第四章:日曜日、ポーカーゲームとコーラの瓶
平岸の店の「白」は、決して潔白を意味するものではなかった。
昼間の店内には、カチャカチャという珈琲カップの音に混じって、ピコピコという無機質な電子音が響いている。テーブル代わりのポーカーゲーム機。客たちは画面上のトランプに一喜一憂し、その裏では法を嘲笑うように現金がやり取りされていた。
時折、瞳孔の開いたうつろなカップルが隅の席で泥のように沈み込み、夜になれば艶やかな二人の女が、SMショーの悦楽を披露する。ここは、清潔な顔をした迷宮だったのだ。
「……聞いたか? 55(ゴーゴー)で組の名前を騙ってたガキ、本物に後ろから肩叩かれて、そのまま事務所に連行されたらしいぞ」
そんな物騒な噂話を笑い飛ばしていたある日曜日の昼下がり、マスターがいつになく低い声で僕たちに声をかけた。
「君たち、ちょっとドライブに行かないか。人数が必要なんだ」
僕と、酒屋の坂田さん、そして電気技師の藤田さん。いつものメンツは顔を見合わせ、マスターの黒いセドリックに乗り込んだ。向かう先は、隣町の澄川。まだ開店前の、静まり返ったスナックだった。
目的地に着く直前、車を降りた坂田さんが、店の前に積んであったコカ・コーラの空き瓶を一本、無造作に拾い上げた。そしてそれを、事もなげにスボンの後ろポケットに隠し持ったのだ。
「……坂田さん、それ?」
僕の問いに、坂田さんは小説の登場人物のような、どこか達観した笑みを浮かべて答えた。
「これかい? 念のためさ。割ればそれなりに『話』が早くなるだろ」
小説で描くプロの暗殺者なら、45口径のガバメントを抜く場面だ。しかし、僕の目の前にいるのは、いつもの酒屋の店長。その彼がコーラの瓶を「凶器」に変えて、澄川の薄暗い路地を歩いている。
18歳の僕は、自分の鼓動がうるさくて仕方がなかった。
マスターの背中は相変わらず「粋」だったが、その足取りは、これから行われる「交渉」の重さを物語っていた。
スナックの重い扉を、マスターがゆっくりと押し開ける――。




