第46話「偵察班③(御堂 聖他)」
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偵察は早速明日行くらしい。ちなみに僕ら以外にも複数の、なんというか偵察向きの異能持ちの人たちがチームを組んで周辺を捜索するんだとか。
明日かぁ。
緊張するけれど原田さんとは顔見知りだし大丈夫かも。
「じゃあ御堂君、明日はよろしくね!」
「じゃまたなー」
そう言って各々立ち去っていく三人を見て、僕はふうと息をついた。
なんだか色々環境が変わって、やるべき事ができて──ちょっと疲れたな。
ちなみにここでは偵察とか以外にもやる事が全くないっていうわけじゃない。避難所内の見回りや掃除、あとは配給の手伝いとか色々ある。あとは充電作業かな。ここは大型の手回し発電機があって、交代でぐるぐるとハンドルを回したりする。
ポットとか小型のIHコンロとかを、電気がないと使えないからね。テレビもあるけど言うまでもなく映らない。電波が必要な電子機器は全滅だ。ラジオも駄目だね。
それと改めて感じているけれど──座りが悪いというか。時間の区切りが曖昧なかんじが何気にしんどい。この感覚は東京がこうなってしまってからずっと続いている。
原因は空だと思う。
今東京は朝も昼も夜も毒々しい紫色の空が広がっているのだけれど、そのせいで時間の感覚が曖昧になってしまう。
それでもアナログの時計だったりで、なるべく生活リズムを崩さないようにはしているんだけれど。
何がどう辛いとはっきり言えるわけじゃないんだけれど、とにかくふんわりと辛い。
娯楽がないのも原因なのかも。
このビルは元は予備校なんだけれど、予備校に娯楽用品なんてないからね。だからみんな少しずつストレスをため込んでいっているみたいで、雰囲気はちょっとぴりぴりしているなと感じる事もある。
そのせいかな、知らない人同士が何となく顔を覚え、何となく挨拶を交わし、何となく身の上話を始めたりっていうのが多い。それがこの場所のささやかな慰めになっているみたい。
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「よう、新入りさん」
声をかけられて顔を上げる。
「あ、こんにちは。ええと、御堂です」
そう言って頭を下げる。声をかけてきたのは日焼けしたおじさんだ。おじいさんってほどの年じゃないとおもう。大工さん! ──って感じの外見だ。
「おす、俺ぁ松堂ってンだ。兄ちゃんはどっから来たンだい」
「池袋の方からです」
「池袋ぉ? 兄ちゃん、よく無事だったなあ。あの辺は物騒どころじゃないだろ。川崎とか蒲田とか……その辺も愚連隊みたいなのがいるらしいけどよう、池袋は一等やばいって話じゃねえか。……あれ? 川崎って神奈川だったか? まあいいか!」
おじさんはそう言って、僕の隣に座った。悪い感じの人じゃなさそうだ。
「御堂の兄ちゃんは一人なのかい?」
「はい」
「ご両親はどうしたのさぁ」
「父と母は今は別のところで。離れ離れで」
「そっかぁ。そりゃ大変だなあ」
「松堂さんは、ええと──」
ご家族は? って聞いてもいいんだろうか。まあ僕も聞かれたわけだから聞いていいのかもしれないけど、もし亡くなっていたりしたら気まずいなあ。
なんて考えていると──
「俺の家族かい? 幸いに、といっていいのかなァ。丁度仕事でコッチに来ててね、家族は千葉の家にいるよ。なんとか生きて還って、嫁さんに逢いたい所なんだがねえ」
はあ、とため息をつく松堂さんに、僕は何と言っていいかわからなかった。
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松堂さんとのおしゃべりの後、トイレに行くと──。
廊下で母子連れとすれ違う。
お母さんのほうはまだ若そうだ。手を引かれている子は四歳か五歳の女の子で、薄ピンクのトレーナーがところどころ汚れていた。
「ねえママ、あのお兄ちゃ──」
子供が口を開きかけた瞬間、お母さんの手が女の子の肩を掴んで自分の体の陰に滑り込ませた。こういう反応はちょっとショックだったりする。でも震災の時も色々あったらしいし、避難所で異性を警戒するのは仕方ないのかな。
「ほら、こっち」
お母さんは早口でそう言うと、まるで逃げる様にしてどこかへ行ってしまった。
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◆◆◆
御堂 聖がまだ自身の異能、あるいは異常を自覚していなかった頃、彼は何もしていないというのに一部の生徒から嫌われていた事がある。
露骨に態度に出す者、態度には出さないものの、明らかに聖を避けている者──様々だが、無能力者であるという理由では説明できないくらい負の感情を引き出していた。
まあ無理もない、世は異能全盛時代だ。
総理大臣からして異能を持つ者を「優なる者」とし、優遇政策を取っている様なトンチキな時代である。無能力者であることは明確なハンディでもあった。そういった世情では、無能力者である聖への視線がや厳しいものになるというのは説明として無理がない。
だがそれと対照的に、やけに聖の肩を持つ者たちもいた。
そういった者たちに共通しているのは、いつのまにか聖とそこそこ親しくなっていたという事実だ。とはいっても、友達未満単なるクラスメート以上というような感じではあったが。
奇妙な点は他にもある。
本人たちにも聖の何に、どこに好感を抱いたのか判然としないというのだ。最初は見下すような思いがあったがしかし、話しているうちにそういった思いは氷解してしまったという。
リアルな人間関係は、そんなゲームの様に話しているうちに好感度を向上させられるようなものではない。ないのだが──事実としてそうなっている。
特に親しい数人は聖に近づく理由があったのだが、それはそれとして、御堂 聖という少年には何かがあった、あるいはある事は間違いない。
それが良いものか悪いものかは今の段階では定かではないが──。




