があった。


 昔のカレンなら、自分の勢いだけで突っ走っていたかもしれない。

 だが今は、仲間を見る余裕がある。


 レスターが自分の大盾に手を置いて、穏やかに頷いた。


「うん。僕も賛成だな」


 ヴァニラは二人の顔を見て、それからゼストを見た。


 少し唇が震えている。

 それでも、杖をぎゅっと握り直した。


「私も!」


 思ったより大きな声だった。

 本人も驚いたように一瞬目を丸くする。


「私も、行きたい。怖いけど、ちゃんと目標を達成したいから」


 オーク族長(ヘッド)討伐の遠征任務を前にして、自分の意思で進むと言っている。

 そんな三人に、ゼストは口元を緩めた。


「決まりだな」


 そして、メイの方へ向き直る。


「メイさん。銀鍵同盟は、この任務を引き受けます」


 メイは一瞬だけ、四人を見つめた。

 それから、依頼書を受け取り、判を押す準備をする。


「承りました」


 だん、と一つ。


 任務受諾を示す判が、依頼書に押された。


「出発は明日早朝。支部から簡易地図と周辺情報を渡します。今日は準備に使ってください」

「助かります」


 ゼストが礼を言うと、メイは淡々と続けた。


「それと、無理はしないでください」


 いつもの事務的な声だったが、その言葉には少しだけ温度があった。


 ゼストは軽く笑った。


「ちゃんと、四人で帰ってきます」

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