第45話「偵察班②(御堂 聖、原田浩二、早川、木下)」
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雑談もそこそこに、早川さんが壁に背中を預けて腕を組んだ。
「んじゃ、ざっと説明すっか。偵察班は四人一組で動く。で、今いるのが俺と麻衣の二人だけだ」
「え、原田さんは──」
「あ、俺もまだ来たばっかりだよ?」
原田さんが手を挙げる。
「だな、おっさんも新米ってこったな」
へへっと早川さんが笑う。
「一昨日……」
つまり原田さんも僕と同じ補充要員ということになる。四人一組と言っているのに今いるのは早川さんと木下さんだけ。
ってことは──
「前の二人はどうしたんですか」
僕が聞くと早川さんの表情が固まった。木下さんが小さく俯く。
「──やられた」
早川さんは短く言った。
「十日くらい前だ。新目白通り沿いのドラッグストアに包帯とか消毒液とか漁りに行った帰りにな。鳥の怪異に襲われた」
「鳥……」
「鴉みてえなでけえやつが三、四羽。上から来た。先に歩いてた奴がまず頭を持っていかれて、頸がちぎれかけた状態でそのまま倒れた。もう一人は背中を抉られてなぁ……本当にでかい鳥だったんだよ。こんなご時世だろ? カラスやら鳩やら雀やら……そういうよくいる鳥も変に狂暴化したりするんだが、あの鳥はそんな生易しいもんじゃなかった」
「……二人とも、その……」
「ええ、二人とも」
答えたのは木下さんだった。
今の東京はこういう事が普通に起きるのだと頭では分かっているけれど、なんというか気持ちが重くなっちゃうな。
「俺と麻衣は後ろにいたから助かった。あいつらが囮になったっていうか──まあ、そんなつもりはなかっただろうけどな」
早川さんは視線を落とした。
「そういうわけで人が足りなくなって、小野田のおっさんが原田のおっさんと御堂を見つけてきたってわけだ」
「……うへぇ」
原田さんが引きつった声を出した。気持ちは分かる。
「だから危ない仕事だって最初に言ったろ。配給が増えンのもそういう事だ」
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「で、役割な」
早川さんは気持ちを切り替えるように話を進めた。
「俺が念動で瓦礫をどかしたり道を確保したり。麻衣が万が一のときのヒーリング。御堂が浮遊霊を使った偵察。で、原田のおっさんが毒見」
「毒見?」
「俺ね、食べられるものかどうかが分かるの」
原田さんが割り込んだ。
「腐ってるかどうか、とかですか?」
「そうそう。コンビニの跡とかスーパーの跡とかで缶詰とかレトルトとか拾ってくるじゃない? でも中身が大丈夫かどうかって見た目じゃ分かんないでしょ? 破損してたりとか変なモノが混ざってたりとか。俺はそれが分かるの。触ったり匂い嗅いだりすると安全かどうかが判別できるっていうか」
「でもそれって──」
賞味期限とか消費期限を見れば分かる事じゃないだろうか?
「今、御堂君は“賞味期限で分かるんじゃないか”と思ったね!」
原田さんは変なポーズで僕を指さしながら言う。
うっ、と僕はたじろぐ。
「ん~、御堂君は黄泉戸喫って知っているかな?」
「知ってます。黄泉の国の食べ物を口にしたらもう現世には戻れなくなるっていう──古事記のイザナミの話ですよね」
オカ研で裕に散々聞かされた話だ。
「おお! 話が早い! そうそうまさにそれなの。怪異がいた場所の食べ物ってさ、見た目は何ともなくても霊的に汚染されてる事があるんだよ。賞味期限とか缶の凹みとか関係なくてさ。食べると腹壊すくらいならまだマシで、ひどいと高熱出したり幻覚見たりする。もっとひどいのは──まあ、俺も詳しくは知らないけど」
「つまり、賞味期限じゃ判断できないってことなんですね」
「そういう事! 俺はそういうのが判別できるの。触っただけで分かる」
それはすごい、けれど。
あれ? 原田さんの異能ってそんな異能だったっけ?
原田さんは確か──。
「まあ戦闘は全くダメなんだけどね!」
原田さんが被せる様につづけた。なんだろう、まるでその事を聞かれたくないみたいだ。気のせいだろうか……いや、気のせいじゃない。何というか、匂いとも色とも違うんだけど、そういう感じがする。
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顔合わせはそれで一旦お開きになった。
明日の早朝に最初の探索へ出る事が決まり、早川さんは「飯食ったらさっさと寝ろ。疲れてるとろくな事にならねえ」と言って木下さんと一緒に去っていく。
僕と原田さんは階段を並んで降りた。
二階に差し掛かったあたりで原田さんが不意に足を止めた。
「……御堂くんさ」
「はい」
「さっきの異能の話なんだけど」
声が急に小さくなる。辺りを窺うように首を左右に振ってから僕の方にぐっと顔を寄せてきた。眼鏡の奥の目が妙に真剣だ。
「ですよね……」
「まあ食べ物が安全かどうか分かるっていうの、あれは──嘘ってわけじゃないんだけど、本当の事は話すなって三鷹さんに言われているんだ」
原田さんは辺りをもう一度確認してから、ポケットに手を突っ込んだ。
「三鷹さんってあのちょっと怖そうなお兄さんですよね?」
「うん……まあ実際怖いんだけど、怒ると。いや、理不尽に怒ったりはしないよ?」
原田さんの声がさらに落ちる。
「で、三鷹さんがさ、『食い物に困らねえ異能は嫉妬される。食べ物の安全が判断できるって事にしとけ』って。確かにそうだよねぇ。みんなカツカツで乾パン分け合ってるのに、俺一人だけ石食って平気ですなんて言ったら感じ悪いじゃん」
──なるほど。
この避難所では食料の配分が最もデリケートな問題だ。配給を巡る揉め事が起きている事は水谷さんの話からも聞いている。そこに「自分は何でも食えます」という人間がいたら、面倒な事になるのは想像に難くない。
「だからこれは内緒ね? 早川さんと木下さんにも言ってないの」
「分かりました」
「いやぁ御堂くんにはさ、なんか話してもいいなって思って。いや、口が軽いってわけじゃないんだけどなあ、うーん」
原田さんは腕を組んでウーンと唸っていた。




